第45話 灯台下暗し

「ああ~、よかったです! 本当によかったー!」


 ルーミアの軽率な行動で失ってしまっていたかもしれない愛用の装備品。

 それを何とか強引に取り戻すことができた喜びでルーミアはほっと胸を撫で下ろした。


「おっ、サイクロンなんちゃらも取り出せましたっ。もう呪いの心配はなさそうですね」


 九重にも重ね掛けされたルーミアの特上解呪。

 所持していた魔力結晶の魔力すらあてがわれて膨大な魔力をつぎ込まれた魔法の効果は絶大で、解呪が中途半端ということもなく完璧に呪いを取り除いていた。


 一度は要らないと酷い言われようをされた緑の魔剣も再び姿を見せたことで、安全性は保障される。

 一時はどうなる事かと思ったが、何とか乗り切ったルーミアはやや誇らしげだった。


「さて、これで安心してペンダント探しを再開できます。はぁ、よかったー」


 目先の憂いが解消されたことで、本来の目的である指名依頼に心置きなく取り組むことができる。

 ルーミアは気分を落として中断していた指名依頼を張り切って再開した。




 ◇ ◇





「ダメです。見つけられませんでした」


「そうでしたか。盗品がどのように管理されていたかも不明ですし、既にどこかで売却されてしまったことまで考えると仕方ないですね……。ところで確認ですがすべての場所を隈なく探索したんですよね?」


「はい、見たところには足跡(物理)を付けておいて、三周は確認したので見落としはないと思います」


 盗品が散乱している場所は整頓しながら探したし、そうでなく何もない場所なども一度足を運んだことが分かるように印をして何度も確認をした。それでも目的のペンダントを見つけることができなかったルーミアは、冒険者ギルドに戻ってきてリリスの前で項垂れている。


「まあ、依頼はあくまでも調査なので失敗にはならないはずです。そう落ち込まないでください。ルーミアさんはベストを尽くしたのできっと分かってもらえますよ……!」


「うう、それでも私を頼って指名依頼してくれたので何としても見つけてあげたかったです」


 依頼はあくまでも調査という名目で出されている。言ってしまえばペンダントの発見は二の次だ。盗賊が盗んだ物をどのように扱うか分からない以上確実に見つかる保証もなく、売られてどこか遠くに行ってしまっている場合も十分にあり得る。


 リリスは肩を落とすルーミアを元気付けようと声をかけるも、キリカの期待に応えられなかったことの落ち込みは想像よりも大きかった。

 どうしたものかと困ったように片目を瞑るリリスだったが、ルーミアの姿を見てある事に気付いた。


「あれ、ルーミアさん……そういえばその白い鞄どうしたんですか?」


 依頼に向かう前には持っていなかった鞄。彼女が身に着けている鞄の数がいきは一つだったのに戻ってきたら二つに増えているではないか。そこに目を付けたリリスは話題を転換するのにもちょうどいいとそれに触れることにした。


「あっ、そうなんですよ! ちょっと聞いてくださいよ!」


 リリスに尋ねられた白いマジックバックについてルーミアは食い気味に話し始めた。

 見つけたときのこと。せっかくいいものを見つけたと思ったら呪い付きだったこと。それを解呪するのに頑張ったことなど、ルーミアはまくしたてるように説明した。


「そうですか……入れたら取り出せない呪いがかかっているとは災難でしたね。というかよく呪い解けましたね」


「えへへ、頑張りましたよー」


「ルーミアさんのことだから鞄ごと破壊して中身を取り出そうとするものだと思いましたが……解呪もできるなんてさすがですね!」


「うっ……まさかそんなことしないですよ。中身二度と取り出せなくなったら困るじゃないですか」


 確かにそのような考えに至ったのは事実だが、さすがにそんな無謀を犯すほどルーミアも考え無しではない。

 確かにパワーで解決するのは手っ取り早い手段だったかもしれないが、成功率や失敗した時に被るデメリットの勘定はルーミアも行っている。


「しかし、盗賊団が所持していたマジックバックですか……。呪いがかかっていたということは盗品の持ち運びなんかに悪用されたりはしてなさそうなので不幸中の幸いでしたね」


「え……? あっ、そうですよね。悪用……持ち運び……? あれ、もしかして……?」


 リリスの言葉から何かに気付いたルーミアはおもむろに白いマジックバックをごそごそと漁りだした。

 ルーミアは洞窟内の探索は隈なく行った。その点に関しては自身を持って言える。だが、まだ一つ確認していない場所があった。


 それが、白いマジックバックの中だ。

 自身のガントレットを取り戻すことに躍起になっていたためすっかり試みるのを忘れていたが、もし盗賊団がマジックバックを所持していたらどのように運用するかを考えたら一目瞭然。

 リリスの言ったように当然盗品を詰め込むだろう。


 ルーミアにとってそのマジックバックは呪い付きの不良品だったため先入観で思い至らなかったが、これを手に入れた盗賊団が同じような考えをしていたら。便利な高級アイテムを手に入れて、楽に荷物を運べるようになったとしたら。まず間違いなくあれこれ入れられてるはずだ。


「えっと、これじゃない。これでもない」


 すると鞄の中から様々なものが出てくる。

 高そうな骨董品や武器類、質の良さそうな布、宝石、アクセサリーなどなど。

 統一性はまるでないが、明らかに高価なものが詰まっている。

 まるで今から売りに行くと宣言しているかのようなラインナップだ。


 そしてその中には――――。


「あった! 星形のペンダント! しかも二つ!」


 目当ての物を見つけ出したルーミアは二つのペンダントを握り締めた手を高々と上げた。


「見てくださいリリスさん! ありました! ありましたよ!」


「分かりましたから早くそれしまってください! 高そうなもの散らかしてみんな見てますよ」


 ルーミアは依頼を完全達成に到達させる最後のカギをようやく見つけることができた。これもリリスの助言が大きかっただろう。その喜びをリリスに共有するためにペンダントを彼女に突き出すが、取り出された高級品が注目を浴びルーミアは多くの視線を集めていた。

 リリスがそれを咎めるとルーミアはようやく気付いて慌て始める。


「わっ、ごめんなさいー。すぐ片づけますー」


「まったく……普通呪い解いたら初めにその中確認しません? ……まあ、ルーミアさんなので仕方ないですか」


 探し物を実はずっと持っていたなんて展開にリリスは呆れたように半笑いを浮かべる。

 慌ただしく散らかしたものを回収しているルーミアの姿に見兼ねたリリスは呆れた様子で片づけるのを手伝いに受付カウンターから出てくるのだった。

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