(102)困ったものですねぇ?
それは秋の一月十二日の事だ。
王都から南西方面の新入生出身地については、カイネルア領のシュライビスとネリア領のピリカが中心になって特産品を纏めていたが、少し行き詰まっていた。
マルハリル領から多くの果実が寄せられた様に、各地の特産物を持ち寄って収穫祭の目玉としようと考えたのが始まりだが、どうにもこれという特別な物が無い。
思い付く限りをリストにはしてみても、マルハリル領のシグルイの様な運んで来れない事情が無い限り、王都で売れそうな物は既に王都に入って来ている。
地元を宣伝しての領地振興なんて事も考えていたけれど、どうにもそれは欲張り過ぎなのでは無いかと思い始めた頃、強硬に意見を通そうと声を大きくし始めたのが、纏めをしていた筈のシュライビスだった。
この頃には、ピリカにも大体分かって来ていた。シュライビスは考え無しで気配りも足りないのだと。纏めをしている様に見えたのは、曲がり形にも貴族だったから、傍若無人に振る舞っていたのが偶々そう見えただけなのだと。
一応貴族だからとピリカも堪えているけれど、同じ平民なら多分疾っくに怒鳴り付けていたに違い無かった。
今もシュライビスが提案した内容は、ディラちゃん頼みのごり押しだ。そしてそれを提案したのはシュライビスなのに、何故かピリカにディラちゃんとの交渉を押し付けている。
「おい、お前が呼べ」
「…………」
「お、男が、ディ、ディラちゃ……なんて、呼べる訳無いだろう!?」
「…………」
「呆れた目で見るな! 失礼だぞ!」
「……はぁ。ディラちゃーん……居ないね」
「そんな簡単に諦めるな! 呼び掛け続けるんだ!」
「……はぁ」
ピリカはそもそもディラちゃん頼みな計画には反対していた。そんな遣り方では次が続かないからだ。実際、今もディラちゃんが不在にしているだけで、雑な計画に狂いが出始めている。
でも、収穫祭の時だけの特別な事というのも理解は出来て、商人としての常識との狭間でピリカは思い悩んでいた。
だとしても、ディラちゃんに頼るかどうかは別としても、少なくとも筋は通しておくべきなのだ。
「居ないのは仕方が無いよね。今の内に、リストの特産品に王都で手に入らない物が無いかを調べよっか」
「何でそんな事を調べるんだ? 私達の方が余程安く手に入れられるんだ。関係無いだろ?」
特産品を調べる――即ち王都の特産通りで各領地のお店に顔見せして、こちらの計画が迷惑を掛けないかを確認する。そういう根回しをしておかないと、お互いの客を食い合って、結局儲けが少なくなる。
商売を続けていくつもりが無くても、下手な売り方をすれば恨まれるばかりで益が無い。
目先の事ばかりしか見ていないシュライビスに、ピリカは喚き出したい気持ちだった。
何故それが駄目なのか、全て白板に書いている。今出て来た話では無いのだ。
特産通りに在るカイネルア領の店は、ほぼ間違い無くカイネルア領主の肝煎りなのに、その足を引っ張る事を領主の息子が口にしている。
ピリカで言うなら、兄が店を出している町で何の根回しも無いままに、ピリカが兄と同じ商品を安売りする様な物だ。許される筈が無い。
何度もしていた説明を、例を変えてもう一度ピリカはシュライビスに説明する。
「カイネルア領は畜産が盛んだよね? 王都にチーズも卸しているよね? ある日、何十日も掛かる道程を、一瞬で跳び越えられる騎獣持ちが、カイネルアから王都にチーズを運んでくる様になったらどうなると思う?」
「それは凄く売れるぞ!」
「……うん。そして、今迄のカイネルア領のお店のチーズは売れなくなるね。それだけじゃ無くて、今迄高い値段で売りつけてって詰られるかも知れないね」
「そ、それはそいつの努力が足りなかっただけだな」
「その後騎獣持ちが来なくなった後は、あのチーズ売りより高い、もっと安く出来るんでしょうって、やっぱりずっと詰られる事になるね」
「そんな事まで気にしていられるか!」
でも、こんな調子で話にならないのだ。
カイネルア領は、本当に牧歌的で、人より家畜の方が多い様な土地だ。
領都と言っても見た目は巨大な村としか思えず、住んでいる人達も本当に穏やかな人が多い。
村人としか見えない領都民と一緒に、領主も家畜を追っていたりする。
そこで悪餓鬼として育った子供が、自分が次期領主と気が付いてしまったら、こんな風になるのかも知れない。
――そうピリカは分析した。
でも、鬱陶しい。
王都からの方角が同じという事で、やけに馴れ馴れしいのも気持ち悪い。
気軽に人を扱き使おうとするのが嫌。
学院に入れたのも謎。
頭の中で怨嗟するが如く、罵倒の言葉を繰り返していたピリカは、ふわりと優しく後ろから抱き留められた。
上品な花の香りがピリカを包む。
「先程から聞き苦しいですわよ?
貴方はそんな事まで気にしていられないと仰いましたが、貴方の遣り様ではそういう事に気を回せない愚か者と王都中に喧伝する事になりますのよ? 余り私達の足を引っ張らないで下さいな」
侯爵令嬢のフラウニスは、立ち居振る舞いに妙な迫力が有って、密かに人気を集めていた。平民が過半数を占める今年の新入生からは、これこそ正当な貴族の一人だとの評価を得ている。
当然田舎貴族のシュライビスが太刀打ち出来る筈が無く、しどろもどろになった挙げ句に愛想笑いする始末。
「男爵家の跡継ぎだからって偉そうにしてもねー。要領が良くて試験の点は取れても、頭が悪いと家督なんて取り上げられちゃうよ? 陛下は貴族制を縮小していくお考えなんだから」
もう一人の女性貴族らしい騎士のミーシャロッテも、当然の様にピリカを擁護する。
シュライビスは、「分かったよ! ならお前達で考えればいいだろう! 私は知らないからな!」と、逃げていく。
ピリカはフラウニスに抱き締められながら、ぺこりと頭を下げた。
「フラウニス様、ミーシャロッテ様、有り難うございます。困っていたのでとても助かりました」
「あら? そんな畏まった物言いは嫌よ?」
「仲間なんだから、普段取りにお話しして欲しいもんだね!」
「は、はい。フラウニス様、ミーシャロッテ様」
「ん~……フラウ、でいいですわよ」
「私は、ミーシャ」
「はい、フラウ様、ミーシャ様」
「ん~」
「ま、今はそれでいいか」
ピリカがフラウニスに可愛がられているのがどうしてなのか、ピリカにも良く分かっていない。まだ事務棟の教室に集まっていた頃に、御付きの商人への勧誘をしてきた貴族の一人がフラウニスだった。
でも、考えてみればそれはおかしな事なのだ。フラウニスも、バルトーナッハと同じ様に、領地近くの王領にて試験を受けて学院へ来たと言う。しかし、侯爵ともなれば王都にも館が在り、出入りの商人だって居るのだから、ピリカを雇う必要は無い。
結局ピリカはフラウニスと序でにミーシャロッテ付きの様になったが、未だに大した用事は言い付けられていない。精々庶民が好む駄菓子を見繕って来なさいと言われて、豆粉餅や練り飴を用意したぐらいだ。ちょっと燥いだ様子のフラウニスが、ミーシャロッテと一緒に隠れて駄菓子を突いているのは何だかとても可愛らしかった。
あの時声を掛けてきた貴族達が男ばかりだった事、その中にシュライビスも混じっていた事から、今ではあれはピリカを助けようとしてくれたのではないかと思っている。
あの後も直ぐにディジーリアも動いてくれたり、今もまたフラウニス達が割って入ってくれたり、心を配ってくれている。
ピリカは幸運を噛み締める。学院に入るのが一年ずれただけで、状況は全く違っただろうから。
だから、ピリカは両の拳に力を入れて、力強く宣言するのだ。
「収穫祭は絶対に成功させようね! おー!!」
「その意気ですわよ。おー!」
「いい気合いだねぇ。おー!」
おー、と三人で拳を振り上げて、そしてくすくすと笑い合うのだった。
~※~※~※~
王都学院には、最高峰の技術や学問、上級騎士へ到る為の教育の他に、貴族家で担えなくなった数々の教育を引き受けている側面が有りました。
その一つとして家令や執事、家政婦の教育も行われており、それを目当てに学院へ入る者も多く居たのです。
男爵令嬢のイクミリスもその一人。
本当なら貴人に仕える者として、目に留まる事の無い様に気配を薄く保たなければならず、問われるまでは目上の人に意見を言う事さえはしたないとされていました。
しかし今年の首席新入生は平民の天才少女で、それとは別に身分が高いのは侯爵令嬢のフラウニス様と、辺境伯即ち侯爵相当と見られている第五将子息のバルトーナッハ様。
フラウニス様は王都に来て既に孤児院へ慰問に出向かれたと聞くお優しい方ですし、獣人達の振る舞いにも眉を顰める事も有りません。イクミリス達の様な侍女や家政婦見習いの者達に対しても、「部屋でまで気を張る必要は無いでしょう?」と声を掛ける様な方でした。
