第44話 呪いなんてぶっ壊せ
「えっ、あっ、ちょ……返してー! わ、私のガントレット返してーー! あの緑色の剣は要らないからそれだけは返してよ!」
そのマジックバックが入れた物を取り出せない呪いのかかっている鞄だと理解が及んだところで先程の軽率な行動を思い返してみよう。ルーミアはそれに何を入れた?
そう、自身の装備していたガントレットを中に入れてしまったのだ。
剣士でないルーミアは剣を必要としていないため最悪魔剣サイクロン・カリバーは二度と取り出せなくても構わない。しかし、愛用のガントレットともなれば話は別だ。
ムリだと分かっていても鞄の中に手を突っ込んでガントレットを引っ張り出そうとしたり、中身を吐き出させるためにぶんぶん振り回したりといろいろ取り組んでみたいがやはり呪いの力が邪魔をする。
呪いのアイテム、呪いの装備。珍しいものではあるが、まったくお目にかかれないものでもない。呪いと冠するだけあって効果はデメリットをもたらすものばかり。よくあるのは装備したら最後呪いを解くまで外せない装備品だったり、使用するたびに自らを傷つける武器だったりだが、このマジックバックの呪いはそういった類ではない。
それでも、その呪いのデメリット効果は絶妙にいやらしく、もはやそれは鞄ではなく質の悪い倉庫といって差し支えない。
「くそぉ……そういうのはちゃんと書いておいてよ……。バツ印だけだと分からないじゃん……」
更には責任を盗賊団に転嫁する始末。今この場にヴォルフがいたのならば限界突破身体強化風神モードでの爆裂蹴りが炸裂していたところだったが、残念ながらこの怒りやら憤りやらをぶつけたい対象は既に塀の向こうだ。
「とりあえず……どうしよ? ペンダントを探すのが先決……だよね?」
不慮の事態に見舞われてすっかり気分を落としてしまったルーミア。
この場に赴いているのは指名依頼を受けたため。それだけモチベーションが落ちていたとしてもそれを投げ出すわけにもいかず、ルーミアは白いマジックバック片手にとぼとぼと歩き出した。
「あー、これぶっ壊したら中身出てくるとかないかなぁ……? いや、それはダメだよね」
手を入れた感じからして中にはいろいろ入っていることが分かった。
目的のガントレットだけでも取り出したいルーミアは間違いなく正攻法ではない手段を真っ先に思いついて口にした。
しかし、その方法で中身を取り出せる未来を想像できない。むしろ、二度と取り出せなくなってしまうような気さえしたルーミアは変な考えは捨てた。
となると、やはり残るのは正攻法。
「呪い……かぁ。解けるかな?」
解呪。マジックバックを呪いから解き放つという唯一の正攻法の手段。
ルーミアは白魔導師。そして白魔導師が扱うことのできる魔法の中には……解呪の魔法も存在する。
「ガントレットは返してもらわないと困るし……やってみよう」
ルーミアはふぅと小さく息を吐いた。
何気に解呪の魔法を使うのは初めての事だった。
「えー、
呪いなどの魔法効果を打ち消す魔法、
触れないと魔法の効果が出ないルーミアの
それをここで初めて解禁した。
白いバックを抱える手が淡く輝いた――――が特に何か起こった様子はない。
「あれ……足りない? 相当強い呪いなのかな? それとも私の
ルーミアは解呪魔法を発動した。しかし、何も起こらなかった。
マジックバックにかかってる呪いが強いのか、それともルーミアが使う解呪の魔法が慣れてなさすぎて弱かったのか。可能性としてはどちらもあり得ることだが、詳しいことは分からない。
それでも、一度ダメだったからといって挫けるルーミアではない。
「
魔法の多重発動はルーミアの常套手段。
単発での発動で力が足りないのなら重ねて発動、呪いの力を上回ってしまえば何とかなる。そう考えて再度解呪の発動を宣言するも、やはり何も起こる気配はない。
その後、
「えー、これでもダメなんですか?
まだ魔力はある。それでも
「これでダメなら専門家にやってもらうしかありませんが……面倒なので絶対にぶっ壊します!」
こんな呪い一つ破壊することができず何が白魔導師だ。ルーミアは自身にそう発破をかけて高らかに宣言した。
「
その瞬間、パリンと甲高い音が二か所から鳴り響いた。
一つはルーミアが抱える白いマジックバック。呪いが解かれたのか黒い靄のようなものが鞄から吹き出して霧散していく。
そして、もう一か所はルーミアが元々持っていた鞄だ。その中にしまわれていた非常用魔力結晶が強引な魔法行使に耐えかねていくつか砕け散る音だった。
だが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは呪いが解かれたかどうかだ。
ルーミアは再度鞄に手を入れ、恐る恐る引き抜いた。何の突っかかりもなくするりと抜けた手は黒いガントレットを確かに掴んでいた。
「よかったーーー! おかえり私のガントレットーーーーー!」
無事呪いを解いて中身を取り出すことができた。
ようやくの思いで再開することができた愛用のガントレットに、ルーミアは嬉しそうに頬ずりするのだった。
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