(80)うねうね。
ディジーリアです!
今、私は王都から獣車で二日の、ライザの森に来ています!
ここは非常に稀な生態系を
ディジーリア探検隊は、良く晴れ上がった今日この日、このライザの森を、深部まで攻略する事になるでしょう!
ほら、耳を澄ませて下さい。ガサガサと落ち葉を掻き分ける音や、木々の枝が軋む音、パタパタ羽撃く音といった、色々な音が聞こえてくるでしょう?
実はこの音、半分以上は植物達が自ら立てている音なのです。
大地を行く影、空を飛ぶ鳥に似た影、川を泳ぐ魚に似た影、その全てに植物が紛れ込んでいます。そう、ここは自ら動く植物の楽園。動物よりも植物が上位に来る、脅威の森なのですよ!
ああ! あそこを見て下さい! 枝葉や根を蠢かせながら地上を這い進む巨大な木、この森の固有種のウネウネです!
枝に棘が無い所を見ると、オラ=ウネウネだと思われます。
ウネウネには他にも、枝に棘が有り大地に根を張ったアラ=ウネウネ、枝に棘が有り地上を這い進むアララ=ウネウネ、枝に棘が無く大地に根を張ったア~ラ=ウネウネが居るとの事ですが、長年の研究で実はこれらは同じ植物である事が分かっています。
棘が有るのがウネウネの雌株で、棘が無いのがウネウネの雄株です。
通常雌株は大地に根を張って、花を付け実を結ぶ事に専念していますが、土地が痩せてくると地上へ這い出て、新たな草の戸を求め大移動します。
逆に雄株は常に地上を這い進み、雌株を求めて彷徨うのです。
ぱっと見では在り方が全く異なるが故に、これらは四種の別の植物とされてきました。アララ=ウネウネやア~ラ=ウネウネが珍しいレア種と見られてきたそんな時代も今は昔の事ですが、長らく呼び慣わされてきた事から、今もその形態で呼び分けられているのです。
そんなウネウネの他にも、この森には不思議な生き物が一杯居るのです。
怪しい気配がびゅんびゅんしますよ~。
今日は、この森の奥へと向かっているオラ=ウネウネに付いて行ってみましょう!
~※~※~※~
「申し訳ございません。冒険者協会所属のディジーリアは、本日より遠方へ採集に向かったと伺っています。お返事は遅くなる事も考えられますがよろしいでしょうか? ――はい――はい――分かりました。こちらに顔を出しましたら王城へ伺う様にお伝え致します。本日は御足労有り難うございました」
王都冒険者協会本部の受付嬢は、去って行く王城からの遣いを見送ってから、渡された指名依頼の依頼書を見て首を傾げた。
まだ太陽も中天に到らないこの時間帯は、受付へと来る人も少ない。
「リタ、ちょっと席を外すわね」
隣に座る同僚へと声を掛けて、奥の執務室に居る副長の下へと向かった。
副長席に座るサンダライトは、一度受付嬢を見上げた後に、その手に持つ依頼書へと視線を動かし、また受付嬢を見上げた。
「王城からの遣いの方が持ってきた依頼なのですけれど、ちょっとよく分からなくて」
「……拝見しましょう」
「指名されているディジーリアって、ここ何日か宿舎に泊めていた子ですよね? あの子に指名というのもよく分かりませんし、この依頼内容なら商業ギルドや鍛冶ギルドなのではと……」
「何を言っているのですか。彼女こそがディジーリア=ジール=クラウナー。王都のオークションに幻の大猪鹿を齎した、デリリア領の英雄ですよ?」
「……………………え?」
「装備もご自身で造られているとは聞きましたが、王城で何か有ったのでしょうな。いいでしょう。これは私が預かります。あなたは他の受付担当にも、ディジーリアが帰ってきたら私の元へ来る様伝えなさい」
そんなサンダライトの言葉に、受付嬢は混乱したままに言い返す。
「で、でも! 違いますよね!? 英雄剣士ディジーリアはもっとすらっとした――」
世の中に流布する英雄ディジーリア像との余りの違いに、混乱したまま言葉を紡ぐ受付嬢だったが、サンダライトは呆れを隠さず首を振る。
「全く、私が“是”と言っている事に対して、それでは……。噂に踊らされ過ぎです。もっと真実を見定めなくては。もう一度言いますが、彼女がランクBのディジーリアです。理解したなら、あなたも受付に戻りなさい」
ふらふらと受付に戻った受付嬢だったが、その様子に隣の受付嬢が問い掛ける。
問われた事は秘密にされた訳でも無く、寧ろ情報を共有する様に求められていたものであったが、丸で重大な秘密を打ち明ける様に副長からの情報は伝えられ、瞬く間に受付嬢達の間にディジーリアの情報は広がっていくのだった。
~※~※~※~
ディジーリア隊員の前を行くのは、もふもふ四つ足のディジーリア隊長。フンフンと匂いを嗅ぎながら付かず離れずウネウネを追うその姿は、流石隊長の貫禄です。
追跡を隊長に任せて、ディジーリア隊員は素材の採集に
歌う花ララーラは根の周りの土ごと掘り返し、
そんな採集を続けていると、『フモフモ!』とディジーリア隊員を呼ぶディジーリア隊長の、威厳漂う呼び声が!
「ディジーリア隊長! どうしたのですか!? ――ああっ! あれはライバルの探検隊!」
ディジーリア隊長が、くっと顔を向けるその先を見ると、そこには別のオラ=ウネウネの後を追い掛ける探検隊の姿が!
これは負けてはいられませんと気合を入れるディジーリア探検隊のメンバーでしたが、その目の前でライバルの探検隊の一人が、先を行くオラ=ウネウネの振り回す蔓の様な枝に足を取られてしまいました。
「は?」と惚けた声を出す間にも、ライバル探検隊員は宙吊りです。
……な、何と言う事でしょう!? ライバルと思っていた探検隊員が、思いも寄らずオラ=ウネウネに捕まってしまいましたよ!?
隊長! これはどういう事なのでしょう!?
『フモ! フモフモ!』
何という含蓄に富んだ隊長のお言葉! 成る程、見えない物を警戒する余りに、見えている物への警戒を疎かにしてしまったのですね? 慣れているが故の油断も有りそうですけれど、このままでは地面に叩き付け――……えい!
――サクッ!
叩き付けられるところでしたが、何という幸運、ウネウネの枝が切れて、ライバル隊員は上手い事木々の枝に引っ掛かりました!
『フモフモ! フモフモフモ!』
成る程成る程……あの隊員は、吊り上げられた時に剣から手を離してしまったのが失敗ですか。
ええ、ええ、己の得物から手を離すなんて言語道断。ライバルには成り得ない駆け出し探検隊員だったという事ですね。
オラ=ウネウネは地上を這い回っていても、動物に襲い掛かって血肉を糧にする様な生き物では有りません。地上を這いずる時に振り回される枝や根は、飽く迄前進する為に有るのです。
根っこを這いずらせる他にも、根や枝を他の木の幹や大岩なんかに巻き付けて、引き寄せる事で前進前進、そこに浮いた石や生き物が有ったなら振り回してしまうのは必然です。
只でさえ魔の領域の中なのですから、ガサガサ音を立てて近付く物に警戒無く近寄るのは自殺行為ですが、害意の無い生き物という事と目で捉えている事が、逆に油断を誘ったのでしょう。
そんな彼らを教訓に、ディジーリア探検隊は先を急ぎますよ!
と、そんなディジーリア隊員の足に木の枝がくるん。
「はて? ――! ひゃわ~~~!!!!」
何と言う事でしょう!? ディジーリア隊員の足下に忍び寄っていたオラ=ウネウネの枝が、ディジーリア隊員を捕らえて梢の高きに!
ですが心配は要りません。ディジーリア隊員の手元には、植物特化の剥ぎ取りナイフが。森に入ってからも創り上げた魔石や輝石で、採集しながら強化もしていた逸品です。
「えい!」
――サクッ!
軽々と巻き付く枝を切り飛ばせば、難無くディジーリア隊員は地上へと降り立ちます。
『フモフモ!』
「は! ディジーリア隊長、申し訳有りません!」
さぁ! 気を取り直していきましょう!
と、気負い込むディジーリア隊員の足下に、またもや木の枝が!
「ひゃわ~~~!!!!」
しかし問題は無いのです!
――サクッ!
今度も飛んだりディジーリア隊員! しかしその落ちる場所には獲物をその大きな葉っぱで捕まえて咀嚼する、通称モグモグが!
「たりゃー!」
と気合いで重い魔力を飛ばしては、軌道を逸らしてモグモグの上から逃れます。
ふぃ~、と袖で額の汗を拭います。何という恐ろしい自然の罠でしょうか!
モグモグは素材として依頼は有りませんでしたが、動く植物と言うだけで新たなばんばばん薬の候補です。目に付いた素材は片っ端から採集していきましょう。
『フモ! フモフモフモ!!』
何という事!? ディジーリア隊長が苛々としています。
しかし今度はそのディジーリア隊長に向かってオラ=ウネウネの木の枝が!!
「隊長ぉー!!」
あわや隊長もオラ=ウネウネの犠牲に!? ディジーリア隊員には剥ぎ取りナイフがありますが、ディジーリア隊長はもふもふです。
ああ! と駆け寄るディジーリア隊員の足に、ディジーリア隊長を擦り抜けた木の枝がくるり。
「あれ? ――ひゃわ~~~!!!!」
しかし問題は有りません。
――サクッ!
吊り上げられたと雖も問題無く、シュタッと降り立ったディジーリア隊員。ですが、嗚呼、隊員が隊長を心配するなんて、烏滸がましい事だったのですよ!
そんなディジーリア隊員の下までディジーリア隊長がもふもふとやってきて言いました。
『フモフモ!! フモフモフモ!!』
ああ、何という厳しいお言葉!!
