第9話 その一方で
「さて、今日からうちのパーティに加入してくれるカンナだ」
「ご紹介に預かりました。白魔導師のカンナです。どうぞよろしくお願いします」
アレンはパーティメンバーの前で新たに仲間となるカンナを紹介した。
これでルーミアをパーティから追放したことで空いた穴を埋める形になった。
カンナはかつてルーミアが身に着けていた白魔導師の力を増幅させる装備をそのまま身に着けている。
アレンも不安要素のない白魔導師が加入してくれたことで、どこか満足そうにしている。
「優秀な白魔導師が加入してくれたことであの無能がいたときよりも大きな躍進が見込めるな!」
「そうですね。これから一緒に頑張っていきましょう」
「そんなに持ち上げられても困りますが……精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますね」
「よし、早速だがこのパーティの試運転をしたい。何か手頃な依頼はあるだろうか?」
顔合わせが済んだところでアレンはパーティの試運転をしたいと申し出た。
新メンバーが加わった新体制。
その力がどこまで通用するのか確認しておくことも大事なことだろう。
「だったらレッドバイソンの討伐依頼なんてどうだ?」
「それが妥当か。あいつがいても余裕で討伐できてたから、試運転にはちょうどよさそうだ」
「決まりですね」
アレンはメンバーの提案を受け、少し考えたのち、その案に乗ることにした。
アレンにとってレッドバイソンは何度も倒したことのある格下の魔物で、新メンバーをパーティに慣らすのにはうってつけだと判断した。
誰からも異論は上がらない。
こうしてパーティに加入したカンナの初陣は早々に決まった。
◇
「アレンさんレッドバイソンを発見しました。周りに他の魔物は見当たりません」
「よし、そのまま索敵を続けながら、隙を見て攻撃を仕掛けてくれ。カンナは前にでる俺達に支援をかけるんだ。継続して頼むぞ」
「了解です」
「
レッドバイソンの生息地に赴き、敵が一匹であることを確認したアレンはパーティに指示を出す。
いつも通り、定石通りの指示だ。
その指示に皆が従い、各々がするべきことをしたところで、アレンは合図を出す。
「行くぞ!」
「おう!」
こうして仲間の一人と共に駆けだしたアレンは剣を構えてレッドバイソンへと肉薄する。
しかし、すぐに違和感に気付いた。
(なんだ? 身体が重たいぞ)
アレンは走りながら妙にスピードが出ないことに怪訝そうな顔をした。
確かにバフはもらった。
今もなお強化が施されている。
そのはずなのに思うように身体が動かない。
それはアレンの横を走る戦士の大男も感じていた。
「おい! バフが弱いぞ! もっとしっかりかけてくれ!」
「ええ!? ちゃんとかけてますよ!」
アレンはそのままレッドバイソンに向かって走りながら、カンナに指示を出す。
しかし、継続して支援をするというリーダーから課されたオーダーをしっかり守っているカンナはその要求に驚いて叫ぶ。
「ちっ、仕方ない! 合わせろ! 同時に斬りかかるぞ!」
「おう!」
アレンは苛立ちを覚えながらもそのまま特攻した。
これまで通りに仲間と息を合わせて、同時に斬りかかった。
「なに? 受け止められただと!?」
「おい、刃が通らねえ」
アレンの一撃は角で受け止められ、戦士の放った攻撃はレッドバイソンの身体を直撃するもまるで効いた様子がない。
「くそっ、押し返される……ぐあっ!」
「アレン! がっ!」
受け止められた剣を押し込もうと力を籠めるが、力負けして逆に押し返されたアレンは吹き飛ばされる。
それに気を取られた戦士も乱暴に薙ぎ払われ、地面を数メートル転がった。
「……くそ、早く俺達に
「は、はい!
よろよろと立ち上げるアレンに指示を受け、カンナは即座に回復魔法を二人に施す。
淡い光が二人を覆う。
しかし、二人の表情は暗く影がかかったままだ。
「おい! 治りが遅すぎるぞ!? しっかりしてくれ!」
「えっ? ちゃんとやってますって!」
アレンは傷の治りの遅さにさらに腹を立て、カンナに怒鳴りたてる。
しかし、現時点で行えるだけの支援をきっちり施しているカンナは、なぜ自分が怒られているのかこれっぽっちも理解できなかった。
「アレンさん! 一旦退きましょう!」
「ちっ、それが賢明か……煙幕を頼む!」
「了解です」
索敵をしながら隙をうかがっていた魔法使いの少女も、あまりに一方的な展開に隙以前の問題だと判断し、アレンに撤退を呼び掛ける。
アレンは悔しそうに顔を顰めながらも冷静に判断を下し、離脱することを選択した。
こうしてカンナを加えて新パーティの初陣を飾ったレッドバイソン戦は、無残にも歯が立たず逃げ帰ることになったのだった。
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