第24話 試験の始まり
「大変なことになっちゃったなぁ」
森の入り口。
ルーミアはハンスから受け取った依頼内容の詳細と判明したアジトの位置が記された地図をぼんやりと眺めぼやいた。冒険者ギルドにリリスがいなかっただけで、こうも普段と違う展開になるとは思いもしていなかった。
ギルド長からの接触。緊張のティータイム。からのギルド長直々の指名依頼が特別昇格試験。そしてこれからその依頼の盗賊団捕獲へと向かうのだからまだ今日という日が終わっていないが、これほど濃い一日は早々訪れないだろうとルーミアも確信している。
「ま、頑張れば何とかなるかな。でもなぁ、相手が人間ってのが難しいよなぁ」
実のところ、ルーミアが人間相手に力を使用したのはレオンに激ギレしたのが初めてである。そこで初めて人体への攻撃の感覚を知った。今回は初の人間相手の依頼ということでその感覚を思い出しながら考える。
「あの人は
全力の横蹴りで屈強な男の骨が折れることを考えると加減は考えないといけないのだが、ルーミアは行き当たりばったりの出たとこ勝負をすることに決めた。
「人目につきにくい森の中で商人などを狙って襲う……かぁ。私みたいなのが一人でちょろちょろしてれば引っかかってくれるのかな?」
ルーミアは今回わざと装備を外して、どこにでもいる少女を装っている。もちろんブーツはそのままであるが、黒いガントレットがないだけで幾分か華奢に見え、服装も多少動きやすい程度の普通の服に留めているため、どこからどう見ても一般人だ。
とはいえ、アジト自体の特定は済んでいるためわざわざ囮のような役割を演じる必要はない。しかし、アジトの周りには見張りなども何人か潜んでいるらしく、いかにもな格好で乗り込もうとすれば警戒させてしまうかもしれないため、少しでも油断を誘うための装いなのだ。
「奴らが使うナイフには麻痺毒が塗られている……か。そういう徹底ぶりもすごいけど、そこまで筒抜けにしてるハンスさんもすごいんだよね」
ハンスいわく千里眼は魔力の消費が大きくそれほど長い時間は使えないらしいが、情報を集めるにはもってこいの能力で、千里眼が代名詞だった冒険者現役時代は必要な情報をここぞという時に引っ張ってくることから観測者と呼ばれていたこともあったらしい。
情報は時としてものすごい武器となる。知っているか知っていないかで運命を決めることだってある中で役立つ情報を仕入れてくるハンスは戦線にいないながらも戦っていると同義だ。
他にも有益な情報が書かれている紙に目を落としてルーミアは考える。
(観測者……かっこいいなぁ。私もそういう異名? みたいなのいつかつけてもらえるのかな?)
異名や称号のような呼び名は自分から名乗るものではなく、周囲の者達から自然と呼ばれていくものだ。そう言ったものに憧れるルーミアは自分もいつかと意気込んでかわいらしく鼻を鳴らした。
「……悲鳴? まさかっ!?」
そんなことを考えて一人でにやにやしていると森の奥から悲鳴が聞こえてきた。
ルーミアは気を引き締めなおして、悲鳴の聞こえた方向へと駆けだした。
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