~※~※~※~
下町を
その道は、王都冒険者協会の西地区出張所へと続く道だ。普段なら近道ともなるこの道には、行き交う人もちらほらと居るものなのに、誰も居ないのは珍しい事も有るものだと思いながら、ハドルナンは細道を行く。
その抜け道の半ばまで来た時に、漸く人影が見えた。
悠々と細道を歩くのが、金髪の偉丈夫、色男で有名な蔵守卿のサイファスラム様だと知れた時、ハドルナンの背筋を嫌な予感が走り抜けた。
その予感が確かなものだと決定付けたのは、こんな場所に居る筈が無い蔵守卿が、ハドルナンの名を呼んだ事だった。
「やぁエメロン、こんな所で奇遇だなぁ。最近はどうだい? ちょっと話を聞かせてくれないか?」
ハドルナンは頭を抱えて、その場に
~※~※~※~
ディジーリア探検隊を襲った誤算。それは、オラ=ウネウネの足が思いの外に遅かった事でした。
『フモフモー!!』
痺れを切らしたディジーリア隊長の号令に従って、探検隊はオラ=ウネウネを置き去りに森の中心部を目指します。
そんなディジーリア探検隊の前に、今、大きく口を開けているのは、罠を張り獲物を待ち構える恐るべき植物、罠口です。
見た目は地面に置かれた三角錐形のクッションです。その側面に開いた穴が柔らかな内部へと誘います。動物が体を休めるのに丁度良さそうな凹みを作っていますが、迂闊に潜り込んだが最後、地面に隠される様にしてクッションの左右に埋もれていた二本の枝が跳ね上がり、枝の先端が繋がっているクッション入り口下端に付いていた小さなパーツが入り口の上端にまで到達すると、鋸歯状になっていた入り口の縁が噛み合って、入り口が完全に閉じられてしまうのです。
そうして閉じ込められるだけなら、逃げ出す手立ても考えられたかも知れませんが、入り口が閉じられた罠口は直ぐに萎み始めます。そう、閉じ込められた生き物は、息が出来なくなって直ぐに死んでしまうのですよ!
そのままでも水袋に出来る罠口ですが、多くの場合は入り口の綴じ具部分とクッション部分が切り離されて、それぞれ別の素材として扱われます。
クッション部分が何に使えるのかは知りませんが、綴じ具部分はオドワールさんの美髯屋でも、沢山置いてあったのですよ。こんな植物から取れるとは知りませんでしたが、開け閉めが必要な物にはとても重宝する素材なのです。
尤も元が植物だけ有って傷むのも早いのですが、軽銀ででも再現する為にも幾つか採取していきましょう!
そこでディジーリア隊長が、ディジーリア隊員を見上げて主張しました。
『フモフモ!』
え? 居心地が良さそうだから入ってみるのですか?
むむぅ……ディジーリア隊長なら無事でいられるのかも知れませんが。
と、そんな事を考えている間にも、もふもふと進むディジーリア隊長。クッションの真ん中で腰を落ち着けた途端に、跳ね上がる枝、閉じる入り口、萎むクッション!
「ああ! 隊長ぉー!!」
しかし隊長の体は幻の様にクッションの壁を擦り抜けて、もふっと戻って来るのでした。
ええ、ディジーリア隊長の体は、幻で出来ていたのですよ!
とは言え、……四つん這いの私を何時までも見ているのは、ちょっと微妙な気持ちになりますねぇ。
ここは体を赤い森狼にしてみましょうか。……顔はそのままでもふもふ増量でしょうかねぇ。
…………。
――ああ!? 何という事でしょう!
未知を求めてライザの森を行くディジーリア探検隊!
しかし、この探検最大の謎生物は、ディジーリア隊長だったのですよ!!
~※~※~※~
冒険者協会デリラ支部に、便りの“鳥”にて配達物が届けられた。
世話係は“鳥”から配達物の入った鞄を受け取ると、早速“鳥”から要望を聞き出して食事の準備に取り掛かる。
“鳥”と言い慣わしているが、超小型の竜種だ。魔術も使って空を飛び、知能も人獣並みに高い。簡単な単語で遣り取りも出来る“鳥”は、天性の配達人だ。
“鳥”自体も自然の中なら獲物を狙い、また自身も狙われながら、小動物でも狩って暮らすしか無かっただろう。だが配達人の役目を負う事で、自身では狩る事の出来ない大物や、好みによっては調理された食事を得る事が出来ている。それも敵のいない高空を飛ぶだけでなのだから、安全安心だ。
いつの頃から始まったのか定かでも無いこの共生関係に、今日も“鳥”は満足して舌鼓を打つ。
そしてまた、配達物を託された“鳥”は、空高く飛び上がるのだろう。
今は暫しの休息の時だった。
さて、その“鳥”が運んできた配達物は、今、デリラ支部長オルドロスの手へと渡っていた。
「ふむ……ライセン領のビガーブからか。領主のサインも有るという事は、ライカへの荷物かも知れんが……」
小包を開けたオルドロスは、封入されていた手紙を読み進めるにつれ、片手で目を覆って呻きを上げた。立ち上がると奥へと向かい、そこでお騒がせ冒険者のディジーリアから渡されたノッカーを叩く。
『は! ライザの森探検隊のディジーリアです! 私に何か御用でしょうか!』
初っ端から飛ばしてくるディジーリアに、ここ数日は解放されていた疲れが蘇るのを感じながら、オルドロスはノッカーへと向かって言葉を放つ。
「ライセン領のビガーブから連絡が届いてな、お前がビガーブで氾濫間際の魔の領域を潰して来たと言うのだが、どういう事かと確認したくてな」
ただ、そのオルドロスの言葉を聞いた途端、ノッカーから響いてくるディジーリアの声が動揺する。
『そ、それは寄り道の序でなのですよ!? 一宿一飯の御恩を返しただけなのに、褒賞するとか残してきた張りぼてをオークションに掛けるとか酷いのですよ!?』
「酷いってお前なぁ……。町一つ救ったのだから大人しく褒賞されておけ」
『そんな事を言うオルドさんだって、孤児院を開いているのを素晴らしいとか言われて金塊を積まれても困ってしまうでしょう!? 適当に粘土を捏ねて作った張りぼての剣を聖剣だとオークションに掛けられたら、逃げたくだってなりますよ!?
