(152)事実を説く難しさ ~特別講義 一日目午後~

 騒めく大講義室の様子を眺めながら、私は用意されていた椅子に腰掛けました。

 漸くほっと息が吐けますね。

 喋り尽くして、幻を見せて、私にとっての山場が終わった感じです。


 だってですねぇ、『根源魔術』は人によって扱いの異なる体術みたいな物ですし、『儀式魔法』は発注の仕方だけの話ですから、講義のねたなんて直ぐに尽きてしまうのですよ。どれだけ頑張ったとしても、これ以上座学で話せる内容なんて有りません。


 それとも、誤った認識により起きた悲劇の歴史なんていうのも講義にはなるのかも知れませんけど、それは私の範疇では有りませんね。

 それこそ妄想の魔術学に騙されていた人達に、その悔恨や憤懣を原動力として取り纏めて欲しいものですよ。


 王様の直ぐ近くに居る私自身に声は掛けられずとも、人形には結構質問が投げられていますから、人形にその相手をさせつつ受講生達の様子を見ていきます。


 私の人形に質問して許可を得た最初の一人が、光石のブロックに近付いて色々試し始めたのを皮切りに、皆さん席を立って四箇所に設置したブロックや玉砂利へと集まって来ます。

 それを誰も何も言わずとも、交通整理したり暗幕の調整をしたりしてくれる部屋の仲間達。


 暗幕の中で、友人同士らしい学院生二人が、光石のブロックに手を当てています。

 初めは右の学院生の方が強い光。左の学院生には淡い光。

 しかし魔力を込めると、右の学院生は光が少し強くなりましたが、左の学院生の手からは眩い光のにょろにょろがブロックの中を悶えました。

 目元を押さえて涙を流す左の学院生と、苦笑しながらそれを宥める右の学院生。

 何だか青春しています。


 そんな遣り取りも其処彼処で行われながらも、半数程は配っていた教本巻末の『儀式魔法』集に目を走らせています。

 愕然とした表情の人。

 目を血走らせて読み込もうとしている人。

 危険で無い『儀式魔法』を試そうとしているのはそのまま任せて、大講義室でするには危ない『儀式魔法』を試そうとしたなら、妨害と共に人形からの警告です。


 部屋を飛び交う私の人形は四体。

 冒険者ディジー人形、所長ディジー人形、ディジー姫人形、普段着ディジー人形です。

 ディラちゃんに喋らせるのは微妙な感じがしましたから、ディラちゃん人形はお休みですね。

 それぞれに結構な頻度で質問が来ますから、本体の私はぼんやりして見えても、実はそれなりに忙しないのですよ。

 ロルスローク先生はそういう事情を知りませんから、私に話し掛けたそうにしていましたけれど、顔の広いロルスローク先生が外来のお客様も多いこの講義で話し掛けられない筈も無く、私も状況把握に注視していられるのです。


 いえ、人形四体では手が足りなかったりするので、その時は幻のディジー人形を作って対処しないといけないのですよ。


 そして二齣目の講義が終わる時間になると、概ね皆さん満足した表情を浮かべてくれていたのです。


「はい、時間になりましたので、二齣目は終了です。光石のブロックは回収しますけれど、先程も言いました通り、後日学院と王城と王都研究所に一つずつ寄贈致します。玉砂利は二三個なら持って行っても構いませんが、光石を強く光らせられるのは『魔力制御』が出来ているという事ですから、『儀式魔法』が使えなくなる可能性も有りますので、光石で遊ぶにしても自己責任でお願いしますね?

 それでは、午後は裏に在る演習場でお会いしましょう」


 因みに、光石のブロックの残る一つは私達の部屋に設置しますよ?


 私の後を引き継いで、クロ先生が連絡事項を言い渡したなら解散です。

 光石の玉砂利を一籠出入り口脇に移したなら、ささっと他の玉砂利や光石のブロックを回収してしまいましょう。


 そして片付けが終われば昼食なのですけど――


「では、ご来賓の方々は食堂までご案内致します」


 私が片付けてる間に、クロ先生が案内していました。

 私もそれに同行しないといけないのですよ。

 まぁ、お偉い様の接待が含まれるのは仕方が無いかも知れませんけどね?

