第36話 改めてご挨拶(失敗)
「あの、あの時は助けてくれてありがとうございました。俺はタンクのアッシュです」
「僕は剣士のシン。そして彼女が……」
「ノルン。魔法使い」
「これはご丁寧にどうもー。私はルーミア。白魔導師です」
再開した時は改めて自己紹介をしよう。お互い冒険者なのだから冒険者ギルドでまた会える。その約束を律儀に果たしに来てくれた彼らは助けてもらったお礼と共に自己紹介をしていく。
それを受けルーミアも同じように名乗り返すが、彼らは一瞬効き間違えでもしたかのように硬直した。
「ほら、やっぱり白魔導師って。前のも聞き間違いじゃなかったんだ」
「そうだよなー。あ、すみません。この前、別れる直前に俺達に何かしてくれましたか?」
「えっ……と、そうですね。
「強化の白魔法……。この人、本当に白魔導師」
ルーミアは名前こそ名乗るのはこの場が初めてだったが、自身が白魔導師であることは初対面の時に明かしている。何なら麻痺毒の解除や回復の魔法などもかけてもらったためもはや疑う余地はないのだが、それでもルーミアを手放しに白魔導師だと信じることができないのは彼女の戦闘姿を見ていたからだろう。
麻痺毒で動けなくなっていたとはいえ意識はある。
動かなければいけないのに指一本動かせず、ただ見ていることしかできない歯がゆい思いの中颯爽と駆けつけ敵を倒していくルーミアの姿。
それは何度照らし合わせても彼らの知る白魔導師とは一致しなかった。
それでもルーミアの使用した魔法はどれも白魔導師が使うもの。
その魔法を身を持って体感した彼らはどれだけ信じられなくてもルーミアが白魔導師であると認めざるを得ない。
「あははー。よく驚かれるんですよ」
(でしょうね!)
ルーミアのその一言。
アッシュ達だけでなく偶然話が聞こえてきた近くの冒険者達の心の中で叫ばれた言葉までもが一致した瞬間だった。
「でも噂で聞きました。ソロで活動している白魔導師がいるって。それってルーミアさんのことですよね?」
「私以外にソロの白魔導師がいるというのは聞いたことがないので多分そうですね」
「ちなみにランクはいくつなんですか?」
「皆さんとあったその日にBランクになりましたよ」
「すごい。強いんだ」
「ただ者ではないと思っていましたがソロでBランクだなんて……」
「えへー。それほどでもー」
アッシュ達から見てもルーミアの戦闘能力はかなりのもので、Bランクといわれても納得のいくものだった。
ノルンやシンに実力を褒められてルーミアは頬をだらしなく緩ませる。
「俺達はまだDランクパーティなので早くルーミアさんみたいに強くなりたいです」
「皆さんならすぐ上に上がれますよ。三人で力を合わせて頑張ってください」
「……そうだ。ルーミアさんが良ければ俺達のパーティに入ってくれませんか? ちょうど後衛を任せられる人がもう一人欲しいと思っていたところなので……ルーミアさんが入ってくれたら心強いです」
その瞬間、ルーミアのにこやかな表情が能面のように無になった。
ほんの一瞬だが、確かにルーミアの笑顔が消えた。
パーティ勧誘は厳禁。ルーミアにそれをしてはいけないというのは彼女を知るものならば周知のことだ。
しかし、ユーティリスにやってきたばかりのアッシュ達は知らなかった。知らないからこそ、ソロの強い冒険者というのは喉から手が出るほど引き入れたかったのだろう。
「うーん、ごめんなさい。今はパーティに入る気はないんです」
だが、ルーミア本人が何よりもパーティ加入を望んでいない。
基本的にソロの冒険者というのは仲間を作ることをギルドから推奨される。
職業を元に必要とされるパーティを斡旋というのが行われるのだが、ルーミアがそれを拒んでいるというのはギルドも分かっている。
パーティを組む気もなければどこかに所属するつもりもない。しかし、実力はあるため遊ばせておくのはもったいない。そういう考えの元特別昇格試験が行われたというのは彼らには知らぬことだが、見事にルーミアの地雷を踏み抜いてしまったアッシュは豹変した彼女の様子と周囲がざわついていることに気付いた。
「おっ、あいつ運がいいな。機嫌が悪かったらぶっ飛ばされてたな」
「一回目はあんなもんだろ? しつこく付き纏うとしばかれるって話だぜ」
それを聞いたアッシュは血の気が引いた。
それがやってはいけない事だったのだと悟った。周囲の反応から察知するや否や頭を下げた。
「すみません! 気に障ることをしてしまったようで……」
「いえ、大丈夫ですよ。ですが、今後私を引き入れようとするのは諦めてくださいね」
「は、はい……肝に銘じておきます」
ルーミアとて誰彼構わず暴力で退ける訳ではない。
パーティに入る意思がない事を示した後もしつこく誘う者には容赦はしないが、まだ一度目。故意もないということで見逃されたアッシュはコクコクとものすごい勢いで首を縦に振るのだった。
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