(82)不遇な鍛冶師はふぐぅと呻く

 さて! 今日こそギルド回りですよ!

 そう気合いを入れた私は、寮の扉を開けて、朝日の中へ飛び出したのです。



 結局昨日は、お昼を王城で戴いてから、王都近くの鬼族の森へと行って来ました。

 ……何で王族のご飯に呼ばれてしまうのでしょうかね? ドレスには別に冒険者としての思い入れは有りませんから、『亜空間倉庫』に入れていましたけれど、孫姫様のお古のドレスを貰ってしまって、にっこり笑いながらのお愛想のお時間でした。

 “前の”私の姫様な部分も特段反応しなかったという事は、姫様的ポイントが限られているという事で、それはちょっぴり安心なのですけどね。


 そんな煌びやかな世界から一転、午後は鬼族の森奥で、この辺りの黒大鬼くろオーガを擂り潰して魔物の鉄の採集です。

 爺鬼の上位種であるこの辺りの大鬼オーガは、鬼おんじとでもいう名がしっくり来そうな、着流しを着た一つ目の入道です。その服が何処から出て来たのかは知りませんが、死ぬと土塊つちくれに変わるところは、ああ見えて皮膚の一部なのかも知れません。正直普通に巨人の一族に見えてしまいますので、服を着せるのはどうかと思ってしまうのですけどね。

 ゴブリン友の会の合体ゴブリンが、どことなく似ている様にも見えますけれど、大きさが近くて人の形をしているのがそう見えるだけでしょう。そこに騙されて、色々と想像を膨らませている王都研究所の人も居る様ですけど、もしかしたらサイファスさんが不在にしていたのは、早速その件で動き始めていたのかも知れませんね。

 妙に白っぽい大鬼鬼おんじと違い、黒大鬼くろ鬼おんじはやっぱり黒かったのですが、大きさは大鬼鬼おんじより頭一つ分高い程度、その代わりに数は一杯居たのです。“黒”の『鬼哭』で呆気なく絶命したところを、角と魔石と目玉を取り除いてからごりごり擂り潰す猟奇のお時間でした。

 『鬼哭』でこんなに鬼族の討伐が楽に出来ると知っていれば、ビガーブでももっと楽を出来たのでしょうけれど、今更言っても仕方が有りません。


 そうして手に入れた魔物の鉄を手土産に、今日はギルドを巡るのです。

 ふふふふふ、黒毛虫鉱山は王都にも健在ですね。



 さて、王都のギルドですが、私が貰っている紹介状は、商人ギルドへの一通の他は、二十通程同じ内容の紹介状を貰っている物になります。

 商人ギルドが何故一つかというと、どうも商人ギルドだけは王国の統制下に有るからの様ですね。まぁ、物語でも商家同士の抗争なんて泥沼に嵌まるしか無い感じですから、王国が舵取りをするのも仕方が無い事なのでしょう。


 ギルドに入ると何かいい事が有るのかというと、色々な情報が手に入り易くなるのと、商売に必要な諸々の資材を入手出来る事です。商人ギルドでは、これに加えて露天や屋台を取り仕切っていたりもする様です。

 デリラの街に有る様な、商人ギルドと職人ギルドが合わさった商業組合なら、必要な物はそこで全て揃えられたのでしょうけれど、こう別れていると何処を頼ればいいのか分かりませんが……まぁ、それでも商人ギルドへの入会は必須でしょう。

 職人ギルドはどうにも聞く限りでは、流派毎の職人集団といった感じです。言ってみればその流派に弟子入りしたい人がギルドに入って、道具やら何やらを安く融通して貰って、色々な技術を教えて貰って、一人前になればその作品をギルドの店に置いて貰えると、そういう事の様ですね。

 道具も自分で揃える我流の私には関わりそうにも無い場所ですし、学院で学ぶのが先でしょうけれど、取り敢えずは見てから判断しましょうか。


 そんな商人ギルド。当然の如く商業区画に有りました。

 場所も冒険者協会の裏手です。

 何となくまた突発の何かに巻き込まれそうで、寄らずにいた協会に後ろめたい気持ちを抱えながら、商人ギルドの扉を潜ります。入った見た目は……まぁ、こういう場所は何処も同じなのでしょう。幾つも並んだ受付と、奥の待合室では商談も交わされている様でした。

 冒険者協会との違いと言えば、受付嬢では無く、受付小母さんとか受付小父さんになっている事かも知れません。百戦錬磨の匂いがしますよ?


「あいよ! どうしたね?」


 声掛けしてくるその台詞までもが、もう商人です。

 こういう出来る人には、単刀直入にずばっと用件を伝えるのが吉ですね。


「王都商人ギルドに入りに来ました。登録お願いします」


 と、初めから紹介状を渡してみれば、書き込み用紙を渡されて、ささっと書いて渡せばあれよあれよと登録が済んでしまいました。


「ほう! 武具に、魔法薬に、素材って、随分と欲張りだねぇ! おまけに気に入った相手に気の向いた時だけって、はははは、ま、王都の商人ギルドは来る者拒まずさ! お代はしっかり戴くけどね!」


 紹介状が有っても四両銀と結構な登録料が取られてしまいましたけれど、資料室が利用出来たり、資材の購入に結構な割引が利いたりと、結果的にはお得になりそうです。


 そして早速赴いたその資料室ですが、各種商売の基本的な教本が幾つか有るのと、これも標準的な納品素材の図鑑が有る他は、書棚の殆どがカタログで埋まっていました。

 商会や各種ギルドが出しているカタログも有る様ですが、商人ギルドが分野毎に綴じた物が便利そうなので、ちょっと手に取ってみたのですけれど……。

 むぅ……鉄だけでも産地毎に区分けしていて、正直分かりませんね。砂鉄も有れば、高価ですが鉄も出回っているみたいです。

 でも、一番多いのは“門”産の金属類です。魔物が身に着けていた武具として産出される“門”からの金属類は、殆どが銀が混じる合金みたいですね。鉄の純度が高い物も稀に出る様ですが、これも実際に見てみなければ性質も何も分かりません。

 魔物が身に付けていた物ですから、魔物の鉄の様に魔力を通したりすれば使い勝手も良さそうですけど、こればかりはいくらカタログが有っても、実物が無ければ仕方が無いのです。

 鍛冶に関係する物でも、砥石や炉の粘土含めて色々記載は有りましたけれど、結局の所職人ギルドに出向かなければ何も分からない事が分かってしまいました。まぁ、何処が何を扱っているのか知れたのが収獲と言えば収獲です。



 さて、そんな商人ギルドを出て向かったのは、そのまま商人ギルドの裏手を西へと向かって屋根の上を抜けていった先の、ちょっと煙たい区画です。

 この辺りは、北西に在る“門”から運び込まれる大量の金属を目当てに、多くの鍛冶ギルドが軒を並べています。

 地上に降りてそんな石造りの平屋が建ち並ぶ区画を歩いてみれば、焼けた金属の匂いや鉄を打つ鎚の音が響いてきます。

 ……いいですねぇ。ラルク爺の鍛冶屋が一杯並んでいる様な物ですよ?


 本当なら一軒一軒訪ね歩いてそのわざを直に感じたいものですが、残念ながらこの辺りでは鍛冶屋にその作品は置いてないみたいですね。仕方が無いので一つ目の鍛冶ギルドへと向かいましょう。

 やって来たのはラウド鍛冶ギルド。入ってみましたが、ちょっと予想と違いました。

 鎧兜に盾に剣と、武具一式が揃えて有るのですが……何でしょうかね、これ? ちょっと変です。……いえ、本当に何ですかね、これは?


「おう! どうした? マディラ・ナイトがそんなに珍しいかい?」


 首を捻りながら見ていると、手持ち無沙汰にしていたギルド員に声を掛けられました。


「マディラ・ナイト、ですか?」

「おうよ。クアドリンジゥルの門じゃあ、こんな鎧騎士でも雑魚の部類だってぇから恐ろしいもんだぜ。サイズが有れば俺らが直すが、はははは、流石に嬢ちゃんサイズのナイトは見た事がねぇな!」


 ……成る程です。“門”ではこんな鎧のままの魔物が出るのですね。

 違和感の原因も分かりました。道理で職人の手が見えない訳ですよ。魔物の皮膚か何かの様に湧いて出た鎧を鎚で打っただけでは、作り手の痕跡が残る筈が有りません。

 それと、王都に全身鎧の冒険者が多い理由も分かってしまいましたね。魔物の鎧を修理するだけで立派な鎧が一領揃うのなら、ひょっとすると革鎧よりも安く手に入るのかも知れませんよ?

 ただ、ここは私の目当ての鍛冶ギルドでは無い様です。そう思いながら、私はそのを後にしたのでした。


 それから幾つかギルドを回った結果、王都の西には思い描く様な鍛冶屋は無いのではと思う様になりました。考えてみれば、一から鍛えて造り上げていくには、不純物の多い“門”からの鉄は厄介なだけです。きっとここに在るのは修理ギルドばかりなのでしょう。

 ならば、探すべき鍛冶屋はきっと東に在るのですよ。



 王都の西からちょっと高めに空へ昇ると、王都の全貌が見渡せます。

 まぁ、何となくお城を中心にして、周りに城下町が広がっているものなんでしょうと、知らない内は思っていましたけれど、実際にはラゼリア王国の王都は縞模様です。

 東西に一番長く延びているのが商業区画。この南側に少し短く居住区画が寄り添って、更に南にまた少し短く一般区画、その南が大きく膨らみ農園地区となっています。

 北側には商業区画に小さく寄り添う様に上流区画。上流区画に少し埋め込まれた様にして学院、王城、研究所が並び、その北は広く騎士団の演習場となっています。

 北の演習場と南の農園地区もあって、形で言うならいびつな円形では有りますが、それが無ければ東西に長い楕円形をしているのがこの王都です。


 その細長いそれぞれの区画も所々壁で区切られていますので、素通りとは行かないのでしょうけれど、見る限り防衛力が有る様には見えません。言ってみれば襲撃者との緩衝地帯は演習場や農園地区になるのでしょうけど、演習場直ぐが王城ですし、作物が生い茂った農園地区は逆に敵の姿を隠しかねない様に思えます。

 恐らく建国の伝説には必ず登場する英雄達の力によって、王都に危険が及ぶ事は無いと、あるいは王都に危険が及ぶ時は王国が滅びる時と、そう割り切ってしまったのかも知れませんけれど、防衛という点では何重にも護られていたデリラの街の出身からすると、どうにも不安が残る造りです。


 まぁ、王城の上から地平の彼方を弓で狙い撃ち出来る弓帝だとか、行って帰ってくるそれだけで軍を壊滅させる巨獣の主の巨獣王だとか、そんなのが本当に居たのならばこうなってしまうのも無理からぬ話では有りますね。


 ですが、それ故に人の暮らしを優先させた街並みには、活気が溢れているのでしょう。上空から見下ろす朝の街角では、行き会う人が朝の挨拶を交わしていて賑やかです。商人ギルドや冒険者協会の上を抜け、中央の通りを渡ってからは、そこに華やかさが加わりました。

 西の商業区画が煤や煙に騒音が鳴り響き、屋外か屋内かも分からない様な工房や倉庫の建ち並ぶ無骨な界隈。つまり、普通の人々が訪れない場所だとすれば、東の商業区画はお洒落な店舗が建ち並び、工房の建ち並ぶ職人街ですら品良く見えるそんな場所です。

 路地裏を行く人々を見下ろしながら、王都の西から東の端へ。

 劇場に、騎獣商に、商店街。各領の旗が掲げられた広い通りは、特産品通りというものでしょうか。公園や噴水広場は西側にも在った筈なのに、丸で同じ街とは思えません。

 休みの度に、朝から晩まで散策に費やしたくなるそんな街です。


(丸っ切りお上りさんですね)


 そんな事を思いながらも、それが王都なのでしょう。

 結構長い時間上空を飛び抜けて、流石に鎚音が鳴り響く鍛冶ギルドは在ったとしても街外れです。

 王城で貰ってきた地図は、上空からでも中々分かり易くてとてもいいですね。

 広く綺麗に掃除された通りへと降り立って、まずは大きな蹄鉄の看板が目立つデッサン鍛冶ギルドに入ってみましょう。


「こんにちは~」


 と両開きの扉を開けて、ギルドの中へと入った私でしたが、そこで動きを止めてしまいました。

 入った場所は、正面に受付が在るばかりの小さな小部屋になっていて、壁にデッサン鍛冶ギルドの歴史が蹄鉄などの実物と一緒に飾られているばかりです。

 ここでお店はやっていないのでしょうかね?


「おやまた、随分と小さなお客さんだ」


 そんな言葉と共に奥の扉を開けて出て来た小父さんから、珍しげに眺められてしまいました。

 その小父さんに聞いたところでは、東側のギルドは大抵が東門へと続く大通りに店を持っていて、ギルドで売り買いはしていないそうです。工房も別の場所になっている事が多く、ギルドは品物の集約と鑑定だとか事務仕事が主な業務だそうですよ?


「俺らは西の修理工共とは違うんだ。自分の手で苦労して作り上げた物は、それなりに格好を付けて売ってやりたいだろうが」


 ほほう、西の鍛冶ギルドは修理工というのは、どうやらここでも共通認識の様ですね。

 因みに王城から南へ貫く中央通りにも、多くのギルドは店を出しているとの事でした。もしかしたら、西へ東へとこんなにうろうろする必要は無かったかも知れませんよ。



 そんな話を聞いた事も有って、所は変わって東通りの商店街へとやって来ました。

 確かに地図に書かれているのと同じ、ギルドの紋章が描かれた店が随所に在ります。

 今日は私の鍛冶場や作業場を調える為に来ているのですから、興味を覚える魔石道具なりが有ったとしても、それはもう二の次です。

 お店の中に入ったならば、魔力を伸ばして探りながら、一周もすればお店を出てと、冷やかしにしても酷い客です。自覚も有ったので、『隠蔽』強めで店々を回りました。


「……鉄の武具が有りません」


 結果として、思わず独り言を言ってしまうくらいに、鉄で出来た武具が冷遇されていて、ちょっと呆然としてしまいました。

 ……いえ、違いますね。全ては“門”産の魔物着用武具が有る所為でしょう。

 鉄製の武具はそう高い物では有りませんが、流石に“門”産の魔物のお古と較べるのは可哀想です。しかも、数が多い魔物のお古は探せば自分に合う物が見付かる可能性が高いのに対して、鉄製の武具をオーダーメイドすれば更に数倍値段が張る事になります。

 少しのお金でそこそこの質の武具が手に入るなら、“門”産の武具に手を出すのは当然の流れです。鉄製の武具が売れる筈が有りません。

 それでも混ざり物が多い分だけ“門”産の武具は脆いのですが、ちょっと歪んだところで安くで替えが手に入るのですから気にする事も有りません。更に言うならこの辺りに出る魔物は、鎧を着込んでいたり岩の体表を持っていたりなまくらで充分な鬼族だったりと切れ味なんて気にしない魔物ばかりとくれば……。


 デリエイラの森ではまだ切れ味が重視されていましたし、流石に王都から“門”の武具を運んで来るのは費用が嵩んで割に合わなかったのでしょう。湿地帯も有りますから、重い武具を運んでくるのはそれだけでも大変です。

 それでも商都には“門”産の武具が溢れていたのかも知れませんし、しっかりと見てはいませんでしたが下級の騎士になると“門”産の武具を使っていたのかも知れません。


 そんな何とも不遇な鍛冶職人の遣る瀬無さを、結局一番質が良かったデッサン鍛冶ギルドに教えて貰った暖簾分けの刃物鍛冶の下で吐き出してみましたら、そこの親方に気に入られて随分と意気投合してしまいました。


「おうよ。鉄の力は使い捨てにされるがらくたに劣る物では無いわ!」


 今は涙を浮かべながら私の話を聞いてくれている親方ですけれど、私が鍛冶場に訪れた当初はやばい目付きで切羽詰まった雰囲気を振り撒いていましたからね。眼力で殺さんとでも言うかの様な親方の促すままに、打った物は貰えるとの事でしたので、金床は借り物ですけど鎚は“瑠璃”に出して貰った自前の物で、大小の包丁を打ち上げてからはこんな感じです。

 その包丁、輝石を象眼すればランク二もいけたかも知れませんが、恐らくはランク三か四ですね。それも私が使うのに限っての話です。


 親方はやばい目付きも消し飛ばして愕然としていましたけどね。言い訳という訳では有りませんが、上級以上の武具は籠められた魔力が利いてくるので、この包丁は私専用である事、親方の剣もしっかり鍛えられていてお城の宝物庫で見た恐らくはランク五の刀とも見劣りしない事、それは即ち親方の剣に魔力を叩き込む事が出来たらランクが二つ三つは簡単に上がる事を告げて、証拠とばかりに『亜空間倉庫』に仕舞い込んでいた大鬼オーガの魔石を親方の剣に打ち込んでみたら、到頭親方も泣き崩れてしまったのです。

 親方も噂に聞き齧った刀の製法から模索して、色々と手を入れていたと言うだけにいい剣でしたからね。それでも中級以外の何物でも無い剣が、上級の剣へと姿を変えたのですから、感じる物は有ったのでしょう。


