第14話 粉砕伐採大喝采
トレント討伐の依頼を受けたルーミア。
彼女が自慢の
本来なら今現在着用しているブーツの重量で、強化段階の引き上げがなければこれほど軽やかな動きはできないのだが、ブーツにかけられた重量軽減の魔法のおかげでルーミアは変態的機動を可能としている。
「うーん。中々いないなぁ」
ルーミアはトレントを探し回っている最中だ。
「もう少し他の依頼も聞いておいた方がよかったかなー? 全然いないじゃん……」
ルーミアは高速で移動しながらダルそうな顔をしていた。
トレントという魔物は木に擬態していて見つけづらい魔物だ。
魔力感知や索敵のスキルがあればその存在を容易に把握できるのだが、残念ながらルーミアにその能力はない。
仮にそのたぐいの魔法が使えたところで、肝心の効果範囲が狭すぎるせいであまり役には立たなかっただろう。
故に自らを囮として手当たり次第木々を飛び回ることでトレントをあぶりだそうとしているのだが中々見つからない。
「はあ、面倒くさいなぁ。トレントは近づいた人間に襲い掛かり、枝で捕まえて自らの養分にするという情報をもとにして動いているけど……今のところすべて外れかー」
このようにして無造作に動いていれば、獲物が来たとトレントが動き出すかと思いきや、一筋縄ではいかない。
手当たり次第(物理)で探すのも一苦労だ。
そんなことを考えていると、足蹴にした木の枝が大きく動き出した。
「きたきた! やっと当たった!」
ルーミアは素早く着地し振り返り構える。
そこには地面から根っこの形をした足を引き抜いて動き出すトレントが、ルーミアを己の糧にせんと枝を伸ばしていた。
「
トレントは強い個体だと岩をも砕くほどのパワーを持つ。
そんな個体に捕まってしまえば、いともたやすく体中の骨を砕かれ、養分へと変わってしまうだろう。
ルーミアは回避、ヒットアンドアウェイを基本に、そしてより力強く素早く動くために強化の段階を一段引き上げる。
「さて、倒させてもらうよー。でも思ったより大きいし、まさかの大当たり? ま、何とかなるなる」
楽しそうにひとりごとを呟きながら、ルーミアは伸ばされた枝の腕に三回の蹴りを放つ。
それほど太くない枝は折れ、好機と見たルーミアはトレントの懐に潜り込み回し蹴りを放つ。
そして離脱。大きく飛びのいて様子を見る。
「うーん、胴体の方は思ったより硬いかな。
伸ばされた枝と違って胴体の部分は硬く、ルーミアはそれこそ鋼鉄を蹴ったような感触を覚えた。
まともに入った蹴りが、びくともしないことに少しばかりの驚きを覚えながらも冷静に思考する。
(うーん。
ルーミアはそんなことを考えながら、迫りくる枝を腕で弾き、押しのけ再び接近して、パンチのラッシュを叩き込む。
捕まらないことを最優先に動いているためか、それほど力も貯めることができず、軽いラッシュになってしまったことに舌打ちをするルーミア。
手ごたえのなさは言うまでもない。
「……
この拳が火を纏っていればどれだけ楽に葬れるのだろう。
そんなことを一瞬でも考えてしまったルーミアだったが、面白くないという非合理な理由でその選択をしない。
あくまでも物理の力で突破したい。やはり白魔導師らしからぬ考えだが、その狂気的な発想が今のルーミアを突き動かす。
「私の
ただ、それも時と場合によってはいろいろと変わってくる。
短期決戦に持ち込むなら大きく強化させればよいが、その分自由に動ける時間も短くなる。
仕留めきれなかった場合のリスクなども考えて適切な強化を施さなければならないのだ。
「よし……
ルーミアは少し考えて声を出した。
今この段階で最も危惧しなければならないのは、身動きできない状態でトレントに捕まることだ。
仮に捕まってしまったとしても、さらに強い強化をすれば脱出は不可能ではないが、捕まった時にその強化ができるかは定かではない。
また、さっきは折ることができた枝も勢いなどがなければもしかしたら折れないかもしれない。
ルーミアはバカみたいな発言や行動はするが、バカではない。
そんな彼女が弾き出した答えは単純明快。
そのような状況になる前に、ぶちのめす。
これが最適解と踏んでの行動だ。
ドンとルーミアが地面を踏み抜いた音が響く。
まるで消えたかのように見える速さで肉薄したルーミアは、握りしめた拳を容赦なく叩きつける。
メキメキと嫌な音がなり、トレントの外皮が削られる。
痛みを訴えるかのような叫びがこだまするが、ルーミアは止まらない。
いや、止まれない。
ここで動きを止めて数秒無駄にするのは、今後にどう影響するか分からない。
故に、ここで確実にトドメを刺す。
「うん、取った」
今の一撃の手応えから確実に
飛び膝蹴り。勢いをつけて加速したルーミアの膝がトレントの胴体に深深と突き刺さる。
ルーミアはすかさず二発殴りつけ、その反動でめり込んだ膝を抜くと、後ろに下がりながら蹴りを放ち、さらに胴体を削る。
そして削れて薄くなった箇所へ狙いをつけて、回転しながら突っ込んだ。
横向きで放たれるかかと落とし。
その一撃はさしずめ斧。
木々を切り倒す際は重宝するだろうそれの役割を担ったルーミアは、容赦なく断ち切った。
これで完全に
「ああ、
綺麗に着地し、
「あー、だめだー。とりあえず少し休も」
討伐必要数は一体なのでこれ以上トレントを探し回る必要は無い。
ひとまず、己の物理性能がどれほど向上しているのかを実感したルーミア。そんな彼女は満足したように木にもたれるように座り、つかの間の休息をだらしない表情で過ごすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます