第148話 劣化魔弾
決勝の舞台になんの困難もなく辿り着いたルーミアは対戦相手となる自分と同じか少し年上くらいの少女を眺めていた。
決勝に至るまでの試合を秒で終わらせて控室に戻り、リリスに構ってもらう時間を確保していて、僅かではあるが観戦もしていたので対戦相手の少女の戦い方も頭に入っていた。ルーミアはちょっとした興味本位で向かい合う対戦相手に声をかけた。
「あなたの対戦スタイル……アンジェさんに似てますね」
「分かる? そう言ってもらえるのならちょっとは上手くやれるようになってきてるのかな」
少女の戦い方は今現在解説席に座っているアンジェリカと酷似していた。
魔法の撃ち方や立ち回りの仕方。総当たり戦ではあまり目立つことはなかったが、一対一の試合になるとよく分かる。かつてその戦い方を目にしたルーミアにとっては無視できないものだった。
それについて尋ねると少女は肯定の意を示してくれた。
意識して真似ている。そのように取れる返答を受け、ルーミアはますます興味深そうに目を細めた。
「馴れ馴れしい呼び方をしてるってことはアンジェリカさんとは親しいの?」
「私の昇格試験を担当してくれました。あなたは?」
「私は……以前あの人に助けられたことがあるの。それ以来あの人に憧れて、あの人の戦い方を研究して、近付きたいなって思って」
対戦前だというのに会話に応じてくれた彼女はアンジェリカの方を見つめた。
憧れの相手が見ている中で決勝まで昇り詰め、あと一つ勝ち進めば対決の機会を得られる。
それはもう感動的なストーリーだ。だが、その話を聞いたからといってルーミアが負けてやる理由にはならない。
「エキシビジョンマッチであの人に成長した姿を見せたかったけど……ちょっと厳しそうかな」
「なんですか? 怖気ついちゃいましたか?」
「……今、この会場はあなたが私をいかに瞬殺するかに注目してるでしょうね」
「……殺しはしませんが」
会場は盛り上がっている。
だが、その盛り上がり方は手に汗握る試合を待ち望んでいるというよりは、ルーミアの魔の手からどれだけ生き延びることができるか。これに尽きる。
いわば一切に期待が向けられていない状況。これまでの圧倒的な勝利の仕方からまた同じ光景が繰り広げられるのだと多くの者が疑っていないだろう。
だからこそ――彼女は不敵に微笑んだ。
「私が下剋上を起こしたら……きっともっと盛り上がる。あなたもそう思わない?」
「それは素敵で完璧なプランですね。簡単ではないという点を除けば……ですが」
「やってみないと分からないじゃない。あなただってここにくるまでに少なからず消耗はしているわけだし、始まる前から余裕ぶっこいてると足をすくわれるかもしれないよ?」
決勝に至るまでにルーミアがどれだけ消耗しているかが鍵を握る。あれほどまでに派手に秒殺を決め込むために、ルーミアがどれほどの魔力を費やしたのか。そのパフォーマンスのこの決勝の場でも維持し、発揮できるのか。
それらの不確定要素がある以上諦めるのはまだ早い。そう意気込む彼女にルーミアは感心していた。
(なるほど……。確かに相手目線だと私がどれだけ魔力を消費しているのか分からないです。そうなると……短期決戦に持ち込んでいた私の魔力残量を見誤っているかもしれないわけですが……)
結局、ルーミアが全力を尽くすべき場所はこの通過点ではなく、この先に定められている。彼女がどのようにして勝ち筋を掴みに来ても、その手を振り払って自らが上り詰める。ルーミアもまたやる気十分だ。
「じゃあ、お互い全力を尽くしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
実況と解説が場を盛り上げたところで最後の一騎打ちが始まる。
互いに自然体で見合わせ、開始の合図か響いた時、二人の魔導師は交錯した。
「っ! やっぱ速いね」
「……初撃を躱したのはあなたが初めてですよ」
ルーミアの高速移動からの乱雑な拳。
それを躱して、かのアンジェリカのように魔法を携えながら牽制するその姿はやはりよく似ている。
だが、似ているだけ。
アンジェリカという最高峰をその身で体感したルーミアにとってはさほど脅威ではない。
魔弾の生成速度、射出速度、射程、制御範囲、そして威力。どれをとってもアンジェリカに見劣りする。アンジェリカならばもっと強く、もっと鋭く、もっと濃く、もっと多彩だった。
そして、彼女にとっての誤算は、ルーミアがそれほど消耗していないということ。ルーミアが短期決戦に持ち込む理由を魔力に余裕がないからと見誤っていた。
まだまだ余力を残しており、魔力をアンジェリカ戦になるべく残すために温存しているなどとは思いもしなかっただろう。
これが格の違いであり、物理型白魔導師の魔導師特攻の歪な性能。
「認めましょう。あなたは強いです。ですが……私には届かない」
アンジェリカに比べると幾分か隙間の多い弾幕を容易に潜り抜け、再び肉薄する。
今度は逃がさないように彼女の胸倉を掴み、ぎょっとする彼女にそっとお礼の言葉を告げる。
「ありがとうございます。いい予行演習になりました」
次の瞬間、暴風が吹き荒れる。
誰が起点となって巻き起こる風かはもはや言うまでもないだろう。
圧倒的な魔力の奔流が風という概念になって会場を襲う。こんな自然災害ももう慣れきっているのか、観客達が慌てる様子はもうない。
そして、その風の暴力をもっとも間近で受けた少女が場外へと叩きつけられた時、嵐は止み白い悪魔が勝利を告げる。
「勝ちました。ですが、十秒……過ぎてしまいましたね」
遅れたように実況と会場が盛り上がる。
あちこちから投げかけられる歓声をその身に浴びながら、ルーミアはほんの少し悔しそうに笑っていた。
◆ ◆ ◆
劣等聖女の器用大富豪革命
https://kakuyomu.jp/works/16817330653285491479
一章完結しておりますのでよければこちらもご一読お願いします……!
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