だから、王都の協会長さんにも言ったんですよ。張りぼてを剣と偽ってオークションに掛けたりしないでと、況してや私の名前を出されても困ると。
私が要らない素材の分まで私に返そうとしているみたいでしたので、そんなのはビガーブ周りの毒の大地での耕作研究に寄付するって言ったのですよ。領としての褒賞だとか言っても、それはアザロードさんが友人としてご飯でも奢ってくれれば済む話ですよ!?』
「むぅ……。分からんでも無いが、そんなに嫌か?」
『そんなのを渡されても困りますし、第一格好悪いです。釣りは要らんぜと出て来た店から、店主が凄い形相で追い掛けて来て、無理矢理お釣りを渡された挙げ句に、本店からも見上げた心掛けだと各種商品を押し付けられる様なものです。台無しですよ!』
ディジーリアのその物言いに、オルドロスは思わず少し笑ってしまった。
成る程、釣りは要らんと格好を付けたのと同じ認識だったなら、態々報告してくる事も無いだろう。喩えが一々的確過ぎて、栄誉や名誉という要素を抜かせば成る程と思えてしまうところが説得の無意味さを示している。
「成る程、理解した。だが、剣の形をした張りぼてが、剣としては使えないというのが良く分からん」
『それはですね、白い剣は石で造っていますので、肉は兎も角、骨に当たれば直ぐに欠けそうなので使い物に成りませんし、黒い剣はこの前お見せした角タールで造っていますけれど、適当に造った粗悪品な上に、魔力を全く通しませんから使うには癖が強いです。それに、これも骨に当たるとどうなるかが分かりません。魔力を通さないので、魔術を切る事が出来たりするかも知れませんが、まぁ特殊な、剣とも言えない何かなのですよ』
「ふ~む……ランクだけで見るなという事か。いや、大きいのはランクBだと聞いたが」
『そりゃあ、大きければランクも上がって当然です。大木一本分の丸太に把手を付けただけでも下手をすれば特級ですし、逆にどんなに素晴らしくても小さな針ではランクも知れた物だと思いますよ?』
「……成る程。言われてみれば確かにな。まぁ、大体分かった。アザロード殿に上手く伝えればいいのだな?」
『そ、そうなのですよ! 何だか他の皆さんは余り良く分かってくれないのです。オルドさんだけが頼りなのですよ!』
「ふ……分かった分かった。全く、お前は何処に行っても変わらんな」
その後、何度も念押しをするディジーリアに苦笑しながら、オルドロスは話を終える。
「さて、ライカには話を通しておくか」
そして、口元に笑みを浮かべながら、領城へと向かうのだった。
~※~※~※~
ライザの森も中層を抜けて、風の如く木々を渡るのはディジーリア探検隊ですよ!
オルドロス指令からの連絡を受け、心懸かりも解消出来ましたので、最早ディジーリア探検隊の快進撃を阻む物は有りません。
この辺りまで来ると、目当てでも有りましたジークの木が生えています。ジークの木は、チイツの木の上位版とも言える木で、サルカムの様な別格を除けばこれ以上は望む可くも無い建材です。
何にでも使える優秀な木との事ですが、唯一の難点は真っ直ぐな木が中々見当たらない事でしょうか。
そこの木なんて、どうした事か木の幹がぐるっと輪を作っていたりしてますよ? ディジーリア隊長が意気揚々とその輪を潜り抜けて行きました。
まぁ、珍しいと言っても無い訳では有りません。見付けた端から伐り取って、『亜空間倉庫』の中には既にもう数十本は入っています。
家を建てる分にはもう充分ですけれど、どうせ最深部まで行くのなら、序でに集めていくのですよ!
そう思いながら、ディジーリア隊員は魔力の腕でぶら下がり、ひゅんひゅんひゅんと樹間を渡り、ディジーリア隊長は木の枝から木の枝へとしゅたしゅたしゅたっと飛び渡ります。
そこで探検隊は見付けてしまったのです。放浪のオラ=ウネウネが探し求めるアラ=ウネウネを!!
それは始め普通の木に見えました。
果物が沢山
普通で無いのは、見る限り周りに同じ木が生えていない事。
そして、何故か周りにオラ=ウネウネ――いえ、地に根を下ろしているので、ア~ラ=ウネウネが点在している事です。
更に言うなら、見渡す遥か周り中から、オラ=ウネウネがここを目指して集まって来ている事でしょうか。
ほら! 今もまた、アラ=ウネウネに近付いたが為に搗ち合ったオラ=ウネウネ同士が、熾烈な争いを始めましたよ!
伸ばした根がもう一体のオラ=ウネウネに絡み付き、引き寄せられたオラ=ウネウネも負けじと枝を絡みつけ、引き寄せ合う度に針路はお互い内向きに成り、到頭がっぷり四つに組んで? は、激しく抱き締め合って…………そのまま地面に根を張ってしまいます??
…………ちょっと予想した様な激しい恋の鞘当てには成りませんでしたが……。
ああ! また寄ってきたオラ=ウネウネ達が…………抱き締め合ってア~ラ=ウネウネに……。
……私は大変な事に気が付いてしまったのかも知れません。
よく見れば、雄株の筈のア~ラ=ウネウネの幾つかが、僅かながらとは言え実を付けていたのです。
『ハハッ! いい
『ああ!? 待てやコラ! てめぇ、俺が目を付けた女に何か用か!?』
『オウ、何や? 汚い手で触んなやおっさん!』
『じゃかましい! やるかコラ!!』
『オラァ!! 吹っ飛べやぁ!!』
『ああ、
『どりゃぁああ!!』
『ぐはぁああ!! や、やるなおっさん!?』
『くく、お前もな。だが、おっさんじゃねぇ! 兄貴と呼べや!』
『兄貴……兄貴ぃいいい!!』
知識系技能が使えなかった私にとって、本は何よりの娯楽であり、そして知識の源泉でした。
ですがその中には、とても危険な物も混じっていたのです。
拳友情の行き着く先。その深淵を垣間見て思わず逃げたあの日の事は、忘れようにも忘れられません。
「おお、おお、何という事でしょう……何という事でしょう!? た、隊長ぉ!!」
『フモフモフモーー!!!』
撤退! 撤退ですよ!
私達は一目散に背中を向けて、歪んだ愛の墓場から逃げ出したのです。
そう、ささっと果実を魔力の腕で掻っ攫って、すたこらさっさと深部へ向かって逃走したのですよ!!
~※~※~※~
ライセン領はビガーブの町では、二日前に突如訪問してきた領主アザロードを持て成す為、冒険者協会の待合室を利用しての歓迎の宴の準備が進められていた。
町へと昇格したとは言え、それは学園や冒険者協会、宿泊所等の施設が整えられた為であり、まだまだ村であった頃と大きな違いは無い。役場なんて物も無く、日を決めて町の顔役が町長の家に集まっての会議で、町の物事は決められている。
領主を迎えるのに、その町長の家でも問題は無かったのだろうが、話を聞きたがる者が多く詰め掛ける事が予想された為、冒険者協会が利用される事になったのである。
その片隅で、賓客である筈のアザロードが、冒険者協会ビガーブ支部長ゴッズロスと共に、軽く酒杯を飲み交わしていた。
「で、三日も見て回れば状況は大体掴めたと思うが、どうだ? 儂には、残る筈の心配事すら、種も残さず綺麗に片付けられちまっている様に見えるんだが、御領主様はどう見るかね?」
夏の三月十六日の夜に魔の領域討滅の知らせを受け、領都と遣り取りを繰り返したのが夏の三月十七日から十八日に掛けて。そしてアザロードがビガーブの街に着いたのが夏の三月十九日。二十日にはゴッズロスと連れ立って、坑道の奥底に検分へと赴いた。
魔の領域らしい圧迫感までも綺麗に拭い去られた領域跡に呆れながら、坑道を出た次は一夜で出来た神饌台へと赴いたのが夏の三月二十一日、つまり今日だ。
そして、今ビガーブの町まで戻って来て、漸く余裕が出来たのである。
「ふむ、己の眼を信じられぬとは情け無い。儂が見ても変わらぬよ。中心部の何も無さ加減には度肝を抜かれたが、恐らくその場の乗りで何ぞ為出かしたのであろう」
「乗りでどうにかするっていうのも冗談の様な話だが、冗談の様な神饌台を見てしまうとなぁ……。それでも儂より歳も背丈も半分にも遥かに届かぬ子供が、半日掛けずに解決したと言われたならば、それは当然判断するのに慎重にもなりますぞ?」
「倍だの半分だので考えを左右されるのは如何なものかな。それで言うならお主も儂より年下だ。だからと言って信用しないのも、年上だからと言って日和見するのも、長たる者には不要だぞ」