バルトーナッハ様はそれこそ武人気質の方ですから、持ち込んだ魔道具で淹れたお茶を配っていると、控えているつもりのところに平然と「旨いな。ありがとよ」と礼を述べるのですから控えても居られません。
首席のディジーリアは平民にも拘わらず、時々誰よりも気品が有って、どきっとさせられる少女でした。フラウニス様がそう有れかしと自らを律している感じがしますのに、ディジーリアは喋る言葉も雰囲気も自然体ですから、余計に心が騒ついてしまいます。
そして控えていなければならないイクミリス達にも言うのです。
「あなた達も提案や気になる事が有れば白板に書いて下さいね? 皆で収穫祭の出し物を成功させるのですよ!」
一人、また一人と、イクミリスの仲間達も白板へと手が伸びて、そしてすっかり
侍女や家政婦でしか無い筈の、自分達の意見が取り入れられ、子爵子息の提案に懸念を書き示しても咎められません。そして催された試食会では、殆ど自分達が主役の様な立ち位置に居たのです。
そうなると、もう止まりません。
それまで胸の内に抱えながらも、息を潜めていたそれぞれの欲求が、表へと飛び出してきたのです。
「私、本当は文官に成りたいの。お城で、ばりばりに仕事をしたいの」
「私は会計、お父さんの仕事を手伝いたい!」
「『武術』を受けてもいいよね? 受けちゃってもいいよね!?」
「わあ! それ、ミーシャ様みたいで素敵!」
『家政科』の講義はちゃんと受けるけれど、それ以外の夢も抱く様になったのです。
それはとっても素敵な事。そうイクミリス達は信じるのでした。
~※~※~※~
ティアライース=ルディ=ラゼリアは退屈していた。
偉大なる王を祖父に持ち、入学する前から孫姫様などと言われていたのだから自明の理では有るけれど、学院に居る間中ずっと一人になれる時間が無い。
王城を出る時には既に誰かが付いて来ていて、何処へ行くのも誰かが一緒。
学院の講義はそれぞれ希望する受講科目が異なって当たり前なのに、何故かティアラと同じ講義に希望者が殺到し、抽選に当たったか漏れたかで諍いが生じている。
ティアラ自身が抽選に漏れる事が無いのは、自分で選んだ希望の講義を真面目に受講しているからだと自負しているが、纏わり付いてくる有象無象が余りにも下らなくて、正直ティアラは閉口していた。
学院に、王族しか受けられない講義が設けられているのは、きっとそのストレスを発散する為だ。
そんな生活も既に三年目。
「孫姫様、○×△※□●△※」
「あら、そうなのね」
「□×△◆○、孫姫様の○※◇×□」
「ふ~ん、そうなの」
「ええ、孫姫様、□※◇▲○×◇」
「ふふ、申し訳ないけれど、次は王族の講義ですから、ここ迄ですわね」
「孫姫様! ○※□×△!」
「ご免なさいね?」
言質を取らせず、意味の無い言葉を聞き流す技術ばかりが上がっていく。
入室を魔道具で制限された講義室に入ると、無言のままティアラは窓際まで歩いていく。
三階の窓から見る嘗ての前庭には、事務棟や屋内鍛錬場が立ち並んでいる為に見晴らしがいいとは言えないが、元よりティアラは景色なんて見ていなかった。
目は何処を見ているとも付かない様子にて、カーテンに添えていたその両手に、徐々に力が加わっていく。
「…………む~か~つ~く~~~!!!!」
カーテンがどんどんと丸められ、その裾がたくし上げられていく。
ティアラの手の中でカーテンが玉に成ろうとした時、苦笑混じりの声がティアラへと掛けられた。
「気持ちは分かるが落ち着け。無駄に家政科の仕事を増やすな」
「伯父上様!」
振り向いた先に居るのは、父に良く似たティアラの伯父だった。
当然王族であり、この講義は本当の味方と言える者が少ない学院生活での愚痴を吐き出す場でも有り、また起こり得る問題の乗り越え方を教わる時間でも有った。
「そうは言いましても、余りに不毛ですわ!
