第37話 嫌いな味
若干気まずい雰囲気が漂うが、パンと高い音を鳴らしたルーミアの手。
何かしら話題を変える必要性を理解しての事だった。
「さて、私はこれから依頼を受けますがアッシュさん達はどうするんですか?」
「お、俺達も行きます。早く上に上がりたいのは本当なので……!」
上を目指すためにたくさんの依頼をこなす。単純だが最も効率的な近道だ。
アッシュ達の上を目指す気持ちは本物なのだろう。だからこそ、ルーミアを引き入れるといった大型補強などにも目がいくのだ。
残念ながらその気のないルーミアには断られてしまったがだからと言って歩みを止めるわけにはいかない。
「俺達はグリーンスライムの討伐です。ルーミアさんは?」
「えっとね、ちょっと待ってね」
ルーミアの依頼はリリスに丸投げされている。
いったいどんな依頼を選んでくれたのだろうかと心躍らせて彼女に尋ねに行く。
「リリスさーん」
「ルーミアさん。あまり他の冒険者さんのこと威圧しちゃいけませんよ。手が出るんじゃないかヒヤヒヤしました」
「そんな簡単に手を出しませんよっ。それより私の今日の依頼何になりましたか?」
「はあ……まあいいです。今日はこちらの依頼でよろしくお願いします」
リリスはカウンターからルーミアとアッシュ達のやり取りを遠目で見ていて、怒ったルーミアが何をしでかすのか非常に心配していた。
暴力的な意味でルーミアの手が早くなっているのは明白なので、いつ彼女の拳が火を噴くのかと内心穏やかではなかったというのがルーミアへの信用の無さを物語っている。
さすがに後輩冒険者をいきなりしばきだすという暴挙には出なかったようでひとまず安心したリリスはルーミアに一枚の依頼書を差し出す。
それはスパークラビット討伐の依頼書だった。
「これってアレですよね? 頭の小さな角みたいなのから放電してくるウサギさんですよね」
「そうです。すばしっこくて倒すのは中々大変な魔物ですが、多分ルーミアさんの方がすばしっこいので大丈夫かと」
「これは魔物自体にそれほど脅威は無くても、倒すのが困難なタイプの依頼なのでしょうか?」
「確かに素早くすぐ逃げるし倒しにくいというのはそうなのですが、放電は侮れませんよ。特に襲ってくる相手には牙を剥く魔物は油断なりませんからね」
スパークラビットは基本的に人を襲うことはないが、自身に危機が迫った時の危険度と通常時の素早くすぐに隠れてしまい討伐が困難という理由でそこそこ高いランクに位置付けられている。単純な脅威度でいったら劣っていても油断は禁物だと伝えるリリスの話をルーミアは真面目に聞いていた。
「分かってますよ。それじゃ、行ってきます!」
「頑張ってくださいね」
依頼を受けたルーミアは再度アッシュ達の元へと駆けた。
「私はスパークラビット討伐です! 確かグリーンスライムの生息地と同じ場所にいたはずなのでもしよければ一緒にどうですか?」
「それは……俺としては強い人が同行してくれるのは助かりますが……その、いいんですか?」
「えっ、あー。パーティに入ってあげることはできませんが、それくらいなら大丈夫ですよ」
あくまでもルーミアの地雷はパーティへの勧誘。
偶然行き先が重なったことによる同行自体に嫌悪感はない。
「あっ、その前に物資の補充をしてもいいですか? 俺達のパーティは回復役がいないので、ポーション系はしっかり準備しておかないと……」
「あー、私も魔力ポーション買わないといけなかったんでした。ちなみにあれってどんな味ですか?」
「僕とアッシュは飲んだことありませんがノルンは使ったことありますよね」
「……死ぬほどまずい。今持ってるけど少し舐めてみる?」
「では……お言葉に甘えて」
魔法使いのノルンは魔力ポーションの使用経験があるらしい。
ノルンはごそごそと鞄を漁り、何やら液体の入った瓶を取り出した。
味見をさせてくれるみたいなので指を出し少しだけ垂らしてもらう。
通常の水などと比べるとかなり粘性のあるそれを恐る恐る口に運ぶ。
舌が味を理解した瞬間にルーミアは口を窄めて顔を顰めた。
「まっず……やっぱり持っておくのは魔力ポーションじゃなくて魔力結晶にしておこうかな……」
アッシュが物資の補充をするというのでルーミアもそれに便乗しようとする。
出番があるかは分からなくても備えておけばいざという時に困らずに済む。
魔力切れは白魔導師のルーミアにとっては致命的。そうそう起こすつもりはないとはいえ、回復手段は持っておいた方がいい。
そのため、魔力ポーションか魔力結晶のどちらかは所持しておきたいルーミアだったが、あまりにも苦手な味の魔力ポーションで備える気が失せてしまったようで、舌先に残る後味に思わず
比較的安価な魔力ポーションに対して、魔力結晶は大きさや込められている魔力量によって値段はまちまちだが割と値が張るものが多い。
それでも、たとえ多少出費がかさんだとしても、魔力ポーションは飲みたくないと決め込んだルーミアだった。
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