第50話 『暴力姫』『白い悪魔』
本来ならば仲間がいなければ本領を発揮できない後衛職のはずなのに、ゴリゴリの物理アタッカースタイルを突き通すその白魔導師ルーミア。
辺境の地ユーティリスでも彼女の存在は大きなものになり、冒険者たちの間でも様々な異名で知られている。
「リリスさん、私って結構評判悪いですか?」
「そんなことはないと思いますけど……何かあったんですか?」
「さっきすれ違った冒険者パーティの人に暴力姫って言われたんですよ。ひどくないですか?」
「え……何か間違ってます?」
「ひどい!」
かつてハンスが『観測者』と呼ばれていたように異名は他者から見たその人物を表すものが付けられる。
『暴力姫』と呼ばれたルーミアはその出来事に憤慨してリリスに縋りつくも、バッサリと一刀両断されてしまう。
異名は基本自分から名乗るものではなく、与えられるものだ。
たとえルーミア自身が気に入らなくとも、他者がそのように認識してしまったらもうどうしようもないのだ。
「いいじゃないですか、暴力姫。暴力的なのも間違ってないですし、姫ってついててかわいいですよ」
「よくないです! そんな不名誉極まりない呼び名じゃなくて、もっとカッコいい呼ばれ方したいです!」
「……そうですね。私が耳にしたことがあるルーミアさんの呼び方候補は確かにカッコいい感じのはあまりなかったですね」
「待ってください。候補って何ですか?」
「ルーミアさん、今色々な呼ばれ方されてますよ。暴力姫の他には……ボッチ白魔導師とか、黒白魔導師なんてのも聞いたことあります」
「ボッチじゃなくてソロです! ……ところで黒白魔導師って何ですか?」
「さぁ? 黒い装備ばっか着けてるからじゃないですか?」
暴力姫の他に様々な呼ばれ方をされていて、それをリリスから告げられたルーミアは驚愕に表情を染める。
言われてみれば確かにどれも当てはまる。だが、ルーミアは不服そうに頬を膨らませた。
「嫌です! そんな呼ばれ方定着されたくないです」
「私に言われても……。いいじゃないですか、暴力姫。私は好きですよ」
「私ってそんな暴力のイメージあります?」
「何を今更……。ルーミアさんといえば暴力、暴力といえばルーミアさんじゃないですか。一般常識で誰でも知ってますよ」
「一般常識でもなければ誰でも知ってるわけでもないと思いますけど!」
「ふふ、そうでしょうか?」
ここぞとばかりにからかってくるリリスに涙目で突っ込みを入れるルーミア。
クスクスと笑われていっそうむくれてしまう。
「はぁ、もう少し日頃の行動を省みた方がいいでしょうか?」
「ルーミアさんから暴力を取り除いたらいったい何が残るんですか?」
「リリスさん、さっきからちょくちょくひどいこと言いますよね? 私という人間は暴力だけで構成されている訳じゃないんですよ?」
「すみません、ルーミアさんの反応が可愛いのでついからかいすぎてしまいましたね」
「まったく……リリスさんは意地悪です」
ルーミアが拗ねてしまう一歩手前まで踏み入る攻めたからかい。
リリスもやりすぎたと思ったためか素直に謝罪をした。
「話を戻しますが、個人的に結構好きで中々熱い呼び名があるんですよ」
「何ですか、それ?」
「白い悪魔です」
「えっ、それ……聞いたことあります。それって私のことだったんですか?」
『白い悪魔』
それは白髪で色白な白魔導師の少女が悪魔じみた暴力性を秘めていることからひっそりと呼ばれ出した異名。
それがまさか自分のことを示しているとは露知らず、噂として聞き流していたルーミアはまたしても驚愕した。
「えぇ……ちょっとショックです」
「白い悪魔……いいじゃないですか。他のと比べたらカッコいいですよ」
「まあ……それは、確かに? でも、悪魔ですよ? なんか嫌じゃないですか?」
「じゃあ姫で我慢してください。暴力姫」
「それもいやだぁ……」
結局、ルーミアの気に入る呼び方はないようで、知りたくなかった新事実を知ってしまいがっくりと肩を落とす。
彼女の異名が『暴力姫』になるのか、それとも『白い悪魔』になるのか……はたまたまだ見ぬ第三の勢力が力を付けるのか。
彼女の異名を巡る熾烈な争いの行方はまだ誰も知る由もない。
だが、一つだけ確実なことは、どんな異名で確定したとしてもルーミアが心から気に入るような異名にはならないということだ。
◇ ◇ ◇
よければ皆さんもルーミアちゃんの二つ名を考えてみてください……!
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