第136話 独占欲
「それでそれでっ、これから何をするんですか?」
「定番ですがショッピングの予定です。服とかアクセサリーとか、そういうのを見て回って気に入ったものがあれば買いたい……ルーミアさんに買わせます」
「そんな唐突にお財布要員宣告しないでください。まあ、別に構いませんが」
ルーミアはリリスに本日の予定を尋ねる。
ただ一緒にいられるだけで多大なる幸福感で満ち溢れているルーミアだが、やはりデートというからには何かしらの楽しいイベントを期待している。
そんな輝く笑顔を向けられたリリスは考えていた予定を伝える。
定番と言えば定番ではあるがここは王都。ウィンドウショッピングで一日を潰す事も可能であるため、お買い物デートもそれなりに楽しめるだろう。
だが、ここは王都という事もあり、滞在期間が過ぎれば去らなければならない。この地で見つけたものは逃してしまうと二度と手に入らない一期一会の物になってしまうかもしれない。
故に、気に入ったものは迷わず購入する。
その意志を示したリリスは、ちょうど隣にいいお財布がある事に気付いた。
ルーミアという高ランクの冒険者で、程よく稼いで懐が温まっている少女がいる。これを使わない手はないだろう。
突然のお財布認定に驚いたルーミアだが不服は無い。むしろ、甲斐性を見せるチャンスとも取れる。
甘んじてその役目を受け入れて、買い物を楽しむ事に決めたルーミアはお財布を取り出して中身を確認していた。
「まずは服を見て回りましょう。ルーミアさんに似合う服を見繕いたいです」
「好きですねぇ、それ。まあ、今日は何でも言う事聞きますよ」
ルーミアは初めてのデートの事を思い出して若干顔を引きつらせた。リリスの気の済むまで着せ替え人形にされたのは今となってはいい思い出だが、とてつもなく疲労した記憶も蘇る。
それでも、リリスのやりたい事ならば叶えてあげたい。アレンとの邂逅で心配をかけたり、デートを遅れさせたりと悪い事をした自覚はあるため、ルーミアはキラキラと目を輝かせるリリスに意義を申し立てる事はしなかった。
◇
「んー、いいですね。素敵なお洋服、いっぱい買っちゃいましたね」
「……着たのも買ったのも私なんですが。これ、リリスさんは楽しいですか?」
「それはもう。ルーミアさんが根をあげなければあと半日はやっていたかったです」
「殺す気ですか……?」
予想通り着せ替え人形にされたルーミアはやや疲れ気味だ。その一方で艶々しているリリスはホクホクとしている。
「いやー、ルーミアさんは黙ってるとかわいいですね」
「黙ってない時は?」
「……黙ってなくてもかわいいです。癪ですが認めましょう」
「やったぜ」
ルーミアを着せ替え人形にして眼福だったリリスはルーミアの容姿を褒める。
大人しくしていればとてもかわいい彼女だが、かわいいのは静かにしている時限定では無く、どんな時でもかわいらしいと思ってしまったリリスは悔しそうにしている。
一方で、たくさんかわいいと言われたルーミアは心の底から温まり嬉しそうな表情を浮かべる。
ルーミアが中々にハードな着せ替え人形を乗り切る事ができたのも、着替える度にリリスが褒めちぎってくれたからだ。
常時かわいいと言われ続け、甘い毒を全身に回されたルーミアは、更なる毒を欲していた。
でなければものの数着着替えただけで飽きがきていただろう。
「ルーミアさんは素材がいいので何でも似合いますね。アクセサリーもきっといいのが見つかります」
「……服よりは着脱が楽でしょうか」
服同様に色々なアクセサリーを試着させられる事になりそうなルーミアは困ったように笑う。
だが、生き生きとしているリリスのためだ。ここで身体を張れなければ女が廃る。
アクセサリーは服と違って着たり脱いだりする必要がないため、ルーミアの負担も幾分かは減るだろう。
頑張ればまたリリスがたくさん褒めてくれるはず。そんな光景を想像して、にんまりと笑みを浮かべるルーミアは、リリスの手に引かれアクセサリーショップへと連行された。
◇
「いっぱいありますね〜。見てるだけで楽しいです」
「見てるだけじゃなくてちゃんと付けてかわいいところを私に見せてください」
「分かってますって」
「ではさっそくこちらのかわいらしい髪飾りを」
リリスがルーミアの頭に手を伸ばして、選んだ髪飾りを付ける。
服は自分で着替える必要があったが、アクセサリーはこうして付けてもらうこともできる。リリスのしなやかな指がルーミアの髪を梳き、少しくすぐったいと感じたルーミアはんっと声を漏らす。
「やっぱり似合いますね。とってもかわいいです」
「えへへー、ありがとうございます」
「他にも色々試してみましょう。髪飾りだけじゃなくて、イヤリングやブレスレット、ネックレスや……首輪なんかも見たいですね」
「はいっ! …………首輪?」
「さ、どんどんいきましょう」
「ねえ、首輪ってなんですか? リリスさん、リリスさんってば」
「…………さ、いきましょう。ね?」
羅列の中に不穏なものが混じっている事に気付いたルーミアはリリスに詰め寄った。しかし、リリスはにっこりと微笑むだけでルーミアの問いには答えようとしない。
しかし、ルーミアが食い下がる。それに対してリリスは仕方ないといったように息を吐き、ルーミアの顎を持ち上げて、顕になった喉の辺りを指先でなぞった。
「えっ……え? リ、リリスさん?」
「かわいいですね……本当に」
「な、何ですか急に」
だが、それだけ。
ルーミアが望む答えを言及することはなく、リリスはただ目を細めて少女の顎と首を撫でる。
(ふふ、冗談だと言うのに……真に受けちゃって本当にかわいいです。ですが……チョーカーなら贈ってもいいかもしれませんね。首輪は……また今度です)
真相は彼女の胸の中。
何も知らないルーミアはただひたすらに撫でられ続けて、買い物途中だと言うのに随分とふやけた顔になっていた。
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