第3話 討伐

「あれ、倒しちゃった?」


 力加減のおぼつかない足をプルプル震わせながらルーミアは倒れ伏した熊の元へと様子を見に行った。

 一応警戒は解かずに近づいたが、相変わらず動く気配を見せない熊にルーミアは小さく呟く。


「ええ? どうしよ?」


 倒したことは喜ばしい。

 だが、実感が湧かないというのがルーミアの本音だ。


 初めての力で暴走突進をかまして知らぬ間に倒していたと言われても手放しでは喜べない。

 それでも討伐には変わりないし、自身を強化して戦うという戦法がある程度は通用する証拠でもある。


「とりあえず帰って報告しよ。ちょっとは買い取り高くつくといいな」


 野生の動物でも肉が食用に使われたり、革が装備品や装飾品に使われたりとなにかしら値段が付く可能性がある。

 ルーミアは熊の足を引きずってゆっくりと慎重に森の出口へと歩き出した。


 ◇


 ◇


 討伐というものが絡む冒険者。

 誰かが何か戦利品を持って街に戻ってくることは珍しくない。


 だが、彼女――――ルーミアの様子は一際異彩を放っていた。

 自身の身長の倍は軽くある熊を片手で掴んで引きずっている少女が目立たない訳ない。

 ルーミアは行く人々から視線を浴びせられ少し恥ずかしそうに進む。


 そうしてなんとか冒険者ギルドに戻ってきたが、そこではさらに驚かれることになる。


「えっ? この熊をあなたが討伐? ルーミアさんが受けた依頼は薬草の採取じゃなかったんですか?」


 冒険者ギルドで受付嬢をしている彼女は帰還したルーミアとその手に引きずられた熊を交互に見て目をぱちくりさせた。

 依頼を受けたルーミアを送り出したのも彼女だ。

 ルーミアの冒険者としての経歴や職業、そして手に取っていった依頼を知る者からすれば驚いて当然の事だろう。


「薬草採取に夢中で森の奥まで入ってしまって……」


「それは災難でしたね。ご無事で何よりです……」


 お目当てのものを探していてもそうじゃないものしか見つからないときは往々にしてある。

 それと同様に本来ならエンカウントを避けたい存在と運悪く居合わせてしまうこともよくある。


 今回に限って言えばルーミアの不注意によるものが大きいだろうが、誰にでも起こり得る不運だ。


「こちらは依頼を受けていたわけではありませんし、該当する依頼も現在は出ていませんので報酬は出ませんが、通常の買い取りは可能になってますよ。こちらで買い取ってしまってもよろしいですか?」


「お願いします」


 依頼として討伐したわけではないため報酬が弾むということはないが、買取の金額がその分上乗せされるだけでルーミアは儲けものだと思っていた。

 肉は食用、革や爪なんかは武器や防具の素材としても使えるため意外と買取金額は高い。

 それに加えて薬草採取の依頼を達成したことによる報酬も合わせて受け取ったルーミアはほくほく顔で取っている宿へと帰っていった。

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