第13話 暴力はすべてを解決するんです

「……えー、ルーミアさん、随分白魔導師らしからぬ格好をするようになりましたね……」


「どうですか? 似合ってますか?」


「そうですねー。白魔導師としては絶望的に似合ってませんね」


「えー、かわいいと思いますけど?」


「そのゴリゴリの装備のどこにかわいさを見出したのかお聞きしたいです」


「聞きますか?」


「……いえ、やっぱり結構です」


 冒険者ギルド受付嬢リリスは、ルーミアのフル装備姿を見て――――端的に言ってしまえば引いた。

 このロリ少女はいったい何を目指しているのだろうかと口まで出かかったそれを何とか堪えて、幾分かマイルドな表現で伝えてみるも、ルーミアには何も届かなかった。


 極論、そのような装備が欲しいということは事前に知っていたし、その装備を手に入れるためのお手伝いのようなことも受けたリリスだ。だから、それほど驚くことではないと思っていた。

 だが、よく、よくよく考えるとおかしい。これは本当に白魔導師なのかと疑ってしまう、ごつごつと厳つくその身を黒に染め上げた少女が目の前に立っている。


「まあ、見た目の話はこれくらいにしておきましょうか。今日はどんな依頼をお求めですか?」


「そうですねー。一応どちらも試運転はしましたが魔物相手にはまだですので……なるべく耐久が高そうな魔物の討伐依頼がいいですね」


「……一応、確認ですがそれは魔法耐性が高い、ということでしょうか?」


「? 何言ってるんですか? 物理耐性に決まってるじゃないですか。疲れてるんだったら回復ヒールかけてあげましょうか?」


 リリスはぴくぴくと頬をひくつかせた。こいつは本当に白魔導師なのだろうかという疑念が再燃する。ルーミアという少女とうまく付き合っていくには彼女の非常識を受け入れ、諦めることが大切と頭では理解していても、それなりに長いギルド職員の経験で身に沁みついた常識がそれを幾度となく邪魔する。


「……分かりました。では、こちらのトレント討伐なんていかがでしょうか? 本来ならソロの白魔導師の方に薦める依頼ではありませんが……。そもそもソロの白魔導師ってのがおかしいんですけどね?」


「ん? 何か言いました?」


「いえ、トレントは木に擬態して獲物を待つ魔物です。一応植物ということで火に弱いですが……ルーミアさんには関係ないですね」


「私だってやろうと思えば付与エンチャントくらいできるんですよ」


「でも、やらないですよね?」


「そうですね。物理性能のテストなので」


「……はぁ。トレントは基本的にそれほど強くありませんが、ソロで挑むとなれば話は別です。養分を蓄えて大きく成長した個体ほどその胴体は硬く丈夫なものになっているので過信はしないで、危ないと思ったらすぐに逃げるか、火をつけてくださいね」


「ご忠告ありがとうございます」


「ええ、忠告を聞かなそうな人にも一応言わないといけないので」


 会話の途中で何度か「こいつ、まじで意味わかんない」という感情が沸き上がるリリスだったが、何とか堪えて依頼の説明を終える。トレントという魔物の特性や注意点など、必要な説明をしたのだが、それは義務的なもので、彼女はルーミアにその説明はあまり意味を為していないと悟っていた。


「では、お気をつけて」


「はい! 暴力ですべて解決してきますね!」


 依頼を受けたルーミアを見送ったリリス。

 手を振る彼女から去り際送られた言葉に再度頭を過る。


(白魔導師、とは?)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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