第57話 氷結少女
ルーミアの誤算は目に見えている頭がすべてだと思い込んでいたこと。だが、半ばヤケクソの行動が隠れていた真実を表に引きずり出した。
すべての頭を同時に潰せば倒せるという仮定。それに対して、ルーミアが処理し続けていたのは二つ。それが正しい討伐法なのかはさておき前提が崩れた今、ルーミアはやや不満げに頬を膨らませた。
「水中にもう一つの頭を隠しておくなんてずるいです……! おかげで無駄なことをする羽目になってしまいました……!」
二つの頭がすべてだと勘違いし、それらを同時に破壊することに躍起になっていた自分が恥ずかしい。無駄に大技を披露してしまったことも合わせて、意味のない激闘を繰り広げてしまったことがやや堪えている。
そんな怒りやら羞恥やらの感情はすべてヒュドラにぶつけてしまおう。要はやつあたりだ。
「もう許しません。絶対にボコボコにしてやります」
最後の弱点を露わにしたヒュドラに抗う術はあるのか。ルーミアは必要以上にしばき倒すと心に決め宙を舞うヒュドラを睨みつけるが、想定外の事態が起きた。
「ちょっ、何してるんですか? 共食い……? いや、再生を妨げる凍結部分を自分で砕いた……?」
三つ目の頭が凍り付いたまま再生できずにいる頭に齧りついた。
ゴリゴリと噛み砕き呑み込んだことに目を丸くしたルーミアだったが、すぐさまその狙いに気付いた。
凍結部分が無くなったことで、頭の再生が始まった。
まさかそのような方法で強引に肉体を取り戻そうとしてくるとは思いもしなかったルーミアは、引っこ抜いた勢いのまま宙に放り投げてしまったことを嘆く。
「なるほど、なるほど……! 完全復活、というわけですか」
ほんのわずかな滞空時間でヒュドラは三つ首を完全復活させた。
それを見てルーミアは力強く右足を地面に叩き付けた。
「
所持していた魔力結晶がいくつか割れた音が聞こえる。
本来なら過度な魔力消費と過剰な攻撃力の上乗せは避けるべき事案。
それでも、このイラつきをぶつけるべき相手に一切の容赦はできなかった。
ルーミアが纏う冷気と風。幾重にも重ねられた付与によって彼女がその身に宿したのはさながら吹雪だった。
次の瞬間、ゴパッと冷気が爆発し吹き荒れた。
瞬く間に全身が凍り付いて固まっていくヒュドラは何が起こっているのか認識すらできなかっただろう。
超速で動くルーミアの爆裂蹴りが炸裂した。例によって一撃一撃の威力は限りなくそぎ落とされている、速さに補正をかけた連撃。だが、その一撃に込められた凍結能力は重ね掛けされた
蹴りつけられたところから凍り付いていくのは必至。
そんな蹴りが何十、何百と繰り出され、氷のオブジェへと変貌を遂げたヒュドラの辿る運命は一つ。
「さあさあ、全部纏めて砕いてあげます……! もう再生なんてさせません。これで終わりましょう」
ピクリとも動かない大きな像の上に立ち、ルーミアは大きく息を吸った。
誰に告げるでもなく自分に言い聞かせるように、その魔法を高らかに宣言する。
「
雷が落ちたかのような轟音が轟いた。
しばらく様子を見ても再生する兆しはない。
今度こそ完全に倒したといって差し支えないだろう。
「ふー、すっきりしたー! 気持ちよかったー!」
随分と派手で大掛かりなやつあたりだったが、無事ストレスを発散出来てルーミアはご満悦の様子だ。
「結構疲れましたね……。さっさと帰りましょ」
だが、何か大切なことを忘れている。
得られた達成感からか本来の目的を見失い、そのまま帰路に着こうとするルーミア。
ついぞ、浄化作業という最も大切な工程が思い起こされることはなかった。
その数時間後、人知れず戻ってきて、美味しくない魔力ポーションを啜り、泣きそうになりながらせかせか浄化するルーミアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます