第124話 病院送り?

「まったく……アンジェリカさんをしょうもない事に使わないでください!」


「……はい、すみません」


 その後、再び部屋のベッドで目覚めたルーミアとリリス。

 さすがに眠っている間に襲われてお楽しみ、という展開にはなっておらず、とにかく安堵したリリスは、とんでもないドッキリを仕掛けてきたルーミアを数発しばき倒して、ひとまず手打ちにした。


(まったく、何て質の悪いドッキリを……。寝てる時に初めてなんてそんなの嫌です……って起きてる時ならいいみたいな考えっ、それも違いますっ!)


 一瞬、襲われるのならきちんと起きている時がいいと頭を過るリリスだっただ、ボフッと顔を真っ赤にしてブンブンと首を振ってその考えを頭の奥に押し込んだ。

 はぁはぁと息を荒げながらキッとルーミアを睨みつける。その鋭い視線に射貫かれたルーミアはビクッと肩を跳ねさせてリリスの様子を窺っている。


(ルーミアさんのヘタレ……って違います。期待なんかしてません。してないったらしてません)


 押し込んだはずの思考が再度浮き上がってくる。

 ルーミアを見るたびに過る浮ついた思考にリリスはしばし苦しめられ、声にならない声を上げて葛藤と戦っていた。


 ◇


 数分後、何とか煩悩を払い冷静に振舞うことができるようになったリリスだが、ぜいぜいと荒い呼吸で胸を上下させる。

 心臓に悪いドッキリで今日の元気を使い果たしのではないかと思うほどにリリスは疲れ切っている。それでも今日の予定をずらすことを良しとしなかったリリスは、重い身体に鞭を打って目的地へと繰り出した。


「あ、リリスさんは寝てたので知らないと思いますが、ギルドも結構近いですよ。立地がいいからか高くても人気のある宿みたいです」


「へー、そんないいところをアンジェリカさんは取ってくれたんですか。ありがたいです。ありがたいので、もうくだらないことに付き合わせちゃいけませんよ?」


「えー、アンジェさんも結構ノリノリだったのになぁ……」


 ドッキリの仕掛け人として抜擢されたアンジェリカは見事に役目を果たしてくれただろう。しかし、アンジェリカともあろう方をそのような事に使うルーミアの大胆不敵さには驚きを通り越して呆れかえってしまう。

 リリスはルーミアの不満げにぼやく様を一瞥しながらため息を吐いた。


「リリスさん、冒険者ギルドに着いたら私から離れないでくださいね」


「え、一刻も早く離れたいですが……何か理由でもあるんですか?」


「えっ……今何と?」


「え、何か理由でもあるんですか?」


「その前」


「一刻も早く離れたい」


「……そうなんですか?」


「ああ、もう。離れないのでそんな泣きそうな顔しないでください!」


 あまりにも自然に拒絶の意を示されたルーミアは思わず瞳をウルウルとさせ目尻に涙を浮かべる。

 やはり、ルーミアの泣き顔には弱いリリスは慌てたように撤回。それを聞いたルーミアは安心したようにはにかんだ。


(うぅ……我ながらちょろい……。この良すぎる顔でこれをやられたら困ります……おのれ、ルーミア)


 ルーミアのそれが素なのか演技なのかは定かではない。

 それでも、ルーミアの意のままに曲げられてしまうため、リリスはぐっと拳を握り悔しそうに俯いた。


「はぁ……で? わざわざそんな風に言うってことは何か訳があるんですか?」


「王都の冒険者ギルドは規模があっちとは段違いです」


「そうですね。大きいと人もいっぱい入って活気もありましたね」


「そう、それです! 人がいっぱいなのが問題なんです!」


「何が問題なんですか?」


「リリスさんはとても可愛いので、一人にしておくとすぐにナンパされて連れ去られてしまいます」


「……王都ってそんなに治安悪いんですか?」


「一定数いるみたいですよ。アンジェさんにも気を付けるように言われました。私はともかく、リリスさんは一人にならない方がいいでしょう」


 ルーミアはアンジェリカから忠告を受けていた。

 冒険者ギルドには女性に声をかけ、強引に迫る輩も一定数存在するらしい。もちろんギルド内で堂々とそのような事をする者は少ないが、少ないといないには天と地ほどの差がある。特に美しい女性は警戒しすぎなくらいがちょうどいいだろう。リリス本人は謙遜して否定するだろうが、彼女も十分すぎるほどに美しく可憐な女性だ。ルーミアの言う通り、一人で行動すべきではない。


「なるほど……ルーミアさんと一緒にいればちゃんと守ってくれるんですか?」


「もちろんです! リリスさんに手を出そうとする輩は全員病院送りです。全治二か月です!」


「……それにルーミアさん自身は含まれますか?」


「酷いっ! 何でですかっ?」


「いや……一番手を出そうとしてるのあなたなので……」


「…………確かに!」


 ルーミアはリリスの護衛としてしっかり守ることを宣言する。

 害を為そうとするものならばたちまちユーティリスが誇る姫の暴力が牙を剥き、難なく撃退することができるだろう。

 しかし、ルーミアの語る撃退対象者にはどうにも最近心当たりがある。その輩としての特徴として、リリスがパッと思いついたのはルーミアだ。

 リリスは素朴な疑問としてそれをルーミアに尋ねてみるが、どうやらルーミアも納得をしたのかそれは盲点だったという反応をしている。


「私は自分を治せるので実質ノーカンです。よし、勝った!」


「うわ、そうだ。こいつ、白魔導師だった……!」


 しかし、ルーミアの白魔導師としての能力をフル稼働させれば、そのくらいの怪我ならばなかったことにできる。

 自信満々に自身の能力の高さを掲げるルーミアを、ジトーっと恨めしそうに見つめるリリスだった。

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