(17)うむ、任された、なのです。
てくてく歩けばそこはコルリスの酒場。コトコトゴトゴト音がしているので、今はまだ準備中です。
今もきっとディナ姉が、お店の準備をしているのでしょうけれど、邪魔をするのは迷惑なのです。
とことこ坂を登ればそこは冒険者協会。今日もリダお姉さんは受付に居るのでしょうかと覗いてみれば――
「ディ~ジ~~……やっと、出てきたわね~~……」
据わった眼で待ち構えていたリダお姉さんと、鉢合わせてしまいました。
どうしてリダお姉さんは怒っているのでしょう?
理由が少し分かりません。
「暫く引き籠もるって言いましたよ!?」
でも、リダお姉さんの目が据わっているのは、そういう事では無かったのです。
「毛虫が鬼族だなんて、分かっていたら報告しないと駄目でしょー! それに、
これは、ゾイさんの仕業ですかね!?
何だかとってもやばいのですよ!
「毛虫が
正直に言ったのに、リダお姉さんの興奮が止まらないのです。
「何で
でも、これは八つ当たりというものなのです。
「け、毛虫ぐるみは可愛く作ってみたんだって、言いましたよ!」
「形が全然違うじゃないのよー!!」
もう、鼻息がもの凄いのです。んふーっと空気が吹き出しているのです。
いつの間にか、胸の前に伸ばしていた右手の人差し指と中指を、ハッと左手で抑えました。私の右手が疼くのですよ。
ディジーリア、ここは我慢なのです。我慢なのですよ!
理不尽な糾弾にはつい余所事を考えてしまうのは悪い癖ですが、そんな悪癖に気が付いてしまう悪い子仲間がどうやら近くに居たようです。
「ブッフゥウウーーー!!」
鼻とお腹を押さえてしゃがみ込むゾイさんの目は、しっかり私の右手を捕捉しています。
こんな事に気が付くなんて、笑っている場合では無いのですよ?
交わす視線に意思を込めると、ゾイさんは
「お? 何や、おるや無いか」
「ちょっとー! 今はあたしがお話してるのよー!?」
「んな下らん話はどーでもえーわ。そんな事より、ほれ、この前の礼な」
グディルさんが肩から下ろして、手渡してきた袋の中には、細々とした道具が色々と入っていました。受付の見える隅に寄って、袋の中を確かめます。
「ま、冒険者の必須道具や。
薬丸っていうのは、見た通り薬草を擂り潰して丸めた物で、飲めば毒消し、指で潰せば塗り薬として使える優れものです。包帯とかは見ての通り。火打ち石や磁針はリダお姉さんに貰った事が有りますが、火打ち石を使うより『根源魔術』で「活力」を与えて火を付ける方が早いですし、磁針は裁縫セットと入れ替えてしまっていたのです。後でリダお姉さんから貰った磁針も、腰の小物入れに入れておかないといけません。
砥石はこの街で手に入る物では、私の装備には役に立たないでしょう。リダお姉さんもそれを知っていて、初めての採集に出掛ける時のプレゼントには加えていなかった様に思います。
濾し布というのも何となく分かる様に思います。名前からして、水を飲んだり薬草を煎じたりするときに、濾す物に違い有りません。
ロープと言いながら平紐の様な細さに驚きましたが、これで私の重さを支えられる位に強いのでしょうか? だとしたら、とても便利な様に思います。
ですが、それ以外が良く分からなかったのです。
「醒石って何ですか? ロープはどれくらいの重さに耐えられますか? それと、楔とか小槌って、何に使う物なのでしょう?」
食い入る様に見詰めながら、続けて質問を投げましたけれど、グディルさんは初めから全部説明するつもりだったようです。
「ちょお待てや、ちゃんと説明すっから」
ここまで、苛立ちながらもグディルさんを珍しいものでも見る様に見ていたリダお姉さんが、待ったを掛けました。
「ちょ、ちょっとー!? 火打ち石と磁針は、ディジーに渡したわよー!?」
グディルさんが、一度リダお姉さんの顔を見てから、私に目を向けます。
「ひ、火打ち石は有りますよ。針の様な物も有りましたけれど、糸を掛ける凹みも付いていなかったので、ちゃんとした裁縫セットと入れ替えていたのですよ」
「……あー、そりゃしゃーないな」
「え、ええ、仕方が無かったのです」
リダお姉さんが、「ディジー!?」と名前を呼んで騒いでいますけれど、グディルさんは説明を続けます。
「ま、既に持ってんのも予備やと思うて貰っとけ。薬丸、包帯、ロープ、火打ち石、砥石、磁針、濾し布はええか? 一応
で、見張りとかどうしても起きてなあかんときには醒石を舐める。飴玉とちゃうから、噛んだり飲んだりすなや、腹壊すで。楔と小槌は有ったら便利っちゅーもんやから、崖登る時にでも好きに使い」
「ほうほう……寝袋とか天幕とかは有りませんかね?」
「おまっ…………何処まで突っ走る気やねん!?」
まぁ、一月近く前にリダお姉さんに用意して貰った道具類も、日帰りの採集用でしたけれど、グディルさんの用意してくれた必須道具も、日帰りの討伐依頼に必要な物だけな感じです。
やっぱり、天幕と寝袋は自分で用意しないといけない様ですね。
「駄目よっ! ディジー、泊まり掛けなんてーっ!!」
リダお姉さんは騒ぎますけれど、いつか行くものなら、今から用意しておいた方がいいのです。
私の冒険者に成る為の準備は、六歳から始めていたのですからね?
