冒険者になるのです冒険者になるのです私は冒険者になって自由に生きていくのです。

みれにあむ

第一章 毛虫殺しの冒険者

(0)辺境の街デリラは冒険者の街なのです

 大陸中央北部に位置する、宝石箱の名を冠した王国、ラゼリア。王都から南に下る街道の行き着く果てに、武人の領主が治めるデリリア領は存在します。

 デリリア領を南へと行く街道から南の果てに目を遣れば、遠く広大な丘の上に見えてくるのは無骨な領都の姿です。丘を取り囲む街壁の上に姿を見せるのは、砦そのものと言ってもいい威容。飾り気の無い剛健なその姿は、ここが南に果てしなく広がる大森林との最前線である事を伺わせました。

 その魔の大森林デリエイラ。領や領都の名前の元となった宝晶石デリラが産出する事が知られるまで、恐るべき魔物の領土でしかなかったその場所は、とある冒険者の決死の探索の結果、恐ろしいながらも一攫千金の宝を秘めた、恵みの大地として知られるようになりました。

 大いなる力を秘めた森の魔力の結晶たる宝晶石は、燃え立つ様な緑の輝きの美しさもさる事ながら、嘗て無い強力無比な魔力を秘めており、直ちに国宝として讃えられたのです。それに合わせて領都も改名され、辺境に有りながら領都デリラは宝晶石と共に九番目の宝石の地位を与えられました。そして無骨な砦でしかなかった森境の街は、発展しゆく冒険と探索の街へとその姿を転じていったのです。


 領都デリラの北の大門は、軍用獣車六台が横に並んでも楽に通れる巨大さながら、それほど威圧感を感じないのは、常に開け放たれているからでしょうか。ころの付いた移動式のやぐらを、引き戸の様に両脇に動かして開く大門。それも普段は外囲いの木板しか用いない為、北門に圧迫感は存在しません。

 北門をくぐり抜ければ丘上の砦まで真っ直ぐ続く大通り。獣車が六台並んで走れる広い通りの両脇は、露天に出店、屋台や商店が所狭しと建ち並び、冷やかす冒険者や行商ら、住人の姿も相まって、辺境とは思えない賑わいを見せています。

 大通りも丘を登っていけば、そこはもう衛兵と冒険者の領域。丘の上の砦に寄り添う様に建てられた冒険者協会が筋骨隆々たる冒険者達を吐き出しては、また呑み込んでいきます。そして意気揚々と森へと続く南門への細道を下ってく冒険者達の姿。

 北通りとは違って、街の南は入り組んだ小路が網の目の様に走る、防御に重きを置いた作りです。鉄の匂いと金床の音が響く小路を行けば、そそり立つ壁には矢狭間が並び、見上げる頭上には打ち下ろす為の石が多量に積まれています。迷路の壁に組み込まれたかの様な店々は、北の商店とは違って無骨な冒険者の為の店ばかり。武器屋に防具屋、糧食屋や度のきつい酒を出す酒場、色街なんかも押し込められてはいますけれど、振り返れば南から仰ぎ見る砦の姿は、砦どころか無数の矢狭間が並ぶ強力無比な要塞としての姿を持ってそそり立ち、流石の荒くれ者達も、店の外では背筋に柱でも入ったかの様に、軽い緊張と共に胸を張った姿を見せていたのです。


 そんな街ですから、別の街なら鼻摘まみ者扱いされる冒険者達も、概ね好意的に受け入れられていて、時には憧れをもって語られる事も有るのでした。


 だからほら、今日も砦の修練場で、働き盛りの小隊長がどうにもならない子供を想って首を振り、冒険者協会の受付嬢は無謀な若者を見送って呆れた様に息をき、分厚い南の街壁に幾つも穿たれた小さな南門の一つで顔馴染みの冒険者の一人を見送った門兵が困った様に苦笑を漏らし、手作りの革鎧に腰には大振りのナイフを差した冒険者は、南門を出て随分と過ぎてから、そんな門兵の様子を見て深く深く溜め息を吐くのでした。


 これは、そんな冒険者の街デリラから始まる物語です。

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