「ははは、好きにすればいいが、前に教えた通り選ばない理由をそれとなく匂わせておく事は忘れるな。馴れ馴れしく擦り寄ってくる者は、図々しくも既に選ばれたものと考えている者が多い。自分が選ばれていなかったと分かったその時になって、身勝手にも逆恨みをしてくるものだ」
「言質なんて取らせてませんわ! 何よ、この『王家の耳』って! 何でこんな名前が付いているのよ!」
「何? もう『王家の耳』を得たのか? ははは、素晴らしい! そう腐るな、『王家の耳』はおべっかを聞き流す為の技能では無い。何十人が口々に陳情してきても、その要点を捉える為の技能だ。
「う~~……あれの御蔭でそんな技能を得られたと思う事がもう嫌よ!」
本当に、こうやって溜まった気持ちを吐き出す時間が無ければ、どうなっていた事だろうとティアラは思う。
案外そうして爆発していた方が、上手く行ったかもと思わなくも無いが、既に何度か苦言を呈した時の様に「また孫姫様はその様な事を」と、丸でティアラが冗談でも口にしたかの様な反応をされると、呆れ果てて言葉が出なくなるだろう。
その、自分には何も非は有りませんアピールを、信頼を勝ち取るべき相手で有るティアラを貶めてまでする意味は何だろうか。
王が力を持たず、貴族の専横が罷り通る世の中ならばいざ知らず、今は王が強大な力を揮う時代なのだ。周りの貴族に対して誤魔化す事ばかり上手くても、王が否と言えば切り捨てられると分からないのだろうか。
相槌すら止めて拒絶してみても駄目。寧ろ余計に纏わり付いて、哀願を繰り返されるのは鬱陶しかった。
挨拶の名目で一つ下の学院生の元へ出向いても駄目。振り切れなかった上に、出向いた先での扱いも殆ど同じだった。
もう学院で側近候補を探すのは諦めようかと思っていた。
――でも……
「ねぇ、伯父上様。今年の新入生は優秀って本当かしら?」
「ん? ああ、聞いている話だけでも凄まじいな。『教養』を飛び級出来無かったのが三名しかいない上に、既に収穫祭の出し物は殆ど決まって細部を詰めている段階らしい」
「……強力な指導者が居るのかしら?」
「いや? 力を合わせて乗り越えているらしいな。――くく……知っているかい? 今年の新入生は、侍女候補が『武術』や『経綸』を取っているらしいぞ」
「え、何それ!? 楽しそう!」
「ははは、なら今日は護りたい相手へ向かう妬心の逸らし方についてだな」
「はい!」
ティアライースとディジーリア達が出会う日は近い。
~※~※~※~
乗り気じゃ無い故に妙な言い回しで、ピリカがディジーリアにディラちゃんへの依頼方法を聞いた後に、ディラちゃんの巣に小さなノッカーが付いた。
でも、それと同時にディラちゃん用の掲示板が置かれていて、そこには「お昼寝中!重要!」の文字と寝ているディラちゃんの絵が描かれた木札が掛かっていて、ちょっとどう判断すればいいのか分からない。
因みに、昨日ノッカーが付けられた時点で「お昼寝中!重要!」の札が付いていて、夕方には「お出掛け中!不在!」の札に変わっていた。今朝になったら「ごろごろ中!ゴロゴロ!」なんて良く分からない札になっていて、そしてまた昼を食べて戻って来たら「お昼寝中!重要!」になっている。
これではいつディラちゃんに話し掛けていいのか分からない。
そんな気持ちで、密かにディラちゃんと仲良くなる事を画策していた女子連合は、男爵子息のシュライビスが小さなノッカーに手を延ばすのを、息を潜めて見詰めていたのだ。
「ディラァ?」
ノッカーが押されて暫くしてから、鳥の巣箱の様なディラちゃんの巣から、寝間着らしいふわふわの服を着たディラちゃんが上半身を覗かせる。
眠たげな様子に、興奮が止まらない。
(寝間着! ディラちゃん、寝間着可愛い!)
(シュライ邪魔! ディラちゃんが見えない!)
(ノックしたら、ディラちゃんに会える様になったんだ)
こしょこしょと内緒話をしていると、そこにピリカが合流する。
(どういう状況?)
(ノックしたら、ディラちゃんが出て来た!)
(寝間着姿が可愛いの!)
(……でも、ディジーが動かしてる人形だよね?)
((――ディラちゃんはディラちゃんよ!))
その間にも、ディラちゃんへシュライビスが何事か訴え掛け、それを聞いたディラちゃんが眠そうにしながらも一度引っ込んで着替え直して巣から出てくる。
「ディラ~」
パタパタと飛んで行った先は、何やらシュライビスが振り回していたリストに関わる白板の前。
まだ懸案が残っている白板を呆れた様に指差しながら、ディラちゃんが「ディラ」と声を上げる。
「そ、そんなのはどうだっていいだろ! 売れるのは分かってるんだ!」
そんなシュライビスにディラちゃんは首を振りつつ「ディ~ラ~ァ~~」と巣箱へと飛んで行って、そのまま巣箱に潜り込んでしまう。
「おい、コラ! 何帰っているんだ! 話は終わってないぞ!!」
巣箱を揺さぶり、ノッカーを叩き、罵声を浴びせるシュライビス。
その動きが一瞬止まったと思えば、
「ディラ!!!!」
巣箱から顔を出し、怒りに満ち満ちたディラちゃんの咆哮で吹き飛ばされた。
(((ディラちゃんのお怒り!!)))
目を輝かせる仲間に呆れた思いを抱きながら、ピリカは少し焦っていた。
ディラちゃんに頼る事には思う所も有るけれど、ディラちゃんの機嫌を損ねてしまっては収穫祭の成功も遠くなってしまう。
ただ、そんな心配も杞憂だったらしい。
「な、何をするのだ、この!」
「いや、お前には教育が必要だな」
横手から現れたバルトーナッハが、シュライビスの首根っこを捕まえて引き摺っていく。
見守る女子連合共々、ほっと息を吐くのだった。
「ごめんね、ディラちゃん。守って上げれなくて」
「ディラ!」
「彼奴の馬鹿な提案を蹴ってくれて有り難う!」
「ディラディラ」
「怒ったディラちゃんも可愛い❤」
「ディーラー!」
積極的には関わろうとはしていないけれど、こっそりフラウニス達も加わっている。
「ディラちゃん、お詫びにクッキーを召し上がれ♪」
「ディ……ディラ?」
「あれ? クッキーは駄目? じゃあ、キャンディーは?」
「ディラァ?」
「キャンディーも? ――ねぇ、誰か、何か無い?」
「え、ぇえ!? えっと、ディラちゃんはドラゴンさんだって言ってたっけ」
「じゃあ、光り物とか?」
「えーと、一朱金です。はい!」
「ディ~ラぁ?」
「あ、駄目なんだ」
「私いいの持ってる! ちょっと待って――これ!」
「小瓶? 何これ、凄く綺麗!」
「あは、何か分かったら苦手な人も居るんだけどね。ほら、鳥とか捌いてたら偶に出てくる――」
「ああ! 屑魔石!」
「それ! 綺麗だから集めてたんだぁ」
「待って! ディラちゃんが――」
「あ、目を逸らした。興味津々だ」
「はい、お近付きの印にお一つどうぞ」
「ディ、ディラ?」
「貰ってもいいんですよ?」
「ディラディラ」
「ん~、じゃあ、お駄賃で! クロ先生の所に行って、三馬鹿がちゃんとやっているか聞いてきてくれる?」
「ディラ? ――ディラ!」
「はい、じゃあお駄賃ね」
「「「「行ってらっしゃ~い」」」」
「ディラー!!」
ディラちゃんは、大事そうに小さな魔石を腰の小物入れに入れると、「ディラ」と叫んで空中に開けた穴へと飛び込んでいった。
見送る半分はにこやかに手を振って、ぎょっとしたのは一握り。
ディジーリアの級友達の意識改革は、着々と進んでいるのだった。
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