「やっぱり、森の奥へ行くなら、ガズンさん達に聞いた方がいいですかねぇ?」
「森の奥になんて、行っちゃ駄目よーっ!! ふぐっ……むー……むぐぐっ……」
あ、リダお姉さんがゾイさんに後ろから捕まえられてしまいました。ゾイさん、「まーまー」と言いながら取り成してくれるのは助かりますけど、顔が凄いにやけてますよ?
グディルさんも呆れたようにゾイさんを見遣りましたが、そのまま話を続けます。
「ガズンさん達はまだ戻って来てへん。まー、野営するなら煮炊きの道具は要るんとちゃうか? ダニールさんが軽銀の鍋を背負い袋に引っ掛けていた様な気がするわ……。後は虫除け、魔物避け、匂い消し?」
ダニールさんは、ガズンさんのパーティにいる魔術師のお姉さんです。でも、いつもコルリスの酒場で馬鹿笑いしているところしか見た事は有りません。
ゾイさんが、リダお姉さんを捕まえながら、補足しました。
「消毒、火付け、気付け、用の、強い酒にィッ、奥に、行くならッ、地図は、必須だナゥアッ!?」
リダお姉さんが、ゾイさんに肘を入れて、足払いをして転がしました。
分かっていましたけど、リダお姉さん、結構強いです。
でも、その後の言葉に、私はぎょっとして目を見開いてしまったのです。
「駄目ったら駄目ー!! 地図は渡さないからねー!!」
リダお姉さん
「どうしてそんな事を言うんですか? お姉さんも、私が冒険者に成るのが嫌だったのですか?」
それは少し哀しい事なのです。
でも、リダお姉さんも、父様と同じ様に、手の平を返すのでしょうかと思いましたけれど、どうやらそうとも違う様です。
「心配なのよー!!」
泣きそうな顔で言っていますけれど、つまりはリダお姉さんも私の事を、子供扱いしているという事なのでしょうか。
それはそれで業腹なのですよ?
だから、私は言ってやったのです。
「ふぃ~~。こんなに夢中にさせてしまうなんて、私も罪な女だった様ですね。でも、冒険者の生き様に、惚れた腫れたは無粋だぜ? 分かっておくれよベイベー」
よく有る台詞ですが、本当のところは冒険者って惚れっ早い様な気がします。
ガズンさんはいつでもディナ姉を口説いていますし、冒険者協会の中でも
「そんな事を言っても、駄目ー!!」
それにしても、リダお姉さんはどうしてしまったというのでしょう?
体を起こしたゾイさんも、ポカンとして見上げていますし、グディルさんは苦虫を噛み潰したような顔をしています。
冒険者協会の中に居た冒険者達も、なんだなんだと集まってきてしまっていましたので、効くかどうかは分かりませんが、薄く私達の周りを魔力で覆って、風を遮って音を消して、『隠蔽』が効くように魔力的にも遮断しました。
すると少しは視線の圧力が減ったような気がしますので、少しは『隠蔽』が効いているのだと期待をするのです。
「そんなこと言わずに、お
「駄目ったら、駄目ー!!」
何だか、リダお姉さんは、混乱の極致に在るようです。「駄目」としか言わなくなってきました。
「何や、お前って、結構
今はグディルさんの方が、余程話が通じますね。
ですけれど、ふふふふふ、私の可愛い子が見たいのですね?
