第133話 今の居場所
かつての仲間との再会。そして、唐突な復帰要請を受け、ルーミアは内心何を言っているんだろうと思いながらも、ヒナとザックが語る彼らのパーティ事情を聞いた。
二人が必死に話す様子をあくびをしそうになりながらルーミアは聞き、その上で考える。
(へー、やっぱり私の特大魔力から放たれる支援魔法って強力なんですね)
ルーミアを捨て、新たな白魔導師の加入を経て再稼働したアレンのパーティは落ちぶれの一途を辿っていた。
確かにルーミアの欠陥は後衛職としては致命的。だが、行使される支援魔法の効果は絶大だった。
普段からルーミアの強化や回復を受けていた彼らは、新しい白魔導師の支援に満足することができなかった。
彼らの災難はルーミアという才能あふれる白魔導師の支援に慣れきってしまっていた事。それ故に並、もしくはやや優秀に留まる白魔導師の支援では物足りない。彼らにとって当たり前だったものが、実は当たり前ではなかった。それに気付くまでに、すっかりパーティの風評は悪く染まりきってしまったという訳だ。
(本当に虫のいい話ですね……)
彼らの事情を把握したうえで、ルーミアは困ったように表情を歪めた。
その言い分は勝手もいいところ。まさしく前置きされた通り虫のいい話。
ルーミアを追い出したことで、どんどんダメになっていった。だから戻ってきてほしい。仮に恥を忍んだ頼みであったとしても、ルーミアが「はい、分かりました」と頷くはずもない。
元より、興味本位で話は聞いたが、事情を把握したからと言ってその要請を受け入れるつもりなど毛頭なかった。
「今更そんな事言われたって、もう遅いですよ」
時すでに遅し。ルーミアがかつての状態のままだったならいざ知らず、今のルーミアはそもそも仲間を必要としていない。
白魔導師は後衛職という常識に囚われている彼らは、ルーミアが戻ってきてくれる可能性が僅かでもあると思っていたのだろう。
だが、現実は無情。可能性は僅かすら残されていないゼロ。必死の説得も取り付く島もない。ルーミアは表情を変えずにバッサリと切り捨てた。
「……断るのか? これはお前にとっても悪い話じゃないはずだ。白魔導師のお前は誰かの元じゃなければ力を発揮できない」
「……だから戻って来いと?」
「そうだ。せっかく再び仲間にしてやると言っているんだ。俺達がお前を使ってやる」
ヒナとザックの申し訳なさそうな態度とは打って変わって、アレンは上から目線でルーミアに物言いをする。
それはかつてのようで、ルーミアを見下しているから取れる態度だ。
そして、そこにはいくつの勘違いが散りばめられている。
アレンは初めこそルーミアが無能であると信じて疑わなかった。だが、仲間に引き入れた白魔導師が悉く劣っている。それが続き、もう後がないというほどに追い詰められて、ヒナとザックのようにようやく気付いた。「後任の白魔導師が劣っているのではない。前任のルーミアが規格外だった」のだと。
認めるのは癪だが、認めざるを得ない。
でなければこれまで失敗続きだったことに説明が付かない。
ルーミアの支援に支えられていたパーティは、ルーミアを欠いてかつての機能を失った。そうして本来の実力に戻り、後任の白魔導師を迎えたところでパーティ戦力は元には戻らない。それほどまでにルーミアが底上げしていた能力は大きく、優秀止まりの白魔導師ではぽっかりと空いた溝を埋めきることは無理難題だった。
それを理解したからルーミアの力は認めている。
だが、その上でルーミアが自分たちの元へと戻ってくると信じてやまないのは、彼女が抱える大きすぎる欠陥だ。
アレン達がルーミアを欠いて上手くいかなくなったように、ルーミアも仲間を失って上手くいかなくなっている。そう思っているからこそアレンはルーミアに強気に出られる。
その前提が間違いだらけであることを、ルーミアは呆れた様子で告げた。
「え、ふつーに嫌ですけど」
「そうか。賢明な判断…………今なんて言った?」
「嫌だって言ってるんです。まさか本当に戻ってきてもらえるなんて思ってます? だとしたら……相当頭お花畑ですね」
ルーミアは一人になって活路を見出した。
彼らのように、ただ失っただけではない。
「おかげさまで私は私の支援を受け取るにふさわしい最高の
自分という、何の制限もなく魔法を行使できる対象を見つけた。
だから、もう上から目線で支援を要求する仲間は要らない。
「私はもう帰るべき場所があります。だから天と地がひっくり返ってもあなたたちには着いていかない」
ユーティリスには買ったばかりの家がある。
だから、彼らとの冒険には着いていけない。
そして――。
「私の居場所は――ここにあります。もう……そこじゃない」
「ルーミアさん……」
そう言ってルーミアはリリスの腕に抱き着くようにして身体を寄せた。
ルーミアにとってアレン達はかつての仲間。それ以上でも、それ以下でもない。
もう終わった関係。断ち切られた糸が再び紡がれることはない。
今の居場所はリリスの隣にある。だから、そのパーティにもうルーミアの居場所はない――必要ない。
「もう一度言いましょう。そちらに戻る気なんて――これっぽっちもありません!」
「……後悔するぞ?」
「しませんよ。むしろあなたたちと再び組んだ方が後悔しそうです」
「何……?」
「自分達の正しい実力も分からずに失敗の原因を全部白魔導師のせいにして……本当に情けない話ですね。今のあなたたちなら三人がかりでかかってきても負ける気がしません」
「欠陥白魔導師風情が戯言を……っ!」
ルーミアは挑発するように言い放つ。
話を聞く限り本当に情けないと思った。
弱い自分を受け入れ、認めて、進んだルーミア。
本当は強くはない自分を認めずに、虚勢を張って、停滞と後退をしたアレン。
そこにある差は大きく、それを見据えるルーミアは自惚れではない。
「戯言だと思うんだったら勝負しますか? 私が負けたら……仲間になってあげてもいいですよ」
「舐めてるのか?」
「舐める? 正当な評価ですよ」
ルーミアの不敵な態度にはアレンだけでなく、ヒナとザックもカチンときたのか、調子に乗るなと言わんばかりに睨みつけている。
復帰要請を断られるだけならば十分予想できていた。だが、ルーミアがここまで大きく出るとは予想していなかったのだろう。
一人では何もできない白魔導師の癖に何を調子に乗っているんだ、と三人の思考は合致する。ルーミアが巷でなんと呼ばれている少女なのかまだ知らないからこそ、そのように考えてしまう。
思い上がりも甚だしい。そんなルーミアが提示する破格の条件。
アレン達からすれば、ほぼ無条件で戻ってくると言っているようなものに思えてしまうだろう。
だからこそ、その勝負は受けるしかなく、欠陥白魔導師からの挑発から逃げるのはアレンのプライドが許さなかった。
「言ったな? お前が負けたら……首輪をつけて奴隷のように扱き使ってやるぞ?」
「どーぞ。できるものなら」
こめかみに青筋を浮かべるアレン。それを鼻で笑うルーミア。
白魔導師のルーミアが自信満々に勝負を挑んでくることへの疑問を持つヒナとザック。
そして――「デートは?」と首を傾げるリリス。
こうなってしまってはもう止めようがない。
リリスはルーミアの耳元に顔を寄せ、「早いところ済ませてくださいね」と呟くのだった。
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