第46話 指名依頼完遂
「ふう……思ったよりも溜め込まれてましたね。通りで盗品が少ないとは思ってましたが、金目のものは全部ここにあったということですか」
「ですねー。ですがどこかのタイミングで中身を取り出せないことに気付いて、木箱にしまい込んだということでしょうね」
「それだったらもっとわかりやすく封印してほしかったです」
「いや、木箱に赤いバツ印って相当だと思いますけど……でもよかったじゃないですか。変なところに隠されて見つけられなかったらペンダントも回収できなかったわけですし」
「そうでした! これで晴れて依頼完遂です!」
依頼が完遂なのかどうかは依頼者であるキリカ本人に確認を取ってみなければ分からないことだが、ペンダントの形状も数も事前に知らされていた情報と一致している。おそらくキリカ達の物で間違いないだろう。
呪いの効果に一時は苦しめられたものの、こうしてキリカのペンダントを取り戻すことができたのも、盗賊達が白いマジックバックを廃棄処分などしていたら叶わなかった。
「ところで素朴な疑問なのですが、こういった盗品の扱いはどうすればいいんでしょう? キリカさんみたいに取り返したいと思ってる人は多いのでしょうか?」
「こういったのは基本的に泣き寝入りするケースが多いです。キリカさんのように元の持ち主が判明しているものなら返そうと思えば返せますが、不特定多数から、しかもいつどこで盗られた物かも分からない以上どうしようもありませんね」
「そうですか。では……これらの盗品は」
「獲得したルーミアさんの物、ということになりますね。それだけのもの、売ったらかなりの額になるはずです。臨時収入が手に入ってよかったじゃないですか」
「元は誰かの所有物だったと思うと少し心苦しいですが……せっかくなのでもらっておきましょうか」
ルーミアが抱えていた疑問は、持ち帰った盗品はどうなるのか。
キリカが取られたペンダントを取り戻したいと考えてルーミアに指名依頼を持ってきたように、盗られた物を返してほしいと思うのは至って普通のことだ。
しかし、いつどこで誰から盗った物なのか判別できない。
ユーティリスに来る途中で襲われた者もいれば、ユーティリスを出る時に襲われた者もいるだろう。被害者すべてを特定することは不可能に近く、被害者の方から名乗り出てくれなければ手の打ちようがないというのが現状。
ギルドも依頼という形ならば承るが、慈善事業ではないためわざわざ被害者を探して盗品を一つ一つ返していくといったこともしない。もうこれは盗賊団を倒し、物を回収したルーミアに所有する権利があるのだ。
「元の持ち主さんには申し訳ないですが、これだけは欲しかったんですよ。頑張って呪いをぶっ壊したので……!」
「いや、元の持ち主もそれは要らなかったんじゃないですか?」
「それでもちゃんとした専門家の人に呪いさえどうにかしてもらえばまた使えるかもしれないじゃないですか? 喜んで盗られたという訳ではないと思いますよ?」
「それもそうですか。これだけはって言ってましたが他にはめぼしいものはなかったんですか?」
「元々このバックと盗賊団のボス的な人……えっと、ヴォ、ヴォ……何とかさんが使ってた風の魔剣だけ持ってくるつもりだったのでそこまでは考えてなかったですね」
ルーミアは白いマジックバックを撫でた。
呪いがかかっていた時は愛用の装備を飲み込んだまま返してくれない忌々しい鞄だと思っていたが、肝心の呪いさえなくなってしまえば高級便利アイテムに様変わり。
冒険者としての活動を快適にするそれを純粋に欲しいと思っていたルーミアは盗品を自分の物にしてしまうというのにはやや複雑な心境ではあるが、呪いを壊して使えるようにと頑張ったこともあり嬉しそうだ。
元々持ち帰るつもりだったのはそのバックと魔剣サイクロン・カリバーのみ。だったが、マジックバックの中に色々と詰め込まれていたことで更なる臨時ボーナスを手に入れたルーミア。
嬉しいやら申し訳ないやら様々な感情が入り混じるが、所有者となってしまった以上受け入れるしかない。
「とりあえずそちらのペンダントの方は一度お預かりさせて頂いて、依頼者のキリカさんに確認を取ってみます。多分依頼は完遂なので後日連絡をお待ちください」
「よろしくお願いします」
紆余曲折あったが、何とかキリカの期待に応えることができただろうか。
まだ完全に完遂と決まったわけではないが、リリスからも太鼓判をもらい安心したルーミアだった。
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