第51話 噂が広まるのは早い

「カマキリさん、黒いカマキリさん~。出ておいで~」


 今日も今日とて依頼を受け、討伐に繰り出したルーミア。

 討伐対象は鋼鉄カマキリ。成人男性と同じくらいの大きさで、成長すると足や羽、鎌などが金属のように硬く変化する魔物だ。

 特に黒く色が変化した鎌は、鋭く切れ味抜群なので、鎌が黒い個体からは逃げた方がいいと言われるほどだ。


 だがルーミアのお目当ては黒い部分が多い個体。

 金属のように硬化した身体は魔道具や武器の材料にされることもあり、こうして欲しがる者がいる場合は依頼として出回る時もある。

 討伐対象は鋼鉄カマキリなのだが、成長して硬化した部分が多ければ多いほど査定ボーナスが加算される依頼なため、ルーミアは張り切って黒い個体を探している。


「確か鎌の部分が黒いのが強いんですよね。切れ味がすごいみたいなのでスパッといかれないように気を付けないといけませんね……!」


 黒い鎌は刃物と考えて差し支えない。

 無防備なところに攻撃を受けてしまえば大怪我間違いなしなので、これからそんな凶悪な武器を持ち合わせる魔物と対峙しようというルーミアは一層気を引き締める。


 そんな内心とは裏腹にとてもリラックスした様子で適当にぶらつきながら探す。

 もう既に三匹の鋼鉄カマキリを討伐しているが、どれもまだ成長していない個体で、ボーナスは発生しない模様。それはそれとして幼体であっても使い道はあるため、その素材はルーミアの所有物となった白いマジックバックの中へと放り込まれている。


「んっ、何か金属のぶつかり合うような音が聞こえましたね……。こっちでしょうか?」


 微かに聞こえた音の方へ向かってみる。

 戦闘音らしきものがどんどん大きくなる。誰かが戦っていることは間違いなさそうだと確信したルーミアはちらりと様子を見てから戦闘の邪魔にならないように静かに去るつもりだったが、状況を見て動きを止めた。


(男女二名、前衛剣士、後衛魔法使い……相手はカマキリさん。しかも鎌と足……身体も所々黒い! 若干押され気味……というか剣士の男の方、腕を負傷してますね)


 戦闘を繰り広げる男女の冒険者パーティ。相手はルーミアが探していた個体だ。

 前衛を張っている剣士の男性が何とか攻撃を凌ぎつつ、魔法使いの女性が後ろから魔法攻撃を与えているものの、硬化して耐久力も増しているカマキリにはさしてダメージが与えられているようには見えない。


 それどころか男性の腕から血が流れていて、力が入っていないように見える。

 本来なら両手で持つだろう剣を片手で持ち、何とか凌いでいるが、徐々についていけなくなっている。


(どうしましょう? 獲物の横取りだと思われるのは嫌ですが……どう見てもピンチですし。ここは加勢しましょうか)


 黙って去るつもりだったが、劣勢を強いられる彼らに加勢することにしたルーミア。

 冒険者の暗黙の了解として獲物の横取りは禁止というルールがあるが、今はそうも言ってられない状況だ。


身体強化ブースト二重ダブル


 身体強化を施し、割り込むタイミングを見計らう。

 変に声をかけて冒険者サイドの注意をそらしてしまうのが愚策。遠距離攻撃を持たず近接で戦うしかない者にとって連携は非常にシビアなものになる。


 そうしていると剣士の冒険者の剣がかち上げられた。

 身体もやや浮き上がり、胴は完全に空いている。どこからどう見ても隙だらけだ。


 防御不可。カマキリからすればしぶとかった冒険者に送るトドメの横一線。

 その間に割り込むように――――白の軌跡が走った。


「すみません、遅くなりました」


「あっ、あんたは! 白い悪魔!?」


「……それ、結構知られてるんですね……。まあ、今はいいです。もし、厳しそうならこいつ、もらっちゃってもいいですか?」


「……ああ、頼む! 俺達じゃ無理だ!」


「分かりました。下がっててください」


 黒い鎌を受け止める黒いガントレット。

 鍔迫り合いのように力を込め、押し返して弾く。


 悲しき異名で呼ばれたことでややテンションが下がったルーミアだったが、文句を垂れていられる状況でもない。

 突如現れた乱入者に邪魔をされ、気が立った鋼鉄カマキリは黒い鎌を振り上げる。


付与エンチャントファイア――――四重クアドラ


 拳と脚に炎を纏い、黒の斬撃を見据える。

 再度ぶつかり合い、周囲に放たれる熱波が開戦の狼煙だった。

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