「ぬぅ……そうだな。結局儂は自信が無いのかも知れん。昔ここの町長に助けられた縁から支部長としてビガーブには来たが、現れる魔物も時折はぐれの鬼族が現れるだけ。毒の大地で薬草すらも儘ならんと来ては、冒険者が寄り付こう筈は無い。坑夫ばかりを相手に酒場のマスターと変わらぬ毎日を送って、それでも儂が最後の砦と思っていたのだが……。この騒動で儂は己の無力さを突き付けられてしまったわ」
古い協会の人間によく見受けられる不躾な態度ながらも、随分と謙虚な物言いに、アザロードは小さく笑って言った。
「ふむ、儂が嘗て何と呼ばれていたか知っているか?」
「む……『殲滅』の名は儂らが最も怖れた物の一つである」
「ふん、他にも『空の支配者』や『死を運ぶ鳥』などと大層な呼ばれ方をされたものだが、結局のところ儂がしたのは誰にも手の届かぬ高空から『亜空間倉庫』の中身を
お主の場合は崩れ易い坑道というその一点で、お主の条件から外れてしまっただけだな。逆にディジーリアは魔術も使うが鬼族との相性が抜群だと聞く。無力だったのでは無い。合わなかっただけだ。それでも救援が寄越されなかったなら、坑道の中では戦えなくとも、溢れ出た魔物に後れを取る事は無いと信頼されていたという事だ。気に病む事では無いぞ?」
それを聞いてゴッズロスは暫しの間瞑目した。
「……それでも儂は腑甲斐無くてな」
「ならばこう考えるといい。足りぬ部分は伸び代だ、と。儂も『殲滅』などという汚名を返上する為に、狙い澄ませた一撃を落とす『流星』なんぞという技を編み出したが、結局帝国が滅びた為に御披露目する機会も無い儘よ。尤も、空が飛びたかっただけの儂には、唯の『空飛び』に戻れた今は大歓迎というものだがな」
「ふ……ふふ……自由を得たと雖も、それを心から信じる事も出来ず、逃走するかの様に王都を後にしてからは、
「暇を持て余しているならお主も何かしてみるがいい。ディジーリアの生地、デリラの支部長『槍弓』オルドロスは孤児院を開いておる。道場を開く者や、学園の講師として出向く者も多い。中には普段は農家だと、広大な農地を耕す支部長も居る。そもそもブーランダに助けられた縁で来たと言うなら、ブーランダの手伝いでもすればいい。
領主にしても変わらんよ。儂も第八将としてこのライセンを宛がわれたが、領主になったからと言って行き成り
鉱山で出るのは普通鬼族よりも機岩鉄の様な化け物だ。儂はお主が此処に居るのが間違いだとは思わんよ」
そんな言葉にゴッズロスは只無言で頷いた。
アザロードは、これは自信を回復させるのにも随分と掛かりそうだと思って首を振る。
何と言っても潰す他無いと思われていた鉱山は、ゴッズロスが大恩有ると言うブーランダの持ち物だ。それに対して何も出来なかった事に、忸怩たる思いを抱えているのだろう。
何時までもこんな話をしていても、却って悪い方向へと思考が向いてしまうものだとアザロードは話題を変えようと考えたが、その前に受付の奥でリンリンとベルの響く音がした。
それに応えて、一人の職員が上階への階段へと駆けていく。
「何の音だ?」
「……“鳥”が来た様だな。何処からかは分からんが」
ゴッズロスの言葉の通り、待つ内に先程の職員が封筒を手に戻って来て、ゴッズロスへと手渡した。
「――王都からか。――む……お嬢からの返事か? 早いな。
……くく、やはりな。思った通り褒賞は要らんそうだ。ほら――」
「ふむ――むぅ……受け取って貰えれば丸く収まるのだが」
アザロードは、漸く笑みを少し見せたゴッズロスに安心しながらも、渡された手紙を見て小さく呻いた。そこに書かれていたのは、領都で待つ官吏達が望まぬだろう言葉ばかりだ。
丁度その時、宴会場の準備も調ったのか、町長のブーランダがアザロード達を呼びに来る。
「旦那様方、お待たせ致しましたが漸く準備が調いました。早い夕飯と言うよりも遅い昼といった物にはなりますが、御領主様に於かれましては本日の内にも領都へお戻りになるとの事ですので、そこのところは平にご容赦頂きたく――」
そんな挨拶に被せ気味に、アザロードはブーランダへと問い掛ける。
「ふむ。有り難く頂戴しよう。
ところで
困り顔でそう述べるアザロード。領都に戻ったその先で、褒賞を言い出す者が居るのは目に見えており、それを抑えられぬと思っての言である。
「それでは拝見致します。
――ふむ、張りぼての剣は剣に非ず、剣として競売に掛けるのは認めず。魔力を通さぬ素材なれば、剣というよりも特殊な道具である。張りぼてと明示の上ならまだ良し。
……
