第16話 破壊は快感
「リリスさーん、なんかいい感じの依頼ないですかー?」
「ちょっと待ってくださいね。ルーミアさんは職業とやってることが違いすぎていい感じがどのラインなのかガバガバなんですよ。まったく、いい感じの依頼を探すこちらの身にもなってみてください」
ルーミアは今日も今日とて冒険者ギルドにやってきていた。
言いつけ通りリリスの受付の列に並び、彼女に何か手頃な依頼がないかと尋ねた。
リリスはあれこれ言いながらもルーミアに合った依頼を探す。
本来なら職業と能力を元に算出されるおすすめだが、ルーミアの場合は前提が間違っている。
ソロの白魔導師という一種のバグみたいな存在がルーミアだ。
本来戦闘能力は皆無に等しい白魔導師が一人で受けられる依頼を探すというのは中々に難しいことなのだ。
「なんかいい感じだとちょっと難しいので、何か方向性ないですか?」
「方向性ですか?」
「例えばこういう魔物を倒す系とか、何かを集める系とか、そう言ったざっくりしたのでいいんで……」
「えー、じゃあ……何かを壊す系?」
「……あんた本当に白魔導師か?」
ルーミアに薦める依頼を絞り込むために、ルーミア本人の希望を参考にしようと思ったリリスだったが、やはり白魔導師らしからぬ言動に呆れたようにジト目で見つめた。
「じゃあ、これなんてどうでしょう? 使われなくなった廃倉庫の取り壊しです。ルーミアさんの希望にぴったりですけど」
「ちなみにその倉庫は頑丈ですか……?」
「さあ? 使われなくなった倉庫ですし経年劣化などでいくらかは脆くなってるんじゃないですかね?」
「そっかー。うん……そうですか……」
「そんな心底残念そうにしなくても」
普通ならばその依頼の報酬や期限、失敗した際のペナルティなどを気にするところだが、ルーミアの目の付け所は違った。
彼女が一番初めに気にしたのはその倉庫の耐久性。
しかし、使用されなくなった倉庫で取り壊しの依頼まで来てるとなると、それほど耐久性は期待できないだろう。廃倉庫に耐久性を期待するのがそもそもおかしな話ではあるが、いちいち突っ込んでいたらキリがないと華麗にスルーしたリリスは英断だっただろう。
「まあ、簡単そうなので受けますよ」
「これを簡単と言える白魔導師は中々お目にかかれませんね」
「えへへー、ありがとうございます」
「別に褒めてないですから」
リリスは軽口を叩きながらも手際よく受注の手続きを行う。
「では、お願いしますね」
「はーい。ささっと終わらせてくるねー」
それが完了すると、ルーミアは爆速でギルドを飛び出して、現場へと向かっていった。
◇
「これかー」
身体強化が施された身体で走ること数分。
現場に到着したルーミアは、破壊対象を観察していた。
「思ったより手応えありそうかも……!」
リリスに聞いたところあまり期待はできないと思い、サクッと終わらせて帰ろうと考えていたルーミアだったが、やる気が出てきたのか目に光を取り戻した。
「じゃあ、さっそくやっちゃおうか。
身体強化の段階を一つ引き上げたルーミアは乱雑に倉庫の扉を蹴りつけた。金属の軋む音と共に扉の片側が吹っ飛んで倉庫奥の暗闇へと姿を消した。そのままもう片方の扉も引き剥がすように引っ張ると、ガコッと嫌な音を立てて外れた。
それをぽいっと投げ捨てたルーミアは倉庫内へと足を踏み入れる。
「うわ、暗いしジメジメしてる。なんか嫌だなぁ」
感じた不快感をぶつけるように倉庫の壁を殴りつけると、凹みが出来上がる。同じ場所を何度も叩き付けると腕が貫通した。
「
さらに強化段階を引き上げたルーミアは回し蹴りを撃ち込み、穴をガンガン広げていく。
「思ったより脆いし、もういっか。
ルーミアは倉庫内のまだ無事な壁に目を向ける。
それ目掛けてものすごい速さで突っ込み、容赦なく膝を突き立てた。
それを何度か繰り返すとやがて穴だらけになった。
初めに比べると明るさも確保できていて、風通しもいい。
「これで終わりっ。
ルーミアは大きく飛び上がる。
空中で身体をかがめてくるくると回転して勢いをつける。
「
現時点での最大強化と遠心力と落下の勢い、そして本来の重量を取り戻したブーツ。
それらをすべて乗せた渾身の踵落としが、満身創痍の倉庫に炸裂した。
「ふー、スッキリしたー」
ガラガラと音を立てて崩壊する鉄くずの中から出てきたルーミアは、実に満足そうだった。
その後も倉庫が原型を留めなくなるまで遊んだルーミア。
彼女は冒険者ギルドに戻るなりリリスにこのように語った。
「壊すって気持ちいいね」
リリスがドン引いたのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます