第11話 魔鉱石集め

 ユーティリスを出て北に行くと鉱山地帯が見えてくる。

 そこは少し距離があるため本来なら馬車などに乗って移動するのだが、ルーミアは「うーん、走った方が早そうかな」などと意味の分からないことを呟いた後、身体強化を施した身体で走り出した。


「ついたー。結構人いるなー」


 グランツ鉱山についたルーミアは辺りを見渡してそう感想を述べた。

 そこにいたのは統一された作業着を着ている男たちが、汗を流しながらつるはしを振り下ろしたり。掘り起こしたものを運び出したりしていた。



「おっ、お嬢ちゃん。冒険者か?」


「そうです。魔鉱石採取のために来ましたルーミアです。よろしくお願いします」


「そうか。道具はあそこにあるものを好きに使って構わんぞ。だが見た感じだと持って帰る手段が無さそうだけど大丈夫か?」


「お気遣いありがとうございます、ですが心配無用です。私も発掘してきますね」


「おう、怪我には気を付けな!」


 ルーミアに気付いた作業を仕切っている男が近くにある小屋を指さして言った。

 小屋には作業用に貸し出されているつるはしや作業靴があるのだろう。

 しかし、ルーミアはそれを取りに行くことなく作業へと向かった。


「さっ、お披露目がこんなので悪いけど、試させてもらうよ」


 ルーミアはガイアの店で買ったガントレットを装着して、それをまじまじと眺める。

 機能を試すには絶好の機会。きらりと黒く光る手を固く握りしめ、ルーミアはお決まりの技名を口にした。


身体強化ブースト二重ダブル


 常時発動の普段使い強化段階より一段階強力な身体強化魔法を施す。

 しゃがみ込んだ姿勢のまま、引いた腕を力いっぱい叩き付ける。

 すると抉るような鈍い音が響いた。


 「いい感じに砕けた。魔鉱石は……あった!」


 幸先のいい発見にルーミアは目を輝かせる。

 だが、まだ足りない。魔法親和性を高めた装備のために汗水を流すことは厭わない。ルーミアは引き続き何度も同じ作業を繰り返して着々と魔鉱石を拾い集めていった。


「このくらいあればいいかなー?」


 やがて十分すぎるほどに集められた魔鉱石。

 単純作業の繰り返しだが、ガントレットの強度や破壊力などを試す良い機会となりルーミアは概ね満足だった。


「ルーミアちゃん、調子はどうだ……って大量だな」


「はい、頑張りました」


「こりゃすげえ……だが、大丈夫か? それだけの量、ちゃんと持って帰れるか?」


「大丈夫です。こう見えて力には自信があるんです」


 ルーミアがコツコツ集めた魔鉱石。

 様子を見に来た男は大量に感心するとともに、ルーミアがそれをきちんと回収できるかが心配になった。


 魔鉱石も質量を伴う石。数が増えれば重くなり、ルーミアの集めた総量は小柄な少女ではとてもではないが持ち運びできなさそうな量だ。

 だが、ルーミアは心配をよそにそれらを持ち上げる。


 身体強化が施された身体ならばこの程度造作もない事。

 一見小柄なルーミアが到底抱えきれないような魔鉱石を持ち上げたことに男は大層驚いた。期待を裏切ることができてルーミアは少し得意げだった。


「では、私はお先に失礼します。皆さんも作業頑張ってください」


「お、おう。ありがとな……って速っ」


 ルーミアは一言挨拶して帰路に着いた。

 その後ろ姿はすぐに見えなくなり、少女が重たい鉱石をたくさん抱えているとは思えないくらい速かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る