第10話 再び
「くそ、お前がちゃんと支援をしてくれないからおめおめ逃げ帰ることになってしまったじゃないか!」
「そんな! 私はきちんと強化も回復もやれていました。責められる謂れはないはずです!」
戦闘継続不可能として逃げ帰ったアレン一行。
帰って早々に此度の責任追及が始まった。
アレンからすれば、無能な白魔導師の代わりとして新たに仲間になった優秀な白魔導師ということでとても期待していた。
だが、その期待を裏切られて満足に戦うこともできず、本来なら苦戦することもないと思っていた相手から無様に逃げ帰るという苦渋を舐めさせられた。
見るからに不機嫌になり、その怒りを隠すことなく新入りの白魔導師カンナにぶつける。
一方でカンナはアレンに責められるのは理不尽だと言い返す。
自分はいつも通りできる限りの支援を行った。
指示にもちゃんと従った。
それなのにまともに太刀打ちすることもできず撤退の選択肢を取ることしかできなかったこの不甲斐ないリーダーに責められるのは納得がいかなかった。
「落ち着けアレン。怒りに身を任せても何も解決はしない。だが……確かに支援が弱いと俺も感じたのは事実だ」
「そんな……! 私の実力はギルドが保証してくれています! そんな私の支援魔法が弱い? ふざけないでください!」
「だが事実だ。明らかに質の低い強化。治りの遅すぎる回復。足を引っ張ったのはお前だ、カンナ」
アレンに落ち着くように戦士の男が声をかけるが、カンナに対する評価はアレンと同様のようで、支援を受けた者として率直な感想を口にする。
しかし、カンナはギルドにすら優秀と認められた白魔導師だ。
そんな自分にケチをつけるアレン達に怒りの矛先を向ける。
だが、アレンは取り付く島もない。
ただただ、己が感じたままに事実を告げる。
それがどうしようもなくカンナの癪に障った。
「そんなに文句があるなら私はこのパーティを辞めるわ。あなたたちの期待には応えられない」
「そうか。勝手にしろ。装備は置いていけ」
「……短い間ですがお世話になりました」
冷静になって話し合えばその亀裂は埋められたかもしれない。
しかし、お互いが熱くなって、本能のままに言葉にしたことで、関係の修復はもはや不可能となった。
リーダーのアレンはいつぞやルーミアを追放した時と同じように、後任に渡す装備を置いていくように言い放つ。
この時は考えもしなかった。
カンナという白魔導師も無能だったと言い聞かせて、以前と同じように見切りをつける。
その行為の愚かさに。
過去の栄光に縋り、責任を押し付けることで現実逃避をするアレン達は、崩壊への一歩を踏み出していることに、まだ気付かない。
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