 尤も、予定に無かった王様が居ますから、面倒な人の相手はしなくて良さそうなのは助かりました。


 因みに、ロルスローク先生も一緒です。

 魔道具の権威は、中々顔が広いのですよ。


「では、こちらへ」


 と、上等な方の食堂は今日は貸し切りで、促されるままに真ん中のテーブルへと案内されました。

 当然の如くして、王様達も同じテーブルです。

 更にはこの前見えられた騎士団長さんや騎士団の隊長格といった戦力としての魔術を求めていそうな人達と、王城の高官といった雰囲気の人達ばかりが同席しています。

 厳めしい中で、王妃様が癒しですね。


 残念ながら、ロルスローク先生は別席です。

 お客様を持て成すのに、一つのテーブルに固まる事は出来無いのです。

 序でに言うと、バルトさんとフラウさんも巻き込まれています。

 高位貴族子女となると、こんな事は茶飯事と気にもしてはいませんでしたけどね。


「良い講義だった。講義内容は予め摺り合わせていたのか?」


 前置きも無しに、王様から話し掛けられました。


「いえ、時間も有りませんでしたから、昨日一回リハーサルをしただけですね」

「昨日……我と出掛けていた筈だが?」

「人形を使ってリハーサルしたのですよ」

「ふん……まぁ良い。お主が知らぬのは、官署台長官マクリーガと白嶺隊の――」


 いえ、私も各方面に何度か講義内容についての摺り合わせをしようとはしたのですよ。でもその度に私の好きな様にやって良いと言われて、結局昨日流れを確認するだけのリハーサルを一度しての今日なのです。

 それにしても相談出来る人が居ないのですから、結構な心労だったのですよ?

 まぁ、結局は開き直ったのですけどね。


 初見の方の紹介を頂きながら辺りの様子を窺うと、他のテーブルでも同じ様な自己紹介が繰り広げられていますね。バルトさんやフラウさんもそつ無く対応しています。

 裏方の気配が少し騒めいていましたが、どうやら今日の食堂スタッフは王城からの出向です。学院生達がその目指す所をその眼で見て、それで気配が揺らめいているのでしょう。


 王様からの紹介も終わりましたので、配膳が終わるまで談笑の時間です。


「――魔術講義をする事になった切っ掛けですか? そうですねぇ~……元はと言えば騎士団の演習にお邪魔した事ですけれど、それもそもそもはサイファスさんの剣を打つ話が切っ掛けですかねぇ?」

「サイファスラムの剣が? 確かに新しい剣を手に入れたらしいとは聞いたが、それがどう関わるのだ?」

「あれも元々は王様から促されたものらしいのですけど、冒険者協会に指名依頼として要件だけが届けられていて、話を聞く為にも王城に出向かなければならなくなったのですよ。

 そして王城を訪ねたらサイファスさんが不在にしていて、それなのにサイファスさんとの会話の切っ掛けになるとでも思ったらしき女騎士さんに案内役付きで騎士団の演習現場に送り出されてしまいまして、其処で何故か王様から演習への参加要請が有ったのです。

 その日は白嶺隊相手に『隠密』での隠れん坊でしたから、魔術との関わりは薄かったかも知れませんでしたが、王様にお呼ばれしての二回目が、黒狼隊相手に魔力での『威圧』に対する耐久訓練です。

 その時の結果が芳しくなくて、王様が魔術についての認識を見直す事になったみたいですね」

「そうよな。この場ではたった一人を相手に翻弄されたとだけ言っておこう」


 高官さんの質問に答えていたら、騎士団長さんがちょっと濁して補足しています。

 王様は態とでしょうけど知らん振りですね。


「まぁ、魔術に対する認識の違いなのですよ? 今日の講義を聞けばその認識も革められたのではと思いますけど、自然と漏れている魔力で放てる程度の『儀式魔法』での攻撃魔術を、これまでは魔術と認識していたのです。それが一般人には脅威でも、所詮は客寄せの張りぼてで、本当の魔術は別に有ると言われれば、放ってはおけなかったのでしょう」


 と、ちょっと私も有耶無耶にするのに協力してみました。

 考えてみれば、部外者の沢山居るこんな場所でする話題では無かったのです。


「その御蔭で我が国の騎士は本物の魔術を知る機会を得た。偶然からの産物とは言え僥倖と言えよう」


 そして最後は王様が締めましたので、この話題は終わりです。

 同時に気配も無く配膳も終了して、思い思いに食事が始まります。

 最初に誰が手を付けるなんてルールは有りません。催主が居るなら別ですけどね?


 ちょっとどきどきしながら、出されてしまった食前酒に手を伸ばします。

 ……う~ん、良く分かりませんね。酸味が有って口の中がすっきりした感じはしますけど、母様がにこにこしてしまう様な美味しさはどれを言っているのでしょう?

 食前酒ですから、もしかしたら酔ったりしない様なお酒なのかも知れませんけれど。


 くるくる巻いた野菜をはむはむ。

 ……これも良く分かりませんね! 美味しさはリールアさんの野菜に並び立ちますが、逆にそれはリールアさんの野菜が凄いって事になりませんかね?


 お魚からは魔力の手で骨を外して、すっと撫で切りにして――

 ん~~♪ ソースが絶品で堪りません!


「うふふ、いつも美味しそうに食べるわね。見ているだけで私も美味しく感じるわ」

「うむ。作法も見惚れる程だ。もしや高名な教師に教わったのであろうか」

「いえ、これはこうして食べる物ですけど、大食堂で出て来る御飯ならどんぶりの中でぐちゃぐちゃに掻き混ぜてから掻き込んだりしますよ? 美味しく食べれる作法は食事によりけりです」

「ははは、違い無い! 差し詰め行軍食なら手掴みだな!」


 何故か私が食事をすると注目されるのもいつも通りです。

 そんなに美味しそうに食べているのでしょうかね?

 自分では良く分かりませんけど、人が食べている所をじっと見るのは、余り礼儀が良いものでは有りませんよ?


 と、そんな感じで昼食は進んだのですけれど、当たり障りの無い話題しか話せない場に王様が焦れたのか、食事が終わった途端に別室です。


「ふ……やっと落ち着いて話が出来るな」

「人に話せない事ばかり聞かされても困りますよ?」

「……話せない訳では無いが、我にも落ち着いて考えさせろ」

まさしく! ――まぁ、『海塩』の影響は然程では無かろうが。元より塩を王城の専売としたのは、安定した入手の維持を求めた物。その需要が減ったとなれば新たな産業に割り振るのも、輸出に回すのも視野の内だ」

「その割りには疲れた顔をしているわね、マクリーガ」

「ははは、これは手厳しい。財務台の管轄と逃げたい気分なのは確かよな」

「あ、でも果粒って有りますよね? 普段私は普通の塩より果粒ばかり使ってますよ? 『海塩』ではちょっとした味の調整くらいにしか使えませんから、実はそんなに影響が無かったりしませんかね?」

「いや、間違い無く『海塩』の魔道具が作られて、内陸部奥地の需要はそれで賄われる事になるだろう」

「あ!」

「まぁ、言っても塩だ。日持ちはする故に、様子を見るしか無かろうな」


 確かに大した話題では無いのかも知れませんが、人前でこんな話をしていると余計な憶測で混乱を引き起こしそうですし、食堂で話せないのは納得です。


「それよりも『問い合わせ』で情報が筒抜けになる方が問題だが……阿呆あほうが自滅する絵しか思い浮かばんのがな」

「然り。――しかし、宗教屋共が以前からそれを知っていたのやもと思えば、今明らかになったのは幸いとも」

「宗教と言えば諸々の裏話が戦争の火種其の物だが、『問い合わせ』してしまえるとなると……」

「混乱しか招かぬでしょうが、王国に影響を与える程の勢力は――」

「バラム戦帝国を滅して幾分気が抜けているが、中央の華が各国から狙われている事には変わらん。何れ燃え上がる運命と言うならば、火が点いたならば踏み消せば良い」

「御意。白嶺隊に戦を恐れる者は無し」

「黒狼隊も同じく」

「とは言え、攻めて来るにしても体長格が『根源魔術』を学び終えてからにして貰いたいものよ」

「ふはは、団長殿、火傷を恐れていては始まらぬぞ?」


 で~す~か~ら~……私をそっちのけで言葉の端々を省いた会話が繰り広げられていますけれど、そういうのを聞かされてもどうしたらいいのでしょうかね!?


「ふふ、いつまでその様な話をしているのかしら? ディジーが困っていてよ? アラス、何かお話が有ったのでは無くて?」

「む、そ、そうだな」


 そういう何処か国の中枢に居る人達にとっては雑談程度の馴れ合った雰囲気ながら、うっかり聞くには重い話題に、王妃様が釘を刺してくれて、それで何とか私も息を吐ける様になりました。

 王妃様とは王族区画にお邪魔した際には、ドレスや装飾品を巡っての良く分からない攻防が始まってしまうのですけど、私の立場に寄り添って味方に立ってくれている感じがとても有り難く感じるのですよ。


 ですけど、王妃様の言葉も余り効果は無かったみたいですけどね。


「ふぅ……我が気にしているのは、王城に備えられている筈の護りの魔道具だ。王都まで攻め入られる事は、嘗てのバラム戦帝国との戦役の中でも一度も無かったが、それ以前のまだ王国が版図を広げる前には、幾度も王都が戦火に曝されたと聞く。

 そこで最後の砦となったのが、王城を覆う護りの力と、多くの書物に残されていた。

 外から撃ち込まれた魔術も矢玉も軒並み防ぎ、内では害有る魔術の発動まで妨げられたと書かれていたな。

 しかしお主は平然と飛んで入れば、魔術も自在に操っている。

 既に護りの魔道具を当てにする時代でも無いが、何処まで頼りに出来るのか分からぬのも困り物だ」


 口調を改めた王様はそんな事を言いますけど、それは私の範疇では有りません。

 やっぱりまだ混乱しているのでしょうか。


「いえ、それを相談するなら、私では無くロルスローク先生ですよ?