そんな御仁に殊更名前を押し立てて褒めそやそうとしたところで、嫌がられるのが落ちでしょう。呼び立てたところで、手紙の一つに『有り難い話では有りますが、若輩者故、お心だけ頂戴致します』とでも書かれて送られてくるのがいいところです。
まぁ、礼を言う相手を呼び付ける時点でそれは礼では有りません。それを有り難がるのは、権威を有り難がる者だけでしょうが、この御仁には当て嵌りません。
この御仁に礼を受け取って貰えるとするなら、領都に呼び付けるのでは無く、暮らしているという王都に出向いて予め約束を取り付けた上で、こちらから赴く事でしょう。その際も良くやったと褒めるのでは無く、内の領民の危機を救って頂き有り難いと、せめてものこの礼を受け取って貰えねば帰る事はとても出来ぬと、情に訴えるのが宜しいでしょう。その礼も高価な宝物よりライセンの特産品を見繕った方が喜ばれるに違い有りません。尤も、ここに書いて有る通り、御領主様がご友人として偶々王都に出向いた際に、食事にでも誘うのが何事も無く受け入れてくれるのでしょうな。
儂もお山を建て直して、また鉱石掘りが出来る様になれば、精錬したいい所を集めてお礼に行かないととは思っていますけれど、今はまだ受け取っては貰えないのでしょうなぁ。
さ、そんな事より、今は宴だ。何とか遣り繰りして毒の大地を僅かながらも克服したその成果だ。御領主様には是非ともその舌でじっくりと確かめて頂きたく。ささ、どうぞこちらへ、そのまま、そのまま――」
柔らかい物腰ながら、領都の権威は普遍では無いと断じたブーランダに苦笑しつつ、アザロード達は宴の会場へと向かう。
そこで独特ながら美味に仕上げた郷土料理に感心しつつも、ディジーリアへの褒賞に頭を悩ませていたアザロードの下へ、ビガーブを出る直前にデリラから便りの“鳥”が届いた。
そこにはディジーリア自身の言葉と、今は冒険者協会デリラ支部長をしている嘗ての同僚オルドロスによる『格好を付けさせてやれ』との言葉が。
アザロードは大空へと飛び立ちながら、さてどうやって官吏共を説得するかと、口元に笑みを浮かべるのだった。
~※~※~※~
夕暮れ間近のこの時間、到頭ディジーリア探検隊はライザの森の最深部に辿り着きました!
見て下さい、この雄大な景色! ――……と、言いたい所ですけど、ちょっとこの光景はおかしいのです。
目の前に有るのは、森の中心に口を開けた、巨大な大穴です。デリラの街よりは小さいですが、ちょっとした村ならすっぽり入ってしまいそうな大きな穴です。
その切り立った穴の縁から下を見れば、遥か下方に轟々と轟きを上げて流れる地底の川が見えています。
でも、――魔力を見る目で見れば、そんな穴も川も無い筈なのですよ。
試しに輝石を一つ投げ込んでみましょう。
――ぽいっ。
投げ入れた輝石は、そのまま大穴の中に落ちていって、地底の川に行き合う所で輝石に大きな衝撃が返りました。
でもですね、見た目でも輝石越しの感覚でも、確かに落ちていった様に感じたのですけれど、魔力的には輝石は私の目の前に有るのです。
その感覚の通りに輝石を引き寄せてみれば、――ほら! 穴の縁を抜けた所で、輝石は姿を現しましたよ?
『フモフモ!!』
ああ! 勢い込んで隊長が穴の中へ……?
穴の縁の境界を飛び越えた隊長は、穴に落ちた訳でも無いのに、そこで姿を消してしまいました。
穴の縁から向こうは、穴が在る様に見えて全ては幻なのかも知れませんね。
それにしても、幻だとすると凄いですねぇ。見た目だけでは無く、感覚も全て欺くこの力は、『擬装』というよりもっと積極的に『詐術』とでも言えそうです。
実に興味深い現象ですけど、これを解明するのは中々厳しい様に思えます。
何故かと言えば、穴の縁の境界上に、繭の様に歪が網を掛けているのが見えるのです。
そこから想像出来る事と言えば……つまり、これは界異点なのでは無いでしょうかね?
実は少しばかりおかしいとは思っていたのですよ。
魔の森と言いながらも、漂う歪が少な過ぎて、これは何という事の無い普通の森なのではと感じていたところだったのです。
ですが、在る所には在ったのですね。これなら魔の森と言われて違和感は有りませんよ?
ですが、この動物達の侵入を拒む様子からすると、鬼族の界異点とはまた違う、もっと穏やかな何かの棲む界異点な気がします。多少の殺意が有るとしても、それは界異点の境界間際に感じるモグモグらしい肉食の植物の気配ぐらいで、それ以上の脅威が見当たらないのです。
まぁ、大穴に落ちたと思って気絶した動物たちは、このモグモグたちの糧になってしまうのでしょうけど。
ですが、そのモグモグ地帯を越えれば、そこは普通に地面が広がっているようですよ?
さてさて、それでは念の為、後ろの木に私の魔力の腕をくっつけて、さぁ、勢いを付けて~~!!
「たぁー!! と、飛んだりディジーリア隊員! ライザの森最後の謎に体当たりで突撃調査を敢行ひょわっ!?」
体の周りに魔力を強く纏わせて、ビガーブで界異点に侵入した時を思い出しながら「空間」で周りの異界を押し退けつつ、“黒”と“瑠璃”にも協力を依頼して……。
そうして飛び込んでみれば、あっさり『詐術』が支配する幻の空間を飛び抜けて、更にモグモグ達の上も越えて私は穏やかな光が照らす地面の上へ。先行していた幻のディジーリア隊長が見守る前をごろごろと転がっている時に、魔力を見る目が
見た目は草で出来たクッションに座る、それこそ掌に乗る程の小さな女の子。でも、座っているのはきっと萼で、女の子に見えて実は腰から下は在りません。
私は
知識で言うなら
実体験で言うなら――そうです、これは恐らく私の前世の一つです。ええ、私の前世はお姫様だとは思うのですが、実はその後に
『識別』出来る様になってから調べた私の技能に『花緑』が有りました。
森では警戒しているので殆どそんな機会は有りませんでしたが、特に
視点の高さ、なんですかね?
記憶なんていう物は、その時と似た状況の方が思い出し易くなるのでしょう。お姫様の記憶は思い出せない記憶。ですが、
吃驚した顔で惚けていた小さな
……そう言えば、私が女の子の上に伸し掛かっていましたねと、体を起こして座り込めば、それで太陽の光が当たった女の子はそこでファイティングポーズを解いて、ほけーと太陽の光を堪能しています。
ええ、そうです。私もこういう生き物でした。
誰も居ない森の中で、日がな一日日向ぼっこして、時折太陽の光を遮る枝にファイティングポーズを取って喧嘩を売って、夜になるとお休みして。
最後の記憶は赤い綺麗な光に包まれる森の光景でしたけれど、もしかするとあれは森火事だったのかも知れません。
苦しいだとかの感覚は無くて、ただ綺麗な赤い光に私も包まれた所で、
そんな事を思い出していた私の前で、
そう思って見てみれば、周り中に隠れた
ディジーリア探検隊が辿り着いた森の深奥は、
音を立てない様に立ち上がって、『隠蔽』を纏って踏み出します。
そう思いながらぼうっと見上げていたのですけれど……。
おや? 金色の木の枝が三本程、ぐらついている様に見えますよ?
よくよく近付いて見てみれば、金色の木の根元に散らばる金色の根に見えた物は、金色の木から切り離された古い枝の数々です。落ちたところで朽ちないのか、見る限りでも十数本は落ち……て……!?
「ああっ!? だ、大丈夫ですか!?」
落ちた金色の枝を浮かせて『亜空間倉庫』……は開きません。そう言えばここは異界でした。浮かせた枝は、そのまま
潰されていた
……何ですかね? 丸で潰されているのを楽しんでいたのにと言いたげですよ?
私も炎に焼かれているのに綺麗だなんてのんびりした事を考えていたみたいですし、
それに、ここは何だかそっとしておきたい気分でしたので、私は落ちている枝と、落ちそうな枝を回収したら、浮かせたそれらの枝と一緒に
丸太にしたらまずは界異点から紡いだ歪で強化して、それが終われば高圧を掛けながら熱を加えて表面を炭化させ、ふはははは、偉そうに言っても材木の反りなんて分かるだけの経験は有りませんが、樹脂までかちかちに焼き固めてしまえば反る事なんて無いのですよ!
それでもサルカムには届かないかも知れませんが、きっと同じ様には使える様になっていると思うのです。
それにしても、昨日今日と続けて前世の記憶が揺さぶりを掛けてくるのは、一体どういう事なのでしょうかね?
まぁ、
多分私の『隠蔽』が、自分でも解除出来ないのは、お姫様な前世と、
あのまま『識別』出来ないままだったならば、恨み言でも言っていたのかも知れませんが、それももう今は昔です。冒険者として生きていくなら、この『隠蔽』は私の武器でしか無いのですよ。
黙々と黒い丸太を量産して、序でに金色の枝も歪を使って強化して、作業を終えた時にはすっかり夜です。
ここはライザの森。王都からは獣車で二日の、更に加えてその最深部。普通に帰るなら五日以上掛かるかも知れませんけど、空を飛べば
そして出していた丸太や枝を『亜空間倉庫』に片付けて――
おっと、そう言えば忘れていましたね。
「隊長! 全ての任務は完了致しました!」
すると、空間から滲み出る様にして現れたディジーリア隊長曰く、
『フモフモフモ! フモ! フモフモフモフモ!!』
「はい! 速やかに撤収します!!」
即座に木々へと魔力の腕を伸ばしては、ひゅんひゅんひゅんと木々を渡りながら目ぼしい素材を探します。
枝から枝へとしゅたしゅたしゅたっと飛び渡る、ディジーリア隊長はご愛敬。
広く見えるライザの森さえ本の僅か。
ええ、私の前には広大な冒険の舞台が広がっているのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます