第33話 気付いたら昇格していた件について

 盗賊団に囚われていた姉弟を無事ユーティリスまで送り届け、盗賊団の引き渡しなどの後始末を行ったルーミアは疲労困憊な様子で冒険者ギルドに戻ってきた。

 リリスもおらず特別依頼や特別昇格試験の件は誰に尋ねればいいかと謎の人見知りを発揮させてきょろきょろと挙動不審にしていると、手招きしているハンスの姿を見つけた

 ルーミアは喜んでひょこひょこと付いていき、特別試験の話を来た時のようにギルド長の部屋へと入った。


「まずはお疲れさまといっておこうか。単独での盗賊団捕獲、よくやってくれたね」


「一応倒した人は一人残らず連れてきたと思いますが、もしかしたら打ち漏らしがあるかもしれませんね……」


「そこは追々構成人数とかを問い詰めて確認していくしかないね。でも、リーダーがいなくなったんだから活動は収まるとみて間違いないよ」


「だといいんですけど……」


 ルーミアは広範囲を索敵するような魔法を使えない。ハンスのように遠くを観測することもできない。あくまでも倒してきたのは自分の目の前に立ちはだかった者だけで、見逃しはあるかもしれない。


 それでも、グループのトップを捕えたというのは大きい。

 絶対的だったトップの牙城が崩れたとあらば、残党がいたとしてもそれほど脅威ではない。集団は動かす者がいてこそ。烏合の衆では意味がない。


「それに捕まっていた者と襲われていた商人の救出まで……本当によくやってくれた」


「ありがとうございます。その……結果は?」


「依頼は達成。もちろん特別試験も合格だよ」


「よかったです……!」


 ルーミアは安堵の表情を浮かべた。

 結果としては丸く収まったかもしれないが、ルーミアとしては失態を犯した自覚もある。そしてハンスはそれを知ることができる。

 その上で判断が下されたら依頼はともかく試験の方はどうなっていたか分からない。

 だが、告げられたのは合格。これにはルーミアも肩の荷が下りた。


「依頼の報酬やランク昇格の手続きについては明日以降でもいいかな? 君も疲れた顔をしているし、今日はゆっくり休むといい」


「あはは……お見通しですか」


 ハンスは無理にルーミアを引き留めなかった。

 単独であれだけの大立ち回りを演じたのだ。何でもないように振る舞っているルーミアだったが、目のいいハンスには隠せなかったようだ。

 ルーミアはそのこと言葉に甘えて立ち上がる。これ以上質の良いソファに腰掛けていると眠ってしまいそうだった。


「では、失礼します」


「うん、君のこれからの活躍に期待しているよ」」


 ハンスから激励の言葉を受け取り、ルーミアはギルド長室を出た。

 扉が閉まったことを確認したルーミアは、ひっそり小さく拳を突き上げて喜びを表していた。




 ◇◇




「ということでランク昇格しました。褒めてください」


「何がということなんですか? いや、昇格についてはすごいので褒めますけど」


 翌日。体力も魔力もきっちり回復させたルーミアは手続きのために冒険者ギルドの扉を叩いた。

 リリスの姿を確認し次第駆け寄って、褒めるように催促する。


「まったく……休みから戻ってきたらルーミアさんの特別依頼達成と特別昇格試験合格の手続きを丸投げされたのでもう何が何やらですよ……。昨日いったい何をしてきたんですか?」


「盗賊団をしばいてきました!」


「ああ、はい……そうですね」


 休日から戻ってきて投げられたルーミアに関する手続き。たった一日、自分が休みの間にルーミアがどれほど暴れたのだろうと尋ねるリリスだったが、嬉しそうに報告する彼女の眩しい笑顔に思わず引きつった表情を浮かべてしまう。


「しかし……ギルド長直々に特別昇格試験ですか……。ルーミアさんならまあ、分からなくもないですが」


「そんなに珍しいものなんですか?」


「特別は珍しいから特別なんですよ。そんな誰彼構わずほいほいやってたら特別感が薄れてしまいますからね。でもまあ、ルーミアさんがそれだけ期待されているってことです」


 実績と信頼。そして、上に上げるだけの価値があると判断された。だからこそルーミアには特別昇格試験の機会が与えられた。

 そして、ルーミアはそのチャンスをものにして昇格を果たした。


 ギルドとしても安心して依頼を任せられる高ランク冒険者が一人増えることになり、ルーミアも実りの良い依頼が受けられるようになる。どちらも損のない結果となった。


「とにかく、おめでとうございます。こっちが依頼の報酬、そしてこちらが新しい冒険者カードになります。分かっていると思いますが再発行にはお金がかかるので無くさないようにしてくださいね」


「ありがとうございます! もっと褒めてください!」


「何でですか! さっき褒めたじゃないですか!」


「もっとです! それまでここから動きません」


「分かった、分かりましたから営業妨害するなっ!」


 リリスは滞りなく手続きを済ませ、ルーミアに依頼の報酬が詰め込まれた麻袋と、ランク昇格によって新しくなった冒険者カードを渡す。それで対応は一通り終わったはずなのに、一向に動こうとしないルーミアに呆れ半分――――だが本心は少し悪くないと思いながら気の済むまで付き合った。なんだかんだルーミアには甘いリリスだった。

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