 私は魔力の流れなら分かりますけど、魔道具ではやっと音を鳴らすのに成功した程度です。

 王城の周りに魔力の繭みたいなのが有るのは知ってますけど、どんな効果が有るかは分かりません。

 その繭に注がれる魔力の流れが有りますから、王城の中では多少魔力が乱されそうです。魔術の発動を妨げるとまでは言い過ぎな気がしますけど」


 魔道具について学び始めたばかりの私ですから、流石にそんな相談をされても困ってしまうのですけど、王様も普段でしたらそんな事は十分了解してそうです。


「確かに。ならば依頼先は学院長――いや、研究所か? マクリーガ、研究所員への依頼手順は?」

「ふむ、所長含め事務方には一報し、依頼自体はほぼ研究室に直接持って行く事が多い」

「任せる。それはそれとして、ディジー、その際にはお主も同行せよ。魔力の流れが見れるというのも理由の一つだが、魔導師共が馬鹿を為兼ねんのが気懸かりだ。騎士達でも制圧は出来ようが、身動き一つさせずにそれが出来るのはお主を置いて他に居るまい」


 ですから、方向性さえ修正すれば、次々に道筋が開かれていくのですよ。

 その結果、結局私に御鉢が回ってきたりするのですけどね。


「今は他に仕事を受けていませんから構いませんけど、これも“遠慮無く”の弊害なんでしょうかねぇ」

「くく、断るつもりなぞ端から無い癖に言いよるわ。諸々の褒賞が積み上がっている故に、言えば大抵の望みは叶えられるぞ?」

「思い付きませんから、保留ですねぇ」


 一瞬、王様の大物感を分けて貰えませんかね、とか冗談を言おうと思ったりもしたのですけど、下手な事を言うと言葉尻を捉えられて大袈裟な褒賞を与えられそうでしたから、ここは保留の一択です。


「その調子では、郷里でも保留の褒賞が積まれてるな?」

「――いえ……多分、有りませんよ? 領城に預かって貰っている分は有りますけど、受け取っていないのは無かった筈です。王様みたいに冒険者の依頼を熟しただけで褒賞とか言い出す人は居ないのですよ」

「それが王の仕事の一つだ。だが守護者を討伐して褒賞無しは信じ難い」

「それについては当然頂いていますよ? 色々言ってみるものですねぇ。大満足の褒賞でした」


 王様の問いにそんな事を答えると、王様は意外そうな表情で私を見てきました。


「因みにだが何を貰った? お主が喜んで受け取る褒賞だと?」

「家を建てる土地を貰って、デリラの街は領城から魔の領域が在る側に緊急出動用のトロッコが設けられているのですけど、それの一日乗り放題の権利を貰って、更に同じくデリラの街のトロッコの在る側と反対側には、天辺から麓まで避難用の滑り台が在るのでそれを開放して貰いました!

 ――って、何故頭を抱えてるのですかね? お金では買えない貴重な褒賞で間違い有りませんよ?」

「参考にならんわ!!」

「あ、一つ漏れてました! 嵐の日に領城の上で盛大に篝火かがりびを焚くというのも有りましたね!」

「参考にならんと言っている!!」


 王様は疲れた表情をしていますけど、他からは笑いが零れています。

 私としては、その時に必要な物を頂ければ、それが最高の褒賞と思うのですけれどね。何て言うか心外です。

 領主様は笑って許して下さいましたけど、その領主様も私に黙って私の名前の研究所を造ろうとしていましたし、お偉い人が渡そうとする褒賞は何処かずれていませんかね?

 まぁ、噂も馬鹿に出来無いと知りましたから、無意味とはもう思いませんけれど、貰うとしても以前の様に私に選ばせて欲しいものですよ。



 そんなお昼の時間も、流石に私は準備をしない訳には行きませんから、裏では人形が飛び交ってます。

 一応片隅には光石の玉砂利とブロックも設置しています。

 殆どは、人の配置と配置の目安とする演習場への線引きなんですけどね?


「この盾はやはり凄いな。本当に貰ってしまって構わないのか?」


 文官組ながらエミールオノさんは盾の使い方が抜群でしたから、強化を重ねたサルカム製の盾を造って渡しています。

 エミールオノさんの家の紋章を掘り込んでいますから、ほぼ専用ですね。

 炭化させたりしていませんから見た目は木盾ですけど、ランクは二とかなりの代物です。


「ダンジョンに遊びに行った人達の装備は諸々鍛え直したりしてましたから、遠慮する事は有りませんよ?」

「金属盾より軽く、それでいて鋼鉄より硬い。上級になると両手持ちの武具持ちが増える故に需要は微妙だが、十分上級の狩り場でも通用するな。家宝物だぞ?」


 人形の体で告げる私に、バルトさんも続きます。

 木の盾に価値を見出す人は居ないでしょうが、実は上級。

 『鑑定』されてランクを知られても、紋章付きで足が付く代物には中々手が出ないでしょう。

 それでいて家宝に相応しいサルカムの盾となれば話題性は十分。


 剣士ばかりを優遇して、純粋な文官組を軽んじてでもいるかの様な扱いになってしまっていましたが、ちょこちょここんな感じの記念品は贈りたいものです。

 折角同じ部屋の仲間になったのですからね。


「ふふふ、木の盾を持った中級にもなっていない文官候補に軽くあしらわれる自称魔術師。見物ですわね」


 フラウさんが悪女にでもなったみたいな台詞を言ってます。

 何やら、魔術講義リタイア組は、誰しも一度はキーキー騒がしい魔術講師から嫌味を言われているらしいので、思う所も有るのでしょう。

 でも――


「もう! 今日は『根源魔術』の地位向上で、『儀式魔法』使いを貶めるのが目的では有りませんからね!? ちょっと自重して下さいよ!?」

「いやいや、どう考えても『儀式魔法』を扱き下ろしてるよな?」

「正しい認識を知らしめているだけです。“ちょっと便利”なのが『儀式魔法』で、“強さ”を求めるべきもので無いのは、知っておくべき事実です」

「まぁ、分からなくも無いわね」


 まだお昼の時間ですから、私達の他にも学院生達が演習場には溢れています。

 魔術講義を取っていない人も興味深そうに見ていますから、結構見物人が出るのでは無いでしょうかね?

 そんな人の合間にポールを立てて線を引く作業も一段落し、後ろの人も見れる様に三段程度の台も据えたなら、三々五々受講者達が集まって来ます。

 当然私も本体で合流し、会場の整備です。


 王様達は少し離れた場所から胡乱気に見てますね。

 私が人形を使っての同時進行作業していたのを窘めた王様ですから、またやっていたなとでも思っているのでしょう。

 確かに離れた場所での同時作業は負担が有りますけど、私の魔力の支配下に置けてしまうこんな近場では、殆ど負担も無いのですけどね?


 そして時間になりましたら、クロ先生の言葉で午後の講義は始まるのです。


「――あ、そこ、見えていないなら台に乗って。――はい、では午後の講義を始めます」

「はい。午前中は『根源魔術』と『儀式魔法』の違いを主に、茹で玉子なんかを作ったりもしましたけれど基本的に座学の時間でした。

 午後はその座学の時間に学んだ事を、実際に体験して認識を革めて貰います。

 いいですか? 『儀式魔法』は“ちょっと便利”にする為の力で、威力なんて求めても仕方が有りませんからね?

 ではまず、“お漏らし式”と“お供え式”の『魔弾』、それから『根源魔術』で再現した『魔弾』を実演してみますので、その違いを実感して貰いましょう」


 そう言って、盛って固めた土の山へと、それぞれの『魔弾』をズドンと――いえ、『根源魔術』で再現したのは斜め上からの撃ち下ろしですけどね?


「――と、こんな感じですね。“お漏らし式”と言いつつ私の場合は同程度の魔力での“お供え式”ですけど、これは誰がやっても同じ威力です。発動体を使えば多少威力を引き上げられますが、それは発動体が周囲の魔力を掻き集めて、擬似的な“お供え式”になっているからですね。でも、これで引き上げられるのは二割が精々。条件が良ければ五割行くかも知れませんが、倍はまず行きません。何故かと言えば、魔力を掻き集める力が強ければ、それが神々の徴収しようとする力に対しても抵抗となるからですね。

 次に撃った“お供え式”は、“お漏らし式”の凡そ二十倍程度の魔力を詰め込みましたかね。ランク八相当がランク五程度になった感じでしょうから、中級でも通じるとは思いますけど、それだけ詰め込める『魔力操作』が出来るなら、最後の一撃の様に自力で撃った方がお手軽です。尤もそれは『魔弾』が撃てる魔力の性質を自分の魔力が持っていたならの話ですから、そうで無ければ“お供え式”も手札の一つとなるでしょう。

 最後に放った『根源魔術』での自力の『魔弾』は、が放つ軽い一撃ですから参考にはなりませんけど、威力を求めるならどちらかなんて、まぁ言うまでも有りませんね?」


 まぁ、この時間は『根源魔術』の細かい話をするつもりは有りません。それをするのは明日ですから。

 言ってみれば駄目押しで凝り固まった常識を打ち砕く時間ですね。


「序でに言うと、最後のは態々私の魔力の特徴を取り除いて、『魔弾』に出来る限り似せましたけど、実はそんな面倒な事をしない方が、撃ち放った後でも『魔力操作』で操れて便利です」


 と、赤い魔力の玉をブンブンブン。


「更に極論すれば、自分の魔力を操れる支配領域下――言い換えると、自分自身の心が生み出す感情の力である“念”の届く範囲内に有るなら、態々魔力の玉を手元で創って撃ち出さなくても、標的周りに漂わせた自分の魔力を操って、打ち砕くのも切り刻むのも燃やし尽くすのも、自分の魔力が持つ性質の中で自在です」


