第121話 風雷コンビ
リリスの背後に降り立ちながら迫るブルースライム蹴り飛ばしたルーミア。
何かを感じてしゃがみ込むと、その次の瞬間ルーミアの頭があったところをリリスの拳が通過した。
「ちっ、避けましたか」
「……っぶな。あー、もしかしなくてもおこですか?」
「おこです。当たり前じゃないですか」
「あぅ」
リリスは不機嫌な表情を隠そうともせずにルーミアを小突いた。
一度目の不意打ちはつい反射的に躱してしまったルーミアだが、二度目は甘んじて受け入れ小さく悲鳴をこぼす。
「まったく……私がこうしてここにいるのはルーミアさんのわがままのせいなんですよ? それなのに私のことはほったらかしでアンジェリカさんと談笑して……酷いじゃないですか」
「なるほど……つまり、構ってほしかったんですか?」
「ふざけてると斬りますよ」
「……はい、すみません」
「分かればいいんです。とにかく……私をちゃんと守ってください。助けてください。せめて傍にいて安心させてください」
それだけ言ってリリスはルーミアに背中を向けて剣を構え直した。
その時にちらりと見えた指先は少し震えているようにも見える。
(ああ……全然余裕なんかじゃなかったんですね)
そこで初めて勘違いをしていたことに気付く。
一人で戦えているように見えていたリリスだったが余裕など欠片もなかったのだと。
それはルーミアがソロで戦えるだけの実力があり、一人で戦ってきた経験があるからこその節穴。
与えられた装備やルーミアの施した支援のおかげでそれなりに戦えるように見えているが、心は何も変わっていない初心者、ひいては普通の女の子だ。
もっと気にかけて、寄り添ってあげなければいけなかったのだとルーミアは反省した。
(まったく……バカルーミア。来てくれるのが遅いんですよ)
リリスが戦場に身を置いて、初めに感じたのはやはり不安だ。
どれだけ強力な武器を持って、どれだけ強力な支援を施されても、初めての不安がどうしても生まれてしまう。
魔剣の性能もあり何とか戦いを形にできていたが、割と早い段階でいっぱいいっぱいになり、視野も狭まっていたリリスは、ルーミアに助けを求める視線を送った。
だが、そこで目にしたのはアンジェリカとの談笑を楽しむルーミアの姿だ。
リリスはルーミアのわがままに付き合って戦場に立っているのに、引きずり込んだ本人は気にかけてくれない。あまつさえ、アンジェリカと楽しそうにしている。それは――――少しばかりの嫉妬の対象でもあった。
そのため、ルーミアの構ってほしかったのかという問いかけもあながち間違いではないのかもしれない。
こうしてルーミアが近くにいるだけで安心してしまう自分に、リリスは我ながら毒されているなぁと薄く笑う。
「リリスさん」
「っ……何ですか」
「手を」
ルーミアはリリスの背中にとんっと寄りかかり手短に要求する。
リリスは怪訝そうに表情を浮かべながらも、その背に感じる頼もしさを信じて片手を後ろ手に出す。
そこに重ねられたルーミアの手。絡められる指。ギュッと固く握り、温もりと力を与えてくれるその手に、リリスはようやく心の余裕を取り戻すことができたような気がした。
「
「これは……っ」
ルーミアから更なる支援を受け取ったリリスは劇的な変化を感じて驚きの表情を浮かべる。
だが、それもそのはず。
ルーミアとて意図してそれを行ったわけではないが、その魔法によってリリスが更なる力を手にしたことに変わりはない。
それは――――リリスの両の瞳が、深緑に染まったことで物語っていた。
「正直……私、誰かと合わせるのって苦手です」
「でしょうね。ずっとソロでやってきましたからね」
「リリスさんの期待に添える動きができるか分かりません。それでもいいですか?」
「何を今更……さっきも言いましたが私の傍にいて安心させてくれるだけでいいんです。それに……ルーミアさんに合わせるのは私の得意分野です」
これまで幾度となくルーミアに振り回されてきたリリスだからこそ自信を持って言える。彼女に合わせるのはお手の物だ。
そして、彼女から受け取った風属性の力が妙に馴染む感覚。
リリスはその力の一端を解放した。
「……速い。これ、加速だ」
リリスの動きが加速する、その一瞬をルーミアは見逃さなかった。
リリスが至らなかった加速の領域。そこに押し込むための多重風属性付与。
ルーミアがリリスの才能を後押しした結果、完成した偶然の産物。
「いいですね。私も負けていられません」
それに触発されたルーミアは自身も速さを得るために魔法を宣言する。
「
雷を纏い、バチバチと音を鳴らす。
そうして再び背中を合わせたルーミアとリリスはお互いに声を掛け合う。
「さ、やりましょうか」
「はい。私はいつも通りにやらせてもらうので、リリスさんが私を感じてください」
「いいでしょう。今なら……きっとルーミアさんについていける気がします」
「ふふ、それは嬉しいです」
ヒュッと空気を斬り裂く風の刃の音に、迸る電光の音を乗せる。
風と雷。
二人を起点とした嵐がそこに生み出され、その中心でルーミアとリリスは不敵に微笑んで――風雷の旋律を奏で、優雅に踊り始めた。
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