第74話 受付嬢の独白①

 私とルーミアさんの出会いは特に何の変哲もない、冒険者ギルド受付嬢と冒険者の出会いだった。

 見たことのない顔の女の子が困ったように佇んでいた。見兼ねて声をかけに行ったのが始まりだったのかもしれない。


 ユーティリスに来たばかりだと言う彼女に簡単な説明をし、依頼を紹介するために職を尋ねた。その時の彼女の様子は今でも覚えている。少し自信なさげに白魔導師と言った彼女の声は少しだけ震えていた。


 私は驚いた。ルーミアさんはソロの白魔導師だった。

 通常後衛職の者は前衛を張れる仲間――――パーティを組んで活動する。彼女はいったい何なのだろう。訳ありなのだろうか。そんな考えが過ったが過度な詮索はせずに要求には応じ、戦闘能力のない者でもこなせる簡単な採取依頼を勧めた。



 それからしばらくは細々と採取の依頼を続けていたようだったが、ルーミアさんはある日、大きな熊を持ち帰った。

 その時の受付担当は偶然にも私で、ルーミアさんが大きな熊を引きずってくる姿も見ていた。はっきり言って意味が分からなかった。

 どこかで拾ってきたとかならまだしも、ルーミアさんが倒してきた? 嘘を吐くならもっとまともな嘘をついてくれ……と思わないこともなかったが、彼女が嘘をつけるような器用な人間には見えなかったし、どのみち買い取るだけのギルドに不利益はないので何も言わなかった。ボーナス、ボーナスと嬉しそうに顔を綻ばせる彼女はちょっとだけかわいかった。



 そこからだろうか。

 ルーミアさんが普通ではない白魔導師へと変わっていったのは。


 ある日私はルーミアさんに装備の相談をされた。

 白魔導師と言えばやはり杖やローブなどだろうか。ルーミアさんはそういった類の装備をしていなかったのでついに新調するものかと思いきや、彼女が欲しがっていたのはガントレットとブーツだった。はっきり言って意味が分からなかった。


 この白魔導師は何をやらかすつもりなのだろうか。

 そう思ってしまったのはともかくとして、どちらにも心当たりはあったので紹介しておいた。彼女がこれからどこへ向かっていくのかとても心配になった。




 それからしばらくしてルーミアさんは再び私の目に姿を現した。

 どうやら新調した装備を自慢したいみたいだった。似合ってるかと聞かれた時に思った。白魔導師としては絶望的に似合ってないなと。思わず口に出してしまった。


 ルーミアさんはその装備をとても気に入っているようなのでもはや何も言うまい。

 そして、フル装備を手に入れた彼女はついに討伐依頼を要求してくるようになった。


 本当に意味が分からない。

 常々そう思いながら対応するも、ふとした瞬間に私がこれまで培ってきた価値観をぶち壊すようなことを口にしてくるので、そのたびに何度も呆れてしまった。


『暴力ですべて解決してきますね!』


 その時のルーミアさんの言葉はきっと忘れることはないだろう。

 白魔導師らしからぬ格好、白魔導師らしかぬ発言、そんな彼女の門出を祝い、行く末を見守っていく事になるとは露にも思いはしなかった……。


 でも、やっぱりこれだけは言わせてほしい。

 …………白魔導師、とは!?

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