 小山の横に並べた|的(まと)がへし折れて、切り刻まれて、灰となりました。


「それで、何故こんな危ない使い方をまず見せたかと言いますと、闇族なんかは魔力の扱いに長けていて、『儀式魔法』ならその場の魔力を乱して簡単に発動を妨害してきたり、今見せた様に突然燃やしたりなんて事をしてくるらしいからです。

 それに対抗するには魔力を纏ったり感じたりと言った『魔力操作』の技術は不可欠ですが、お漏らし『儀式魔法』使いは『魔力制御』ですら手放していますから、『魔力操作』なんてとてもとても……。

 “お漏らし式”で『轟火炎弾』を放てる様になったからと言って、魔の領域へ赴こうというのは自殺行為ですからね? そこは良く肝に銘じて下さいね?」


 声も無い受講者達へと畳み掛けました。

 因みに、見物人達も静まり返っていますよ?

 そして一度私の技を見た事の有る部屋の仲間達は、にやにやしながらその様子を眺めています。


 まぁ、声も出ないとは言っても、呆然として話が頭に入ってきていないのとは違って、仰天して目が離せない状態です。

 ですから更に畳み掛けるのですよ。


「次はマトーカ様の苦労話ですかね。

 『儀式魔法』の中でも、『四象魔術』は本当にややこしい作りをしています。

 『火炎弾』なんて訳が分かりませんからね? 象徴としての火なんて言ってますけど、実際には火は火だけで存在なんてしませんから、まず燃える何かを持って来ないといけません。それでやっているのが、これも『儀式魔法』で呼び出した水です。その水を分解して二種類の気体に分けてから、熱を加えると炎を上げてまた水に戻るのです。

 私も燃えて水になるのが中々理解出来ませんでしたけれど、確かに炎の上に鉄板を翳せば水滴が付く炎も有るのですよ。

 ですけど、この燃えて水になる炎は、何もしなければ青い色をしているみたいなのですが、火神教団の良く分からない炎の色の理想に近付ける為、無理矢理『儀式魔法』で呼び出した不純物を加えて色付けしていたりと、もう何重にも『儀式魔法』が入れ子になった無茶な構造になっています。

 つまり、『根源魔術』での再現には意味が無い代物ですし、完全再現なんて出来ません。再現出来たとしても、ちょっとだけですね。試しにやってみましょう。

 まずは水ですが、『儀式魔法』の様に召喚出来ませんから、空気を冷やす事で空気に溶け込んだ水を絞り出します。――水は湯気となって空気には大量に溶け込んでいますからね?

 次に、この水を湯気とは違う二種類の気体に分けるのですが、私には出来無いので『儀式』でここはディパルパス様にお願いします。――おおー! シュワシュワ泡立って、見えないかも知れませんが膨れ上がりましたよ!? 昔は水を気体とする力の有る魔獣が居たみたいです。ディパルパス様はその魔力の性質を利用して気体に分けて下さっていますが、『儀式』抜きで同じ事をするには、昔居たのと似た魔獣を探し出すしか無いでしょう。

 最後にこの気体に火を点けてみましょう。――と言っても、危ないので向こうの上空に気体を動かしてから火を点けますよ? 一瞬で燃えて爆発してしまうので、目を細めるなどして下さいね?

 では、三、二、一!」


 ――バンッッッ!!!!


「はい、一瞬でしたけど、燃えましたね。炎の色も青いのが分かりましたかね?

 これを継続して色を変えた炎の玉にして飛ばしているのが『火炎弾』です。無駄な装飾で妄想の塊です。

 それでも魔術と聞いたなら『火炎弾』をイメージする人は多いのでしょう。

 そんな常識は忘れて下さい。魔術はもっと自由な物なのですから」


 まぁ、火の仕組みとかは大体鍛冶をやっていると教えられなくても分かるものですよ。

 でも、鍛冶で必要なのは炎では無く高温です。熱なのです。

 それだけに態々火を飛ばす『火炎弾』には違和感が有ったのですよね。『魔弾』との違いは延焼する事ですけど、それも魔の領域では通じませんし。

 妄想を形にした物と言われて、そこには納得しか無かったのです。


 という事で、更に畳み掛けて行きますよ~!


「まぁ、講義でも述べましたが、そもそも攻撃用として考えるには漏れ出た魔力で発動する程度の『儀式魔法』では威力が足りません。魔の領域の外でそれなりの威力に思えても、魔の領域の生き物はランクが二つは違うと思って下さい。

 実際に見た方が早いですね。ここに用意したのは、右が普通のジーク材、左が魔の領域のジーク材です。――火に掛けます……普通のジーク材は直ぐに焦げてきました。もう直ぐ――はい、火も着いて火から離しても燃え上がってます。対する魔の領域のジーク材は多少変色したかなという程度ですね。

