第58話 昇格試験の資格獲得

 ルーミアが本来の目的を忘れて戻ってくるなどアクシデントはあったが、無事に源泉の浄化作業は完了し、ユーティリスは平和を取り戻した。

 特別依頼を無事完遂したということで報酬を受け取ったルーミアだが、リリスからある事が告げられる。


「ルーミアさんはこの依頼を達成したことで、Aランクに昇格する試験を受ける条件を満たしました。一応確認ですが、昇格試験を受ける意思はありますか?」


「当然、受けますよ」


 ルーミアは毎日毎日来る日も冒険者ギルドに足を運び、何かしらの依頼を受けていた。

 冒険者ギルドが定めた独自の指標、依頼達成の回数や難易度、貢献度など決められた目標値を越えた冒険者にはランクアップするための試験を受けるチャンスが与えられる。


 ルーミアがBランクに上がる際に受けた特別昇格試験とは違い、正規の昇格試験。

 彼女は日頃の積み重ねと実績が認められてついにその権利が与えられた。


 もちろん権利が与えられただけで強制ではない。

 それでも上に上がるのにはまたとないチャンス。仮に失敗したとしてもそこまでの裏目はないため基本的に昇格試験を蹴る冒険者は少ない。


 ルーミア自身ランクにそれほどこだわりがあるわけではないが、高ランクになればより難易度の高い依頼が受けられるようになり、難しい依頼になればなるほど報酬もおいしいものになる。要は危険になるぶん稼ぎやすさも比例して上がるということだ。

 どちらかというとランクが上がったことで受けられる討伐依頼の幅が広がるということに利点を見出しているルーミア。いずれにせよ、昇格試験を受けないなんて選択肢は彼女にはなかった。


「ルーミアさんならそう言うと思いました。ではその方向で話を通しますので……やっぱり受けたくないとかありましたら早めに申告してくださいね」


「大丈夫です、撤回はしません。ちなみに昇格試験ってどんなことをやるんでしょう?」


「人によって多少変わることはありますが、大体はAランク以上の冒険者との戦闘試験と、以前ルーミアさんが特別昇格試験で受けた特別依頼のような形での審査になるはずです……」


「依頼だけじゃないんですね」


 Bランク昇格の時とは異なり、見られるものが多い。

 それだけ厳しく審査が行われるということなのだろう。

 詳しい内容は決まっていないものの、リリスから大まかな話を聞いたルーミアは苦い表情を浮かべる。


 何せ、Bランク昇格の特別試験ではかなりやらかしてしまった自覚がある。

 結果的に丸く収まって大団円だったが、今回はAランク昇格試験ということもありどこまで審査されているのかが定かではない。


 戦闘能力には自信があるものの、それ以外は不安が残るルーミアだが、どのみち試験を受けない選択肢はない以上ベストを尽くすしかない。


「しかし、前代未聞ですね。白魔導師の方がソロでAランク昇格試験に辿り着くなんて……ルーミアさんまた有名になっちゃいますね」


「……それって悪い方向にですか?」


「いえいえ、そんなことありませんよ。ルーミアさんなら大丈夫だと思いますが、Aランクに昇格してもっと名前を広めましょうね、姫」


「あまり不名誉な呼び名は広めたくないんですけど……まぁ、ぼちぼち頑張りますよ」


 後衛職、支援職がソロで昇り詰めるといった稀な事象。

 これによってルーミアの呼び名は更に知られることになるだろうとリリスはルーミアをよそに楽しんでいる。

 試験というからには全力で臨むつもりだが、不名誉な二つ名は広めたくないとルーミアは口を尖らせる。


「では、日程や試験の内容が決定しましたら改めてお知らせします。緊張して体調を崩さないように気を付けてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 試験というのは何度やっても慣れないときは慣れないし、緊張するときは否が応でもしてしまう。

 まだ未定の先の話だが、ルーミアは昇格試験に向けて己のコンディションを高めていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る