第43話 呪いのマジックバック
「うーん、ここではなさそうですね」
ルーミアは積み上げた瓦礫の山に座り込みぼやいた。
あちこちくまなく掘り起こして探してみたもののそれらしきものは見当たらない。
盗賊団にこのような恨み言を言うのは少し違うが、もう少し盗品の管理をしっかりしててほしかったとルーミアは憤慨した。
「こういう時ハンスさんみたいに見通すことができたら楽なんでしょうけど……あれはあれで調整が難しいらしいので、隣の芝生はなんとやら……ですね」
一瞬、ハンスの力を使えてたらどれだけ楽だったろうと考えたルーミアだったが、すぐに首を横に振った。
遠くを見れるとだけ言われれば聞こえはよくとても便利なものに聞こえるが、視点を移動、観測したいものや場所にピントを合わせるような精密な操作。距離が遠ければ遠いほど消費する魔力量は増えていき、乱発はできない切り札の力。
恐らく、ルーミアが思うほど簡単に扱える力ではなく、こういった探し物に応用するのにはかなり骨が折れるだろう。
「こっちはまだ行ったことのない道です……。迷いたくないのであちこち分岐してないといいのですが」
ぼやいていても状況は進展しない。
休憩を終え立ち上がったルーミアは違うところを探しに引き返す。
初めてこの場に辿り着いた際は、キリカの助言もあり他の道には目もくれず一直線にやってきた。
その時に無視した道をしらみつぶしに探していく。
「ここは行き止まり……こっちは……あ、奥に何かありますね」
ある道を進んだ先、片方の道は目の前に壁が差し掛かり行き止まりであることを示す。だが、その隣の道も行き止まりでもあるが何か木箱のようなものが置いてあるのが確認できた。
「何でしょうこれは……大きくバツ印がしてありますね」
置いてあるのは何の変哲もない木箱なのだが、その表面から側面に至るまで目立つ赤色のバツ印が激しく主張している。
「何だろ? とりあえず……えいっ」
不吉な印だなぁと思いながらもルーミアは特に考えず足を高くあげ、振り下ろした。
硬いブーツの踵落としでバキッと容易く破壊された木箱から木片が飛び散る。
剥き出しになった鋭い部分をゲシゲシ踏み砕いて、中を覗くとそこには小さな白い鞄があった。
「なにこれ……鞄? これも盗品……なのかな?」
何の変哲もない木箱から姿を現した何の変哲もない鞄。
では、赤いバツ印の意味は何だったのか。単なる悪ふざけか何かだったのか。
色々と腑に落ちないことはあるが、ルーミアは恐る恐る鞄を開いた。
「これって……もしかしてマジックバック? 中が見えないってことは……そうだよね?」
マジックバックとは中に空間属性の魔法が付与されていて見た目の大きさよりもたくさんの容量の物をしまい込める鞄だ。ものによっては家一軒分ほどの容量を誇るものもあり、当然高級品だ。
「あっ、すごい! 本物だ!」
ルーミアは偶然腰に付けていたサイクロン・カリバーをその鞄に突っ込んだ。その鞄が見た目通りの容量ならば当然入りきるわけがないのだが、緑色の鞘はルーミアの仮説を裏付けるように吸い込まれて鞄の中に消えた。
見た目以上の容量。本物のマジックバックを初めて見たルーミアは端的に言ってしまえばはしゃいだ。
買おうと思ったら金貨を何十枚、何百枚と積まなければいけない高級品。冒険者なら誰でも欲しがる、でも高くて手が出せないそれが今自分の手にあるのだ。テンションが上がるのも無理はない。
鞄の見た目より大きなものが吸い込まれるように仕舞われる様を拝みたい一心で、ルーミアは自身の装備していたガントレットを片方取り外して同じように中に入れた。
「やっぱりすごい…………けど、あれ?」
しかし、ふと落ち着きを取り戻した時疑問に思う。
何故こんな高級便利アイテムが、こんなところで木箱にしまわれていたのか。
ご丁寧に赤いバツ印までされていたのか。
嫌な予感がしたルーミアは震える手を鞄に入れた。
「まさか……ね」
マジックバックから物を取り出す際は、取り出したいものをイメージして手を引き抜けばいい。ルーミアは先程中に入れたサイクロン・カリバーを取り出そうとイメージして手を入れた。初めての感覚だったが、無事に鞘を持った確信が手に広がる。
あとは引き抜くだけ……なのだが、何かがつっかえているかのように取り出すことができない。
「えっ……出せない。剣も取れない、ガントレットは……こっちも抜けない」
どれだけ強い力を込めて引き抜こうとしてもそれが再び姿を見せることはない。
それは物を取り出そうとした時にのみ発生する現象で、手を出し入れするだけならば普通に行えた。
嫌な予感が確信に変わり、ルーミアはようやく理解した。
こんな場所にまるで封印されているかのように放置されていた鞄の正体。
「これ、呪いかかってるじゃんーーーー!」
入れた物を取り出すことができない呪いのマジックバック。
それに気付いたルーミアの絶叫が洞窟内に響き渡った。
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