第12話 重量ブーツ完成

 ルーミアは集めてきた魔鉱石をジュンの店に預けて改めて作成をお願いした。

 それから数日かけて採寸や重量のテストなどを挟み、ルーミアの要望とのすり合わせを行い完成への目途が立った。そしてさらにその数日後、ついに完成の連絡が届き、ルーミアはウキウキでジュンの店へと顔を出した。


「こんにちは! もうできたって本当ですか?」


「おう、ルーミアちゃん。何度も来てもらって悪かったな。だが、おかげでルーミアちゃんの要望をすべてクリアした出来に仕上げることができたと思う」


「どれですか! 早く見せてください!」


「安心しろ。靴は逃げないし、あのブーツじゃあ盗もうとするやつもいねえだろ。あんな重たいブーツ、ルーミアちゃん以外に誰が履くんだ」


「それもそうですね」


 それほど重たいブーツが出来上がったということにルーミアはにやけが止められず、そのブーツを履いた自分の活躍や新しい技を想像して女の子がしてはいけないような顔でジュンに案内された。


「これだ。どうだ? 見た目的にも問題ないか?」


「とりあえず履ければ何でもいいと思ってましたが、これは……かっこよくて好きですよ」


 魔鉱石がふんだんに使われた黒い厚底ブーツ。つま先と踵の部分が加工された魔鉱石らしきものでカバーされていているが、全体的な見た目はそれ程ごつくなく、普段使いのブーツと言われればそうかもしれないと思わせるほどの出来。

 普通の女の子がおしゃれ的な意味で気にするような要素は一切考慮していなかったルーミアだったが、そのブーツは一目見ただけでも気に入ったようで、嬉しそうに目を輝かせる。


「じゃあ、足を通してみてくれ。それで軽く動いてもらって、問題なさそうだったら引き渡しになるな」


「分かりました。では……失礼します」


 おそるおそるブーツに足を通すルーミア。

 サイズもルーミアに合っていて、足にぴったりくるフィット感。そして履いただけでも分かるその重量。ルーミアは既に満足そうだった。


「どうだ?」


「すごく……重たいです」


「うん、それは知ってるんだよ。他に何か気になるところはないか?」


 履き心地を尋ねたジュンだったが、ルーミアのあまりにも的外れの答えに苦笑いを浮かべる。

 聞きたいのはそういうことではなく、その靴に何か問題点がないかということだ。

 一番の問題点は歩行を阻害するほどの重量なのだが、ジュンは気を遠くして考えないようにしていた。


「常時発動一段階だと……まあ、こんなもんですね。悪くないです」


 ルーミアは足を上下させて、感覚を確かめる。

 強化された身体はひ弱な女性のものとは違う。軽く足を持ちあげるルーミアにジュンは驚きを見せた。


「すごいな。言ってたことは本当だったのか」


「何ですか? 信じてなかったんですか?」


「半信半疑ってところだ。見たところルーミアちゃんはうちのマーナと同じくらいの体格だろ? そのマーナがまともに歩けないブーツだ。ルーミアちゃんの要望とは言え、本当に使いこなせるかは少し不安だったが安心したよ」


「そうですか。それはよかったです」


 ルーミアは会話しながら歩いていた。

 ずっしりとくる重量感による歩行の違和感はない。しかし、気になる点があるとすればその重さでジュンの店の床が歩くたびに悲鳴を上げるような軋む音を上げることだろうか。


「戦闘になって靴の履き替えをするのは馬鹿らしいのでできればいつも履いていたいですね。ですがこのままだと屋内や耐久性の低いところを歩くにはちょっと不向きなので…………こうしてみましょうか。重量軽減デクリーズ・ウェイト


 ルーミアが口にしたのは物の重さに干渉して、対象を軽くする魔法だ。白魔導師の取得できる魔法としてはかなりマイナーな部類の魔法で、強化系や回復系の魔法に比べると優先度は低く、知らない白魔導師もいるほどだ。


 そんな魔法を重量ブーツに施したルーミアはその影響で変化した感覚を改めて確かめるようにぴょんぴょんとかわいらしく跳ねた。


「うん、いいですね。これなら思いっきりジャンプしても床を踏み抜く心配はなさそうです。本当は付与エンチャントで試すつもりでしたけど、今ので魔法の親和性も十分確認出来ました」


「そりゃあよかった。でも、わざわざ重いブーツに軽くする魔法をかけるくらいだったら、軽いブーツに重くする魔法をかけるのでもよかったんじゃないのか?」


「もちろんそれも考えましたがこっちの方がいいんですよ。軽くしてる間は普段使いできて、その魔法を解除すれば一瞬でこのブーツは破壊力を取り戻します。それに……私の身体強化ブーストにはまだ上がありますので」


「……ルーミアちゃんも色々考えてるんだな。それなら何も言わねえよ。問題なさそうだったらそのまま引き渡すが……他は何かあるか?」


「いえ、ないですね。最高の仕事をありがとうございました」


 ルーミアはその仕上がりに満足いったようで他に要望を付け足すことはなかった。

 オーダーメイドにかかった料金を支払い、正式にそのブーツを受け渡されると、フル装備が揃ったことににやつきを隠せない。


「本当にありがとうございます」


「おう! こちらこそ中々ない経験させてもらったよ。かなり頑丈な靴だからすぐ壊れたりはしないと思うが、なんかあったらいつでも来てくれ。メンテナンスも見てやるからよ」


「ありがとうございます! 壊さないように頑張りますね!」


 確かに重量を追い求めた関係上、耐久性も普通の靴とは思えなものになっているが、使用者がルーミアだ。引き上げられた身体能力に白魔導師としての魔法付与とかなり乱暴な使い方をするのは容易に想像できる。

 思った答えと違うものを笑顔で言い渡されたジュンは苦笑いを浮かべてルーミアを見送るのだった。

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