第69話 着せ替えルーミア
何も気にすることなく楽しそうにしているルーミアと、若干恥ずかしそうに周りの目を気にしているリリス。
リリスは断固として認めないだろうが二人のデートはゆるやかに幕を開けた。
「いやー、それにしてもリリスさんから誘ってくれるなんて珍しいこともあるんですね」
「……休日に友人と過ごすのはそんなに珍しいですか?」
ジトリとリリスの視線がルーミアを射貫く。
こうして二人が休日に会うことになったのはリリスからのお誘いがあったからだ。
だが、こういった催しが開かれるのはこれが初めてのこと。
突然のお誘いに二つ返事で了承したルーミアだったが、それでも急にどうしたものかと感じるのも当然の事。
だが、特別な理由など特にない。むしろこれまでが何もなさ過ぎただけだ。
友人であるのならば、仕事から離れて付き合いがあったとしても何ら不自然ではない。
「嬉しいですよ! リリスさんに誘われたらいつでも予定空けるのでまた誘ってください!」
「もう次の話なんて随分気が早いですね。でもまあ、考えておきます」
「やった! いつでも待ってます!」
まだ今日のお出かけが始まったばかりだというのに、既に次回の事を口にするルーミア。リリスは呆れたように目を細めるが、内心では次の休みがいつだったかを思い出すために頭をフル回転させていた。口にも態度にも出さないように努めているが、気が早いのはリリスも同じだった。
「それで、まずどこに行くんですか? リリスさんと一緒なら魔物の巣窟でも、毒の湖でもどんとこいです!」
「……私が死んでしまうのでそれらは一人で行ってください。今日はまず服を見たいと思ってます」
「服ですか! いいですね!」
「ルーミアさんはこういうのは興味ないと思ってましたが……今日の服装もとても似合ってますし、普段からおしゃれとか気を遣ってるんですか?」
「いえ、特にそういうのはないですね。服とかもこだわりはないので、こう……ビビビッときたものを適当に選んでます」
「……なるほど、素材がいいから何を着ても似合うと…………。暴力特化スタイルだからかわいいの暴力にも秀でているということですか、そうですか」
「ちょっと何を言っているのか分かりません」
女のリリスから見ても今のルーミアの天使のような装いは目を惹かれてしまう。
そのためおしゃれなどにも気を配っているのかと思いきやルーミアに限ってそんなことはなく、普段の服装選びなども感覚に頼り切っている。
それもルーミア本人の素材がいいから為せる技なのかとリリスは恨めしそうに呟く。確かに暴力は得意なルーミアだが、それとこれとは関係ない話だ。
「まあいいでしょう。せっかくですし、ルーミアさんに何着か選んでもらいたいです」
「リリスさんの服をですか? それなら任せてください! ビビビッとくるのを選びますよ……!」
「それは楽しみです」
◇ ◇ ◇
「……あの、先程から私ばかり試着をしているような気がするのですが」
「それはルーミアさんの気のせいです。さあ、次はこちらに着替えてください」
何かがおかしい。ルーミアは呟いた。
リリスと共に服を見に来たところまではいい。その服選びのメインはリリスとなるはずだったが、なぜか彼女そっちのけでルーミアばかりが着替えを繰り返している。
次々に持ちこまれる服に着替え、リリスに披露してはまた次の服。ルーミアは完全に着せ替え人形となっていた。
「メイド服です! どうです? 似合ってますか?」
途中からはルーミアもやけになって楽しむことにした。
若干ノリノリになりながらポーズまで取って出てくるようになり、試着室の前で謎の盛り上がりが起こっていた。
「とてもかわいいです! フリフリが似合ってます! でもお皿とかたくさん割りそうで雇いたくはないです!」
「偏見が酷いっ!」
「はいはい、次はこちらです」
「これって……男物の服なんじゃないですか?」
「メイド服の近くに執事服もあったので持って来ておきました」
「……この店、すごい品揃えですね」
最初は普通の服を持ちこまれていたルーミアだったが、徐々に一般的な私服とはかけ離れたものを渡されるようになる。
そんな謎の品揃えに関心しながらも、ルーミアは再び試着室へと消える。
「じゃじゃーん! どうですか?」
「ちょっとダボっとしてますがこれはこれでかわいいのでいけますね……! でもお家を破壊されそうなので雇いたくはないです!」
「結局雇ってもらえないんですね!?」
それはもはや服装関係なくルーミアに定着した破壊のイメージである。
ガーンと大袈裟にリアクションするも実際にメイドや執事を目指している訳でもないルーミアは特に気にしておらず、楽しそうにしているリリスをにこにこと眺めていた。
「あの……これいつまで続けるつもりなんですか? ちょっと疲れてきたので休憩したいのですが」
「まだまだ終わりませんよ。さっ、今度はこれいってみましょう」
「次はドレスですか……? てかドレスもあるんですか?」
着せ替え人形になるというのも実は結構大変だったりする。
やや疲れを感じてきたルーミアはいったんリリスと交代して自分も見繕う側に回って休憩したいと思ったが、どうやらまだ自分のターンは終わりそうにない。
それを悟ったルーミアは、リリスが楽しそうにしているので頑張ろうと腹をくくった。
◇ ◇
「つ、疲れた~」
「すみません、楽しくなっちゃって我を忘れてしまいました」
その後も何十着も着せ替えは続き、ルーミアは疲労困憊だった。
元々リリスの服を見に来たはずだったのに、なぜかルーミアが服を大量に購入することになり、両手に袋を抱えることになっている。
「そんなに買っちゃってよかったんですか? というより何を買ったんですか?」
「リリスさんの反応が良かったものをピックアップして買いました。誰かに服を選んでもらえるのはいい機会でしたので奮発してしまいましたね」
「そうですか。私の選んだものを……」
「はい、次リリスさんと出かける時に着て来ようと思います!」
「では、その時は私もルーミアさんに選んでもらったコーデで来ることにしましょう」
「ふふ、それは楽しみですね」
互いに選んでもらったコーディネートでのお出かけ。
想像しただけで早くも次回が楽しみになった二人は自然と頬を緩ませる。
「ですが、ルーミアさんの買った服が多すぎて何を着てくるのか予想できないのはずるいですね」
「ずるいって何ですか。別にずるくありませんよ。それも込みで楽しめばいいじゃないですか」
現在リリスの手元にあるのは数着。それに対してルーミアの抱える袋には数十着。
単純に選んでもらった数と購入した数が違う。
「じゃあ、ヒントを上げましょう。その服を着て、リリスお嬢様って呼んであげますよ」
「…………え、それ買ってたんですか? なるほど……その呼び方は非常に魅力的ですが、ルーミアさんがですか」
「……? どうかしました?」
「いえ、暴力で色々壊されそうなので雇いたくはないな、と」
「偏見が酷いっ!」
ルーミアにお嬢様と呼ばれてドキリと鼓動を刻むリリスだったが、彼女のその姿を思い浮かべて我に返る。
どれほどかわいく着飾っても、きっと彼女の本質は変わらない。
結局最後の最後まで、従者ルーミアを雇い入れる想像ができなかったリリスだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルーミアちゃんが着たら似合いそうな服、着てほしい服などありましたらぜひコメントで教えてください……!
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