第94話 少女奇行
「えへー、どうですか? この艶、この光沢感……そしてこの硬質感、最高です」
「控えめに言ってヤバいやつなのでガントレットに頬ずりするのはやめてください」
「えっ……あっ、リリスさんもやります?」
「やりません! そんな名案です、みたいな顔しないでください!」
ルーミアの新調したガントレットが彼女の手元にやってきた。
金剛亀、ブラックアリゲーター、その上位種、上質な魔鉱石等々、こだわりの豪華素材をふんだんに使用したオーダーメイド品。
それを手にしたルーミアは顔を恍惚の表情を浮かべている。
顔を赤らめながら身体をくねらせながら、ガントレットをこれでもかというほどに撫でまわし、頬を擦り付ける彼女の姿はどこからどう見ても危ないやつだった。
「うわぁ、変態がいる……」と小さく漏らしながらリリスはルーミアの醜態にぴくぴくと頬を引きつらせる。
装備に愛着を持つのとはまた別の意味で愛を表現するルーミアにドン引きしながら、じりじりとにじり寄ってくる彼女から距離を取るリリス。
ルーミアのように新装備の感触をその身で味わいたいといった特殊な性癖は持ち合わせていないが、当の本人はおすすめの本を貸すかのようなノリでリリスに新調したガントレット差し出している。
だが、一向に受け取らずに逃げ続けるリリスに諦めたのか「ちぇっ、気持ちいいのに……」とルーミアはぼやいた。
ルーミアから追いかけられるのが止み、一安心したように胸を撫で下ろすリリス。
その目はまだ若干彼女を敬遠しているが、ふと手元に目を落とすと、冒険者ギルドで見せる真面目で仕事モードの目になる。
「ところでそれ……どうですか? Aランク冒険者様にふさわしい出来になりましたか?」
「はい! 要望通りの完璧な仕上がりです!」
「そうですか。色は前のと違って白なんですね」
「メインの素材は白い方だったのでこうなっちゃいましたね。私に白は似合いませんか?」
「……似合いますよ、とってもよく」
これまではずっと黒いガントレットを使っていたルーミアだったが、新しい装備は彼女のイメージにもぴったりな純白。
白い少女に白はよく映えており、ガントレットをはめてポーズを決めるルーミアの姿はとても様になっていた。
「性能面的には前のとどこか違うんですか?」
「組み合わせた素材が素材なので耐久面でいったらかなり向上していると思います。これならすぐに壊れるってこともないでしょうし、私のパンチの破壊力もすごいことになりますよっ!」
カンカンと両手を打ち付け甲高い音を奏でるルーミア。
彼女の発揮するパワーの方程式はざっくりと三要素にて成る。
そのうちの一つである重要要素である硬さ。それを十分すぎるほどに満たす新装備にルーミアはこれでもかというほどに鼻の下を伸ばしている。
硬ければ硬いほど発揮する破壊力も高まる。
単純だが真理。それと同時に耐久力が高ければ強引な受けの手法としての運用もできる。
ルーミアにとって普通のパンチでも、その威力は馬鹿にならないほどに強化されていることが容易に想像できる。
「これからたくさん使って魔力を馴染ませていきます。依頼が楽しくなりますねっ」
「楽しそうなのはいいですけど……外であまり奇行に走るのはやめてくださいね? あまり恥ずかしい真似をされて私も同類だと思われるのは勘弁なので」
「奇行? 何のことですか?」
「さっきまでの気持ち悪い動きの事です」
「気持ち……悪い? リリスさん、大丈夫ですか? 気分が悪いんですか?」
「……たった今悪くなってきました」
顔を赤らめて目を血走らせながらはぁはぁと息を荒げる。その上で白いガントレットを抱きしめたり、撫でまわしたり。それを奇行と言わずしてなんと言うのか。
己の言動を危ないものだと認識していないルーミアにリリスは白い目を向けるも、不思議そうに首を傾げる少女の姿に思わず頭を抱えたくなった。
(やばい、このままだと変態を世に放つことになってしまう……)
「んー、急に黙っちゃってどうしたんですか? やっぱり調子悪いんですか?」
「……ルーミアさんを家から追い出すか悩んでいるところです」
「……あの、一応私家主なんですけど」
「……変態は黙っててください。今度庭にペット用の小屋でも建てましょうか……?」
「えっ……あ、えっ?」
家主を追放しようとする試みは冗談なのか否か。
真面目な顔で辛辣な言葉を投げかけてくるリリスに戦慄を覚え、「冗談ですよね」と言わんばかりに声を震わせるルーミアだった。
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