第65話 確定演出

「ということなので、こちらの依頼書から一つお選びください。このAランク依頼の中からルーミアさんが手に取ったものが試験内容になります」


「では、失礼します……ってなんで避けるんですかっ?」


「言い忘れましたが内容は見ずに裏向きのまま取ってください。内容見て決めるのはいけませんよ」


「あ、そういう仕様なんですね。てっきり自分で選べるものかと思ってました」


 残る試験に向けてやる気十分。

 どんな依頼を受けるのだろうかと心待ちにしていたルーミアは、リリスから複数の依頼書を差し出された。

 どんなラインナップなのか目を通そうと手を伸ばしたところで、リリスがひょいと手を引っ込め、ルーミアの手が空を切る。


 どうやら昇格試験の依頼は内容を見て選ぶことができない完全ランダムの仕様になっているらしく、ルーミアはわずかながら戸惑いを見せる。

 ここから引き抜いた依頼の結果で昇格するか否か決まる。

 そんな命運が重くのしかかった依頼がランダムだとは思ってもみなかった。


「まあ、別にいいですけど……どんな依頼でもクリアすればいいだけの話です」


 とはいえ、ここで躊躇していても始まらない。

 どんな依頼になろうともやるべきことは変わらずシンプル。クリアするのみ。

 すぐに気を取り直したルーミアはそれこそ何も考えず適当に選んだ。


「えー、金剛亀の討伐……ですか。外れを引いてしまいましたかね……?」


「なるほど……それなら昇格はほぼ決まったようなものですね。昇格の手続き……進めておきますね」


「そうだな。私もいいご飯処を探しておこう。約束は守る」


「あの、どうして昇格する前提で話が進んでいるんですか? いや、まあ……そう思ってもらえるのは嬉しいですが、これで失敗とかだったらめちゃくちゃ恥ずかしいです」


 ルーミアは引いた依頼書を確認し、その内容を口にした。

 それを聞いたリリスとアンジェリカの中で、ルーミアのAランク昇格は確定事項のものへとなった。


 まだ試験に赴いてすらいないのに昇格の手続きを進めようとするリリス。

 ルーミアがその依頼を失敗するとは一片も考えていない証拠だ。

 同じくアンジェリカも昇格出来たらという条件での約束を果たさねばならないことが確定した口ぶりで語る。


 話がどうも飛躍していることにルーミアは驚きを隠せない。

 自身の昇格を疑わない姿は嬉しく映るが、あまりにも気が早いとそれはそれで期待が重い。

 特にこれほどの祝勝ムード全開の中、万が一にでも依頼を落としてしまうようならば申し訳ないを通り越して恥ずかしいとすら思うだろう。


「いえ、大丈夫です。ルーミアさんがこの依頼で後れを取ることはありません。安心して倒してきてください」


「何で言い切れるんですか?」


「それは……そうとしか言えないからです。この依頼は本来なら成功率はかなり低めで、それ故にAランクの依頼なのですが、ルーミアさんが失敗する姿はどうも想像できません」


「うむ。私も見ているだけの楽な仕事になりそうでよかった。さっき外れとか言っていたが大当たりだ……君にとっては」


「え、それって……?」


「金剛亀は……そうだな。言ってしまえば攻撃能力はそれほどでもないが防御力が高すぎて倒すことが困難だからこのランクの依頼になっているんだ。私でもこの依頼は受けたくないと思うほどのものだが……君なら話は別だろう?」


 攻撃能力だけで見ればそれほどでもなく危険性も高くない魔物がAランクの討伐依頼として名を連ねているのはその硬さ故だ。

 アンジェリカほどの実力者ですら討伐は困難な魔物。

 並大抵の冒険者ならばこの依頼を昇格試験で引き当ててしまったらその時点で試験を断念しなければならない場合もあるだろう。


 だが、ルーミアにとっては当たりも当たり。

 相手がどれほど硬かろうと、その盾を上回る矛になればそれですべて解決する。


「なるほど、それなら得意です。要は力で何とかすればいいってことですよね」


「雑に言ってしまうとそういうことです。さ、手続きしてお待ちしてますので頑張ってください!」


「分かりました! サクッと叩き割ってきます!」


 格上冒険者との模擬戦では相性の悪いアンジェリカと戦うことになったルーミアだったが、こちらでは最高の引きを見せつけたようだ。

 もはや誰も、試験官のアンジェリカすら昇格決定を疑っていない。


 そんな中意気揚々と初Aランクの依頼に繰り出したルーミア。

 その心境は昇格試験というよりは消化試合に臨むようで、とても気楽な様子だった。

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