 まぁ、これは鉄の剣だからこそ出来るわざです。魔物素材の場合は、同じ魔物の素材や魔石で無ければ反発して逆効果になってしまうでしょうから。

 だからこそ不思議だったのは、鍛冶師の親方が魔石での強化を知らない事だったのですけれど――


「ぬ、抜かったわ! まさかの常識だったとは!!」


 床に額ずけて叫ぶ親方は、本当に知らなかった様ですね。武具を打たない一般の鍛冶ギルドで育てられた事と、周りに武具を打つ鍛冶師が居なかった事による弊害です。

 まぁ、私も多少の“記憶”は有ったと雖も、殆ど我流なのですから、それ程環境に恵まれていた訳でも有りませんし、それに悪い事ばかりでは有りません。手軽に強化出来るすべを知らないままに研鑽したからこそ、親方の腕が鍛えられたでしょう。実際に私と違って魔力の業も無いにも拘わらず、魔石を打ち込むだけで上級に到る剣を打ち上げているのですから。

 そのわざが、費やした時間によって磨かれた物では無いと、誰が言えるというのでしょうか。


 ま、そんな感じで私は鍛冶師の親方と仲良くなって、親方が研究の過程で見出した諸々の事柄含めて教えて貰う事が出来たのです。

 即ち私が知りたかった炉の粘土の銘柄や配合、剣に良い砂鉄の産地、おまけに砥石の造り方。この辺りは、商人ギルドで発注すれば、問題無く手に入れられるとの事でした。

 更には親方の手による出来のいい砥石のセットまで貰っては、私も開示しない訳には行きません。

 と言っても、魔力の扱いには通じて無さ気な親方です。私が教えられる事には限りが有るのですけれど、魔石での強化は錬金術師も出来た筈だとか、そんな辺境なら誰でも知っていそうな事から始まって、取って置きはやっぱり魔物の鉄の存在です。鬼族の上位種から採れるという情報の他にも、砥石を貰ったおかえしとして握り拳一つ分置いて来ましたから、まぁ充分な対価にはなるでしょうね。

 正直、次に遊びに来た時にどうなっているのかが楽しみなのです。

 見せたら逆にショックを与えそうなので今回は見せませんでしたけれど、次は“黒”や“瑠璃”も見せられる様になっていますでしょうかね?



 結局鍛冶ギルドでは紹介状を使いませんでしたが、それ以上に仲良くなれた気がします。

 他に気になるのは調薬ギルドや錬金ギルドですが、これは採取してきた薬草を新鮮な内に卸すなら、直接ギルドに持ち込むのがいいだろうというだけで必須の物では有りませんし、石を扱う宝石ギルドや魔道具ギルドにも興味は有りますが、こちらはギルドへの用と言うより単なる客としてですから別にギルドで無くても構いません。

 つまり、東側のギルドがお店を出していると分かった今、中央まで戻る道すがら、途中のお店を冷やかしていくだけで、大体の私の用件は終わってしまうのですよ。


 そんな訳で、今日の残りはお店巡りの日なのです。

 鍛冶ギルドの店を回っていた時にも気になっていた店を回り、お昼のご飯もお店に寄って、東から中央へと戻る途中の店から店へ、「加速」も使って渡り歩いたその結果は、『亜空間倉庫』の中の大荷物と、減った二百両金塊が二つ分。

 いえ、だってですね、宝石ギルドの店に寄ってみれば、大袋に詰め込まれた光石と、これまた大袋一つ分は確実に有る屑魔石で、合わせて百両金にも全然届かなかったのです。それならと、普通の魔石も合わせて二百両金塊で買えるだけ、なんて事をしても仕方が無いというものですよね?

 魔道具だってこれから学院で勉強するのなら、自分で好きに分解出来る教材が有ってもいいではないですか。

 どちらにしても、銀では無くて、金塊でも支払えたのは幸運でした。


 ちょっぴりと言うには豪快に散財して仕舞いましたけれど、全く手持ちが減っている様に思えないところが怖いですね。もっと使えという事なのでしょうか。


 兎に角そんなこんなで中央の通りまで戻って来て、やっぱり一番始めに目に付くのは大きな建物の冒険者協会です。

 そう言えば、ライザの森で集めた素材や、鬼族の森で採取した薬草が、『亜空間倉庫』の中に山積みですね。

 今日やらなければならない事は、後は商人ギルドで炉の粘土や鉄を発注するくらいですので、先に協会に寄って、もしも手持ちで達成出来る依頼が有れば、受けてしまっても良さそうです。


 そう思って私が冒険者協会へと入り、受付の前に並んだ時、学院とは違う王都での私のもう一つの物語が動き始めたのです。


「なん~だぁ、このガキゃぁ!? ここはガキが来る場所じゃねぇぞ、ごらぁ!!!」


 私が待ちに待っていた、そんな新人冒険者への洗礼の声と共に。

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