第39話 彼方へ飛ばせ
物資の補充も終わり、依頼対象の討伐へと繰り出したルーミアとアッシュ達。
討伐する魔物は違えど偶然にも生息地が被っているということもあり同行しているルーミア。普段ならばサクッと依頼を終わらせるために急ぎ目に行動するのだが、彼らに合わせてのんびり歩くのも悪くないとどこか懐かしい気持ちになる。
(こうしてゆっくり歩くのは久しぶりだなぁ。そういえばあの頃もこんな感じだったっけ?)
アッシュ達三人の少し後ろで彼らの背中を眺めながらふと以前アレンのパーティに所属していた時のことを思い出す。
役割は異なるが前衛後衛比も男2女2の編成も同じく共通している点がある。そして後衛職の白魔導師ということもあり、ルーミアはいつも一番後ろにいた。
ソロとして活動してからは誰かと行動を共にするということがなく、誰かの後ろ姿を眺めて歩くことも、隣に誰かがいたというのも久しぶりで最後の思い出となればやはり以前所属していたパーティにまで遡る。
「ルーミアさん、どうしたんですか? 早く行きますよ?」
「……すみません。今行きます!」
そんな昔の思い出を想起してつい足を止めてしまったルーミアに声をかける。ハッと気づくとアッシュとシン、ノルンが振り向いてこちらを見ている。共通点を多く感じられる中確実に違うといえるもの。それは雰囲気と居心地の良さ。
(こうして気にかけてもらえるのって、なんだか新鮮かも)
仲間のことを気遣うなんて当たり前のことかもしれない。しかし、ルーミアはそんな当たり前を受けずにやってきた。長くパーティを組んだアレンがルーミアに気を遣うということはなかったのに対し、出会って間もないアッシュ達がまるで本当の仲間であるかのように接してくれる。それが嬉しくもどこかおかしくて、ルーミアは少し吹き出しながら彼らに駆け寄った。
「ルーミア、笑ってる」
「少し思い出し笑いをしただけです」
「そう、もうすぐアムール湿原につく。余計なお世話かもしれないけど気を引き締めて」
「分かってますよ。遅れは取りません」
ルーミアの気の抜けた様子にノルンが釘を刺すもこれが通常運転。戦闘モードへの切り替えもいつでも行える。
「ルーミアさんはここからどうしますか? 俺達、多分時間かかっちゃいますけど……」
「そうですね。せっかくなのでついていきますよ。邪魔にならないようにするので安心してください。それとも、お手伝いしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。確かにルーミアさんの手を借りられたらすごく楽かもしれませんが、これは俺達の受けた依頼なのでなるべく俺達だけで頑張ります……! ルーミアさんから見て明らかにピンチで、俺達がどうしてもと助けを求めたらその時は助けてくれますか……?」
「分かりました。いざという時の回復は任せてください」
アッシュはあくまでもルーミアをいざという時の保険として扱うようで、戦力としてはなるべく当てにしないようにしたいらしい。ここでルーミアが一人大暴れして依頼を達成したところで、達成感もなければ成長にもつながらない。自分達の依頼は自分たちでこなす意気込みを伝えられ、ルーミアは余計なお世話だったと一歩引いた場所から見守ることに決める。
そうこうしているうちにアッシュ達は見つけたグリーンスライムとの戦闘を開始した。
アッシュが前に出てグリーンスライムの攻撃を大きな盾で防いで弾く。できた隙をついてシンが斬りかかったり、ノルンが魔法で援護したりと、オーソドックスではあるが安定した連携の仕方で戦っていた。
(いいね、強いじゃん。それに……楽しそう)
味方同士での声掛けもされており、雰囲気がいい。
それを羨ましそうに見ていたルーミアは感化されたようで、自分も早く戦いたいと逸る気持ちを抑えていた。
「ん……グリーンスライムか。アッシュさん達が受ける依頼ってことはそんなに強くないのかな? あっちも心配なさそうだし私もちょっと遊ぼうかな」
ルーミアは近くに姿を見せたグリーンスライムと少し離れたところで戦闘を繰り広げるアッシュ達を交互に見て考える。危なくなったら助ける約束だが、安定した戦いぶりで危険に陥る気配はない。自分の依頼とは関係ない魔物だが今すぐにでも身体を動かしたい気分だったルーミアは目の前に佇む緑色のプルプル動くそれと遊ぶことにした。
「さて、どれくらいでいけばいいのかな? とりあえず……
スライムが物理攻撃に耐性がある事は知っている。今のルーミアがそれを討伐するのなら魔法親和性の高いブーツに何かしら魔法属性を付与して蹴り飛ばすのが手っ取り早いだろう。だが、ルーミアは己に施す魔法を
「あれ? 手応えないなぁ。もっと遠くに吹っ飛ばせると思ったんだけど」
もはや討伐ではなくどれだけ遠くに跳ばせるのかを考えて蹴りを放ったルーミアだが、スライム特有の柔らかい身体と物理的な攻撃を吸収して和らげる性質が発揮され思ったほどの距離は飛ばなかった。
「んー。でもちょっと飛んだってことは完全に無効にされてるわけじゃないんだよね。吸収なら倍率上げたら押し切れるかな?」
もはやルーミアの頭の中にいかに魔力を無駄に使わずに戦闘を組み立てるかという自らに課した課題など残っていなかった。何故ならこれは戦闘ではなく遊びだから。
「
助走に勢いをつけるためだけにふんだんに使用された強化魔法。
爆発的な加速を得て、その勢いのまま足を振るう。
蹴り飛ばすその瞬間に取り戻されたルーミアの体重とブーツの重さ。
超重量と超加速が掛け合わされた凄まじい威力の蹴りが軟体へ突き刺さる。
あとはそれがどこまで飛んでいくのか見送るだけ――――だったが。
「あーーーーーーっ!!」
プチュンと悲しい音を立てて弾け飛んだ。いくらスライムが物理耐性ありといえど、許容量を超えた衝撃には耐えられなかったようで、ルーミアの思い描く軌跡を紡ぐことなくその場で呆気なく崩壊した。
途端、ルーミアの叫びが木霊する。
それはまるで、おもちゃを壊してしまった子供が起こす癇癪の様だった。
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