と、私は腰から鞘ごと【妖刀】毛虫殺しを抜き取って、胸に抱えて頬摺りしながら、居並ぶ面々を見渡しました。
「おらの可愛い毛虫殺しが、毛虫の血を求めて
そう言って、抱えていた毛虫殺しを両の掌に載せて捧げてみると、なんと! 私が動かそうとする前に、掌の上でカタカタと激しく震えました。
私も「おお!」と目を見開きましたが、覗き込もうとしていた三人も、二歩は後ろに後退りました。
『隠蔽』の範囲外に出そうな三人に少し焦りましたけれど、何とも
「おいおい、それええんか!? アカン奴とちゃうんか!?」
「何を言うかと思えば……私が鍛えた私の刀なんですから、悪さなんてしませんよ? 悪い子になりそうなら、ちゃんと躾けますので大丈夫です」
「は? 鍛えたって? 何やどういう事やねん!?」
「鉄を熔かして鎚で叩いて鍛えたのです。――という事で、この砥石はお返ししますね? 多分この砥石では、もう傷も付かないと思いますから」
「何やエラい……冒険者やるよりそういうの作ってる方が合ってへんか?」
「もぅ。私は冒険者に成ると決めたのですから、そういう事は言わなくていいのです」
「……まー、分からんでもないわな」
グディルさんは、色々な諸々を呑み込んで、納得してくれたみたいです。
言いたい事が有っても、そこのところは冒険者は自己責任なのですから、無遠慮に踏み込んできたりはしないものなのです。
きっと、グディルさんも、いい冒険者に成るに違い有りません。
そんな風に、理解を深め合っていた私達を傍らに、ゾイさんは顔を引き攣らせながら、どんどん雰囲気を険悪にさせていくリダお姉さんの後ろに回り込んでいました。
飛び掛かってこようとしたリダお姉さんを、直前で捕まえたのは、流石と言うしか有りません。
「そんな危ない物持ってちゃ駄目ー!! 没収よーっ!!」
でも、リダお姉さんは、何だか冒険者っていう感じじゃ有りませんね?
「何言うとんねん、アホか?
グディルさんは誰に対してもぶれません。
「糞いおっさんに啖呵切ってんの見た時は見直したけど、なんや糞いおっさんと変わらんよーになってへんか?」
リダお姉さんが啖呵を切った糞いおっさんというのは、父様の事でしょうか?
父様がしていた事を考えると、そう言われてしまうのも仕方が無いと思ってしまうのですけれど、何だか匂いそうな呼び方は少し可哀想にも思います。
それとも、冒険者に成ってしまえば過ぎた事と思ってしまう私が、薄情という事なのでしょうか。
いえ、違いますね。きっとこれが独り立ちしたという事なのでしょう。
でも、そう考えると、確かに今のリダお姉さんには、私が冒険者に成るのを阻止しようとした父様と似た様な雰囲気が有るのです。
「む、最近のお姉さんは、確かに構い過ぎな所が有りますね。冒険者では無くて、冒険者ごっこの女の子としか見られてない様な気がしますよ?」
「アカンわ、それは馬鹿にしとるわ」
「ええ、私は冒険者なのですよ」
それは、父様に言い聞かせたリダお姉さんも分かっている筈の事なのですが――
「ディジーが心配させるのが悪いんでしょー!! 毎日死んだ様に
何時まで昔の私を引き摺っているのでしょう?
失礼してしまうのです。
「もう私は乗り越えましたし、他も冒険者ならおかしなものでも無いですよ?」
「ちょお待てや。えー……何やったっけな? 心配なら分からん事教えてやれとか、戦い方を見てやれとか、そんな事言っとったっけ? 口だけやな」
「だ、だって、ディジーにもその怪しいナイフにも、『看破』も『識別』も通らないのよー!」
そう言えば、リダお姉さんは自分の『看破』は王都でも中々無い腕だと言っていました。
成る程と思います。
つまり、それが私だとしたら、いきなり魔力を感じ取れなくなるのと同じ事です。不安になるのも当然なのです。目や耳を潰されるのと同じ事なのですよ。
それだけリダお姉さんは『看破』や『識別』を拠り所にしてきたのでしょうとは、リダお姉さんがどうしてしまったのかと頭を悩ませていたから気が付けたのでしょうけれど、だからと言ってこれは話が違いますよね。
「何を勝手に覗き見ようとしているのですか!? 私の装備を始めに『識別』するのは私ですから、見せたりなんてしませんよ!」
それにしても、毛虫殺しの何ていい子なのでしょう。
リダお姉さんの『看破』を弾くなんて中々なのです。
それは私が身に着けているからなのか、毛虫の蔕を駆使して魔力を漏れない様に手を加えたからなのかは分かりませんけど、やり方によっては秘密基地の『隠蔽』にも役立ちそうで、研究への意欲が湧いてくるのです。
でも――
「何だか今のお姉さんは、私の秘密基地にも突撃してきそうで怖いですよ?」
風――音を伝える空気の「流れ」――を使ってリダお姉さんだけにそっと届けた声への反応は、目を逸らして体を強張らせるという、嫌な予感を
警戒心を瞳に込めて、じっとリダお姉さんを見詰めます。
リダお姉さんは目を合わせようとしません。
体を震わせて、ハクハクと口を開け閉めしましたけれど、またぎゅっと引き結んで、顔を逸らしてしまいました。
完全に、叱られている子供です。
でも、こればかりは放っておく訳には行かないのですよ。
「分かっている様ですけど、それは私への裏切りですよ? ……秘密基地に来るのは絶対に禁止です。――後でお仕置きですね」
でも、これでお願い事はし易くなったかも知れません。秘密基地の前の空き地を私の物にしてしまいたかったのですけれど、どうすればいいのかリダお姉さんに調べて貰えばいいのです。
あそこに私の家を作ってしまえば、何も問題は有りません。それまでに、秘密基地が誰にも見つからなければいいのですけれど……。
大恩人のリダお姉さんには、何でと色々問い詰めたい所は有りますけれど、何となく理解出来ない訳でも無いのです。
元は農民から奴隷に落ちて、鉱山で働きながら成り上がり、闘技場で名声を得てからは解放奴隷となって、冒険者として英雄にまで上り詰めた後に辺境の村の村長として余生を過ごす『ステラコ爺』のお話にも、奴隷を相手に熱を上げてしまって状況をしっちゃかめっちゃかにしてしまう貴族のお嬢様が出てきました。
恋は盲目とお話にばかりは聞きますけれど、何だかリダお姉さんがそういうお嬢様と重なるのです。
私は少女でリダお姉さんだって女なんですけれどね?
何だか、リダお姉さんも、妹のディナ姉がいる他には、友達とかいないのでは無いかと考えてしまうのでした。
ふぅ、と一つ溜め息です。
リダお姉さんだけに通じる様に告げた言葉で、大人しくはなってくれましたけれど、何て言うかもう滅茶苦茶です。収拾が付いていません。
もう夕方ですので、森から戻ってくる冒険者も多いのに、リダお姉さんの受付は空っぽなままです。リダお姉さんの状態を考えると、今日はもう仕事になりそうに有りません。
私達にしてみたところで、どうリダお姉さんを宥めればいいのか分かりません。尤も、これ幸いと大人しくなったリダお姉さんに密着しているゾイさんや、鼻白んだ様子のグディルさんには、元々宥めようという気も無いのかも知れませんけれど。
ここはやっぱり、
支部長さんが、「お!?」と少し表情を緩めましたので、きっとこれで正解ですね?
「私が心配なのは分かりましたけれど、閉じ込められるのは御免ですよ? 毛虫を苛めても冒険にはならないのです」
「今の森には
涙声ながら引かないお姉さんの声に、グディルさんに目を遣ると、グディルさんは少し目を厳しくして頷きます。
そう言えばと思い出して、背負い袋から芋虫の牙を二本取り出しました。
「あれだって、芋虫です。む、芋虫の牙を換金しに来たのでした。お姉さん、仕事をして下さい」
「嫌よ! 嫌! 地図だって、渡さないんだからー!」
「ふぅ~……仕方が無いですねぇ。まぁ、地図が無くても何とかなるでしょう」
うんうんと頷いて見せると、案の定リダお姉さんが半狂乱になりました。
グディルさんが、何故余計に煽るのかと怪訝な目を向けていますけれど、こちらに近付いてくる支部長さんが答えなのです。
「駄目よ! 駄目駄目! 入っちゃ駄目よー!」
涙でぐしぐしになっているリダお姉さんの頭を、ぽんぽんと叩く支部長さん。
ゾイさんからあっさりと引き寄せ抱き上げてしまいましたので、ゾイさんの立場が有りません。
支部長さんの肩に顔を埋めて体を震わせるリダお姉さんが、お姫様抱っこで運ばれていくのを見送りながら、リダお姉さんの変化に私は頭を悩ませるのでした。
今日は、リダお姉さんの初めての姿を、これでもかと見せ付けられた様な気がします。
「なぁ、どう思うよ?」
色々有りすぎて、グディルさんの言葉は、何に対しての物なのかが分かりません。
「
「おっさん、最悪やな! そうと
「あー、あれなー。まー、何というか、ガードは堅いけれど、内側に入り込んだらべったりってタイプだとは知らんかったな」
「……で?」
「まー、あーいうのは、ディジーとは合う筈が無いから、落ち着くのを待つしか無いな。冒険者の中にも、俺みたいな仲間がいないと楽しめん奴と、一人で全部自分で解決してしまうディジーみたいのがおるからな。そういうのはどうしても擦れ違う他無いな」
何となく、自然と内緒話の様に集まって話をしてしまいます。
けれど、一体どういう事でしょう?
