第32話 後始末と救出(物理)

「よし、これで全員かな……」


 ヴォルフを叩きのめした後、ルーミアは気絶している盗賊団一味を全員縛り上げた。

 手持ちのロープだけでは足りなかったが、盗賊団が誰かから盗んだものと思われるものがあちこちに散乱していたので、使えそうな物は拝借して利用していく。


 倒した盗賊は優に三十人を超える。初めは全員をロープで繋いで適当に引きずり回して帰るつもりだったが、それではロープの耐久力が持ちそうにない。

 何かないものかと辺りを見渡すと、少し大きめの荷車のようなものが目に入った。


「これも今日の商人さんみたいな人から盗ったものなのかな……? これなら全員乗せられそうだし、使わせてもらおう」


 壁際にて転がされて埋もれていたそれを引っ張り出したルーミアはまたしても荷車に盗賊を投げ込んでいく。

 この作業も本日二度目ということで慣れてきているのかスムーズに人の山が積みあげられていく。


「他にもいろいろあるけど……回収はまた今度でいいかな? 全部は乗らないし、私もちょっと疲れたし」


 ひとまず盗賊団の一味を町まで連行して依頼と試験を終わらせる。盗品の回収はその後でもいいだろうと荷車を引いて歩き出した。入室の際に片方の扉を破壊していたおかげでスムーズな退室が行える。


「少し重い……けど頑張らないと」


 現在、ルーミアの魔力はかなりカツカツだった。

 短期決戦を試みたとはいえ、あれだけの多重魔法行使となればかかる負担も尋常ではない。最低限の魔力は残せているため、身体強化ブースト一段階常時発動は何とかなっているが、それ以上となると心もとない。


 本来ならこの荷車も身体強化の段階を一つ上げて運びたいところだが、まだやるべきことが残っているルーミアは迂闊にその魔力を使えない。


「魔力ポーションか魔力結晶があればよかったんだけど、今まで必要としてこなかったしなぁ。これからはちゃんと用意しておいた方がいいかも」


 白魔導師のみならず魔法を主体として戦う職業の者ならば当たり前のように所持している魔法アイテム。魔力ポーションは失った魔力を回復させる薬。ちなみにおいしくないことで知られている。魔力結晶は魔法を行使する際に必要な魔力を結晶に込められたもので肩代わりをする。内包された魔力を使い切るとくすんで色を失ってしまう使い切りの道具だ。


 そんな必須アイテムを必要としなかったルーミアだが、こうして魔力切れに近付いて初めてその有用性に気付いた。己の才能にかまけているといつか足元を掬われるかもしれないというのは彼女にとっていい教訓になっただろう。


「折り返しですね……キリカさん達を助けに行きましょう」


 初めの分かれ道まで戻り、反対側へ踵を返す。

 待たせているキリカとユウの救出だ。


 こちら側の道は一度通っているため迷うことなく進んでいく。


(そういえばあっちの分岐……まだ見てませんが何かあるんでしょうか?)


 キリカから目的地の場所を教えてもらい直行したため、まだ見ていない道が多い向こう側。それらを確認するのはまた今度でいいかと割り切り最優先事項のために歩を進めるが足取りは重い。


「やっぱり……六重セクスタ以上は反動がきますね。いえ、無理やり掛け合わせたのが大きいでしょうか? いずれにせよ、少し休んだら何かしらの討伐依頼で要調整ですね」


 力でねじ伏せるスタイルも強力だが、速さと手数で押し切るスタイルもモノにできれば武器になる。ルーミアはスピード特化における課題を噛みしめる。

 そうして考えながら歩いていると、キリカ達が見えてきた。


「すみません。お待たせしてしまいましたね」


「いえ、それほど待ってないですが……本当に倒されたんですね。でも……よかったです」


 時間で言えばそれほど待ってはいなくとも、待っている間の不安は無くならなかった。信じていなかったわけではない。それでも、ルーミアという少女が助けに戻ってきてくれるまでは、真の心の安寧は取り戻せなかった。


 しかし、ルーミアは戻ってきた。

 あとは、この檻から出してもらえば大団円。そう思ったところでキリカは首を傾げた。


「ルーミアさん……あの、錠を開ける鍵は?」


「え、鍵……?」


「まさか、持って来てくれてないんですか?」


 檻に取り付けられている錠。

 それを取り外すための鍵がルーミアの手にあると信じて疑わなかったキリカだったが、再度瞳に不安が宿る。


「えーと、ヴォルフさんが持ってるのかな? どこだー?」


 ルーミアは荷車の人の山を漁りヴォルフを引っ張り出すと、彼の身体をまさぐる。

 もちろん変な意味ではなく、鍵を探すという目的でだ。

 しかし、彼の衣服からそれらしきものは出てこない。


 今になって鍵を探し始めたルーミアを檻の中から信じられないといった様子で眺めていたキリカ。

 鍵がないということを悟ると、再燃した不安の気持ちで泣きそうな表情を浮かべる。


身体強化ブースト五重クインティ。おりゃ!」


 めきめきめきと嫌な音を立てて形を変えていく格子。

 元々、ルーミアはこうするつもりだった。そのために魔力を残しておいたといっても過言ではない。

 鍵がないのなら力でぶっ壊せばいいという脳筋的思考で檻の形を変化させ、キリカ達が抜け出せるスペースを作り出した。


「さぁ、行きましょう」


「………………え、あ。はい」


 縦に引かれていた線が無くなり、呼びかけるルーミアの表情がよく見える。

 何でもないといったようで手を差し伸べる少女の姿と目の前で行われた救出劇(物理)に訳も分からずしばらく放心していたキリカだった。


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