 これは魔物にも同じ事が言えて、魔の領域の外で見掛けるはぐれのゴブリンは、魔の領域の中のゴブリンよりも貧弱です。元のゴブリンがランク七か八ですから、ランク十程度に落ちてますね。町の大人と変わりません。そんなはぐれのゴブリンを火達磨に出来ても、魔の領域のゴブリンなら『あつい!』と吃驚するくらいで、寧ろ敵意を掻き立てるだけです。挑発しているのと同じですから、とても危険です。

 剣で突いても、鎚で殴っても、違いは瞭然ですから、後で自分でも試してみて下さい。シーク材の板は幾つも用意していますから、全員でお試ししても大丈夫ですので、遠慮は無用ですからね」


 『儀式魔法』を見せた後に『根源魔術』を見せて、謂れの無い誹謗を封じたなら、その次には基準をそもそも間違えている可能性を示します。

 魔の領域の外に居る魔物を斃せたところで、自慢にはなりません。


「とは言っても、板を燃やしただけでは納得出来ない人も居るでしょう。体験と言うには弱いですからね。

 という事で、私と同じく学院に入学した仲間達を紹介しましょう。私から『根源魔術』について聞いてから、学院の講義を受けながらも、時間の合間に二ヶ月ちょっと『根源魔術』を練習してきた人達です。

 左からランク七、六、五、二、と並んでいるので、欠けている四、三、一、特級に入れる人が居ればご協力お願いします」


 更なる畳掛けは、体験して実感して貰いましょう。

 隅に控えていた小竜隊の仲間が、受講者と距離を置いて向かい合った配置へと並びます。

 ちょっとしたお茶目で特級の場所も作りましたら、騎士を差し置いて王様が笑いながら特級の場所に入ってしまいました。

 武具は自前でも私の作品の貸し出しでもという感じで、他の空いた場所には騎士の人達が入ります。


 因みに、ランク六の場所には侍女組のイクミさんが入っていて、ランク四は結局埋まりませんでした。

 ランク七ではちょっと危険も有ったのですけれど、文官組のエミールオノさんが盾の遣い方はかなり巧かったので入って貰っています。ジオさんも入りたがっていたんですけどね、見た目ひょろっとして見えるエミールさんの方がインパクトが強いと思うのですよ。

 ランク五は『根源魔術』も安定しているミーシャさん。そして何時の間にかランク二のバルトさん。バルトさんは盾すら持っていませんよ?

 いえ、王様や協力して貰っている騎士様も、普通に服で鎧は着てなかったりするのですけどね。


「はい、では彼らに向かってお好きな『儀式魔法』を放ってみて下さい。

 ランク七に陣取っているのは、文官を目指しているランク七ですけど、それでも盾を持てば『儀式魔法』に対抗出来ます。ランク六に入っているのは、ちょっと血の気の多い侍女さん? ですかね?

 入って貰った騎士様達には、『儀式魔法』が騎士の相手にならない事を見せて貰えそうですけど、ランク五と二に入っているのは同期の中でも『根源魔術』をそれなりに使える人達です。ちょっと面白い物を見せてくれるでしょう。

 王様が特級に入ってますけど、王様には気合いで魔術を掻き消したなんて逸話が有りますから、楽しみですね♪」

「馬鹿を言うな! ここでそれをすると失神者が出るわ!」


 何だか座学よりも気の抜けた感じで講義が進みます。

 準備が出来たなら実際に試すのですが、「初め!」と号令を掛けれも、然う然う人へ向けて魔術を飛ばす度胸が有る人は居ません。

 けれど、それを見越して待機していた小竜隊のメンバーが『儀式魔法』で『魔弾』やらを放ち始めると、恐る恐る撃ち手も増えていきました。


 見所はやはりバルトさんとミーシャさんです。飛び来る『魔弾』や『火炎弾』を、自分の魔力で受け止めて、そっと魔力をほどいて空中に霧散させています。

 王様はその様子を余所見しながら、飛んで来る『儀式魔法』は軽く手で受け止めて脇へと転がしています。まぁ、王様に魔術を放てる人はほぼ身内ですけどね。ロルスローク先生が接待的に、フラウさんが憧れを目に宿して、声を掛けながら楽しそうです。

 堅実なのは騎士達ですけど、エミールさんも負けてはいません。危な気無く丁寧に処理されているのを見れば、『儀式魔法』に抱いていた幻想も潰えます。

 エミールさんの隣には、ちょっと異色に掛け声一閃、素手で魔術をはたき落としては、ぴょんと後ろに飛んで弾ける魔術から逃げているイクミさんが居るのですから、尚更です。


「それまで!

 はい、騎士様方が苦も無く処理するのも、初級でも盾の使い方が上手ければ余裕で対処出来るのも分かりましたでしょうか?

 侍女さんが気合いを入れて魔術を弾いていたのは、王様が素手で魔術を受け止めていたのと同じですね。魔力によって護られている故に可能な事ですよ。

 これが『魔力操作』をもう少し鍛えれば、ランク二や五でお見せした通りに触れずとも受け止める事が出来る様になります。

 更に『魔力操作』を鍛えて魔力の支配領域を広げれば、その範囲の魔力を乱すだけで『儀式魔法』の発動自体を防げます。

 ん~……――では、私に向かって何でもいいので『儀式魔法』を放ってみて下さい。――はい、発動しませんね? 発動したとしても――こんな感じで奪い取って操る事も出来てしまいます」


 解説して、更に私が入って『儀式魔法』の発動を妨害して見せ、更には発動した『儀式魔法』の制御を奪って見せたりして、ここまで現実を叩き付ければ『儀式魔法』偏重主義だって粉々に砕けてくれるでしょう。


「――と、『儀式魔法』には威力を求められないのを実感して頂けたと思います。戦いの役に立たないのかと言われると、『疾風陣』の様な戦いに便な『儀式魔法』も有りますから何とも言えませんけどね。

 でも、そのちょっと便利を超えて『儀式魔法』に期待を寄せる余り、“お漏らし式”に手を出してしまうと先は有りません。派手な見た目の代わりにそれが齎すのは、魔力制御能力の喪失です。

 戦闘での手札を求めて『儀式魔法』に手を出そうとしていた人が居るなら、その考えは忘れましょう。その分の期待は『根源魔術』へ向けて良いと思います。

 まぁ、魔の領域で“お漏らし式”なんてしていれば、垂れ流しのお漏らし魔力の所為で魔物から見ても非常に目立ちます。ここに美味しいお肉が有ると喧伝している様な物ですから、周り中から魔物が押し寄せてくるかも知れません。

 そういう意味でも“お漏らし式”に期待するのは間違いです」


 そしてここまで見せ付ければ、私のそんな言葉にも、もう反発は有りません。

 でも、それで全員『根源魔術』が正解とはなりませんから、事実を伝えて自己責任で選んで貰うしか無いのが悩ましいところです。


「ですが、便、で言うなら、『儀式魔法』に勝る物は無いのですよ。そして、『根源魔術』に足を踏み入れると、或る程度までの遣い手に成れないと、『儀式魔法』が使えなくなる虞が有るのです。

 その為に、今日は『儀式魔法』の実際の姿を明らかにしました。威力を求めるものでは無いとの事実と共に、世に知られていなかった数多くの便な『儀式魔法』が存在する事を皆さんは知りました。

 今日もこの後は時間一杯まで、『儀式魔法』で出来る事、出来無い事を、皆さんからの問い掛けに応えて実演する予定です。

 今日はそれらの実感を持ち帰って、明日の講義を受けるのか良く考えて下さい。

 明日の講義は、『根源魔術』一色です。鍛錬方法や私の知る小技をお伝えする予定ですが、見聞きするだけでも『根源魔術』の世界に一歩足を踏み入れてしまう事になるかも知れません。『根源魔術』は武術と同じく鍛錬が基本です。その鍛錬を続ける気概も無いのに、『根源魔術』の世界に足を踏み入れて、便な『儀式魔法』が一時的にでも使えなくなるのは、きっと望む所では無いでしょう。

 どうか後悔しない様に、今日の残りの時間を存分に活用して下さいね」


 まぁ、小竜隊の他の皆が、私と違って『儀式魔法』も普通に放つ事が出来ますから、脅さなくても案外器用に使い分けれるのかも知れませんけどね?

 最近は、もういっそ私の魔力から制御を簡単に抜けないのは、私の魔力の性質だと言われた方が納得出来そうな気がしているのですよ。


 それから後の時間は、午前中にも況して真剣に、数々の質問が飛び交う事になりました。

 部屋の仲間から、『儀式魔法』と『根源魔術』の使い分けについてを聞き込んでいる人も居ます。

 そして本当に時間一杯まで、その熱意が途切れる事は無かったのでした。


 時間になって、クロ先生が締めの挨拶をするのを聞きながら、私はちょっと考えます。

 巷に流れる間違った私の噂。

 魔術に関する間違った論説が世の中に溢れていても、事実をしっかり突き付ければ納得させる事が出来たのです。

 私の噂も、私がちゃんと私の事実を突き付ければ、案外すんなりと受け入れられるものなのかも知れません。

 それはあたかもデリラの街での私の様に。


 でも、そこ迄考えて、またちょっと首を傾げます。

 デリラの街では、住人の殆どが私の事を知っていました。

 大通りを毎日走り回っている、赤い髪のお遣い少女と言われたなら、ああ、あの子ねと言われる程には知られていました。

 竜毛虫を斃しての凱旋でも、住人の多くが集まっていましたし、生誕祭でだって目立っていたに違い有りません。

 ですけど、王都ではそんな風に私を知る人は極一部に留まるのです。


 私を知る人の居ない中で、私の事実を突き付ける難しさ。

 う~ん、どうすればいいのでしょうねぇ?

 私は講義の後片付けをしながらも、そんな難題に頭を悩ませるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る