「ゾイさんとはお話ししやすいですよ?」
「いや、パーティとして見た場合にな、協調するのが当然と思うか、独立独歩に我が道を行くかの違いは大きいな。この前は俺らが案内されるだけだったが、一緒に討伐に行くとなったら多分喧嘩になるな」
確かに一人で突撃しそうな私と、庇い合って戦っているゾイさん達が、一緒に居る所は余り想像出来ません。協調と言われても、一方的に遠慮しないといけないとしか感じられない私では、一緒のパーティに居てもいつか疲れてしまうでしょう。
一人の方が、気楽で楽しく感じてしまうのです。
「なら、俺はどうやねん?」
「あー、グディルはまた違って、子分とか引き連れて歩く様になるタイプな。どっちの事も分かるだけ、どちらとも上手く付き合えると思うわ」
グディルさんにも思い当たる事が有るのか、納得した様に頷いていました。
「どうすればいいんでしょうねぇ……」
「つーか、あんな煽る様な真似何ですんねん?」
「お姉さんは、色々と溜め込んでいる物を吐き出した方がいいと思ったのですよ。……まぁ、私がお姉さんを嫌いになりたくなかったというのも有りますけれど」
「よー分からんやっちゃな」
グディルさんは首を捻っていましたけれど、ゾイさんは力強く頷いてくれました。
「ディジーの言う事も分からんでも無いな。図太く見えて随分と繊細な嬢ちゃんには、支えてくれる人が必要なのかも知れんなぁ」
「…………つまり、包容力の有る大人の人が居ればいいのですよね?」
「ま、そういう事だな」
つまり、私のした事は間違いでは無かった様です。
「何や、おっさんが人に譲るなんて珍しい」
「いや、ああいうのは面倒臭い」
「うわ、おっさん酷え!?」
ですが、話を進めるには、協力者の存在が欠かせません。
グディルさんでもいいですけれど、ここはやっぱりゾイさんですね。
「つまり、支部長さんとくっつけてしまえばいいのですね!」
これがきっと、皆が幸せになる道なのです。
ゾイさんも、「おお!」と目を見開いて、乗り気です。
グディルさんは嫌そうな顔をしていますけれど、相槌くらいは打って貰うのです。
それは奇しくも、数日の後に、リダお姉さんの妹のディナ姉が考えた事と同じ事を、私達が思い付いた瞬間でした。
そこへ何とも見計らったかの様に、支部長さんが戻ってきました。
「うちのが迷惑を掛けて済まないな。地図と
色々と書き込みの有る地図を簡単に見ます。牙の報酬は合わせて四両金です。何に使えるのかは知りませんが、『物品識別』が出来れば分かったのでしょうか。
罅の入った大森狼の魔石と牙五本が同じと考えても、安いのか高いのか今一つ分かりませんが、きっとそれだけの価値が有るのでしょう。
「お姉さんは大丈夫ですか?」
「ふむ……まぁ、忙しい日々が続くから、疲れが溜まっていたのかも知れんなぁ」
「うちの」と身内扱いした支部長さんに、ここは畳み掛けるのです。
「お姉さんのこと、お任せしても構いませんか?」
「うむ、任された」
ふふふふふ……言質は取りましたよ?
「なら、お姉さんに付いていてあげて下さい。お姉さんは結構寂しがり屋なので、しっかり抱き締めて、背中を優しく撫でてあげて下さいね」
「む、う? うむ?」
「話し掛ける時は、しっかり目を見詰めて、包み込む様な笑顔ですよ? 大丈夫です。オルドさんの笑顔なら、お姉さんもイチコロです。後で確認しますから、絶対ですよ?」
「うん? う、む!?」
「じゃあ、早く行って下さい。お姉さんを一人にしては駄目です。ささ! 早く!」
支部長さんは首を捻りながら行ってしまいましたけれど、堅物な支部長さんは、きっと約束した事は守ってくれるに違い有りません。
私はゾイさんと顔を見合わせると、
「それではゾイさん、後の事は任せました」
「うむ、任された」
深い溜め息を吐くグディルさんのその前で、ゾイさんは重々しく頷いたのでした。
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