第47話 お礼の延長戦
「さて、今日は試してみたい新技があるのでいい感じの討伐依頼を…………ほえ?」
「あっ、来ましたね。ルーミアさん、こっちです!」
思いついた新技とやらを試すための手頃な依頼を受けようと冒険者ギルドの扉を開いたルーミア。
いつも通り依頼掲示板などには目もくれず真っ先にリリスの元に向かおうとしたところ先客がいた。かと思いきやルーミアがやってきたことに気付いたリリスは手招きをしながら呼んでいる。いったい何なのだろうと早足で近付くとその理由にも察しがついた。
「あれ、キリカさんじゃないですか」
「ルーミアさん、こんにちわ」
「もしかして依頼の件ですか?」
「はい、その節は本当にありがとうございました! 一時は諦めていましたが、ルーミアさんにお願いして本当によかったです」
リリスと話をしていたのはキリカ。
指名依頼についての確認か何かで来ているのだろうと察しがつき尋ねるが、キリカのお礼の言葉でやはり依頼はきちんと達成されていることが証明される。
ルーミアとしては完遂したつもりでもキリカに確認を取るまでは本当に依頼が終わったのかは分からず、星形のペンダント二つという条件は満たしていても実はキリカの求めていたものではないという可能性も無きにしも非ずだった。
だが、キリカの嬉しそうな反応が結果を物語っており、ルーミアもつられて笑った。
「依頼の報酬などはギルドを通さなければいけないのですが、どうしても直接お礼を言いたかったので待たせてもらってました」
「えっ、もしかして結構待たせちゃいました?」
「いえ、ついさっき来たところです。ルーミアさんの姿がないのであれば後日改めて時間をもらえるか頼むつもりでしたが、こちらの方がルーミアさんならもうすぐ来ると教えてくれましたので……」
「リリスさん……そんな無責任なこと言って……もし私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」
「そろそろ来ると思ってたのでそれは考えてませんでした」
まるでルーミアの行動を見透かしているかのような言い草。
事実リリスの言った通りのタイミングでやってきたルーミアは何も言い返せず、無言で頬を膨らませリリスの肩をぺちぺちと軽く叩いた。
「もう……いいですよ。キリカさんもわざわざありがとうございます」
「いえ。私も弟も大切にしていたペンダントなので返ってきて本当に嬉しいです。何でもこれを探すのあちこち奔走してくれたとか……重ねてお世話になりました」
キリカとしてはたまたま知っていてなおかつ実力的にも信頼できる冒険者がルーミアだったというだけだが、結果だけ見れば彼女を指名したのは最適だったかもしれない。
今キリカの手元にペンダントが戻ってきているのは、ルーミアが見つけたからだ。
だが、そこに至るまでに必要だったプロセスとしてマジックバックにかかった呪いをどうにかするというものがある。
偶然ルーミアは自力でそれを為すことができる冒険者だったため最終的にこのような結果になったが、そうじゃない者ならば中身や鞄自体を諦めていた可能性もある。
白魔導師のルーミアだから依頼を最短で達成できたのだ。
そんなルーミアにお礼を何度もいい頭を下げるキリカ。
感謝の気持ちを何度もぶつけられて照れたルーミアは、きりのないお礼を止める。
「……あの、ルーミアさんはこのあとお時間ありますか?」
「時間ですか? 今日の予定はまだ決まってないので大丈夫ですが……」
「でしたら、この後うちに来てくれませんか? うちの親なんですけど定食屋をやってて、前に助けてもらったこともあってお礼したいって言ってるんです」
「ご飯! お邪魔じゃなければぜひ……!」
「邪魔だなんてとんでもない。指名依頼ではあまり報酬をお支払いできなかったので、よかったらたくさん食べていって下さい」
指名依頼は依頼主が払う報酬額を決める。
キリカとしては出せる最大限を報酬にしたが、ルーミアの働きはそれ以上だった。
その指名依頼を受けると決めたのはルーミア自身なので、キリカが報酬額何度について気に病む必要はないのだが、大したお礼もできていないというのは心苦しいのだろう。
それを埋め合わせるという訳ではないが、お礼の一部となればいいなというのがキリカの思いだ。
ルーミアはまだギルドに来たばかりで受ける依頼も決めていない。
キリカの親が営む定食屋というのに興味が湧いたルーミアは二つ返事で本日の予定を決めたのだった。
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