第143話 張り切って調整
最終調整に赴くルーミアと、それに付き合うリリス。
二人の並び歩く姿はまるで長年のコンビであるかのように息ぴったりで、リリスもまだ冒険者になったばかりだというのにそれなりの貫録を感じさせる。
「というかルーミアさんの調整に私……必要ですか?」
「そんな格好でここまで来ておいて今更ですね」
リリスはふと我に返って疑問に思った。
大会に出場するのはルーミアだけだというのに、なぜ自分も冒険者の格好でルーミアの隣を歩いているのだろうか、と。
ただついてくるだけならまだしも、こうしていかにも共闘しますといわんばかりの格好にリリスは首を傾げた。
朝のルーミアがあまりにもかわいらしく、いつまでも嬉しそうにして髪飾りを喜んでくれていたため、つられて機嫌がよくなったリリスはルーミアの言う通りに準備してしまったが、彼女の調整に自分は必要なのだろうかと改めて考えてしまう。
そんな不意に湧きあがった疑問にルーミアは呆れたようにまばたきをする。
本当に今更であり、その疑問に対する答えも明確。必要かと問われればルーミアは必ず頷くだろう。結局のところ、リリスが何を為すか、何をできるかなどそんなことは重要ではない。
リリスがいる。
それこそがルーミアにとって最も重要な要素。
「確かに調整といっても使用する予定の魔法の確認と軽い運動程度に身体を動かすだけですが、リリスさんにはいてもらわないと困ります」
「……その心は?」
「私のメンタル調整に必要だからです。どっかいかれたら泣きます」
「子供か」
「いやー、精神状態大事ですよ。リリスさんが傍にいてくれれば安心しますし、元気も出るので、本当は本番も離れたくないです」
しくしくと泣き真似をするルーミアにリリスはつい思ったことをそのまま口に出した。
しかし、心の調整と言われてしまえば何も言い返せない。
いい精神状態を保つこともいいパフォーマンスを発揮するのに必要な要素だ。
その一端を担うことができるのならむしろ光栄にさえ思えるリリスは、気付かないうちに表情を綻ばせていた。
「しかし……もうすぐですねぇ。実際、どうなんですか? 軽く情報収集してみましたが、かなり猛者が集ってるようですよ。ルーミアさんは強いですが、アンジェリカさんだけを意識していては足をすくわれるのでは?」
「はっきり言って私と魔導師の相性は最悪ですよ」
「それは……どっちが?」
「相手がです」
「まあ……アンジェリカさんといい勝負できるルーミアさんが相手ではそうなりますか」
自信のほどを尋ねられたルーミアははっきりと告げた。
ルーミアは自身の強みを理解している。
そして、その強みは並みの魔導師では崩せない。その自負があるからこその確かな自信。
「本番の私はスピード特化で挑むつもりです。どんな強い魔法も食らわなければいいだけですからね。それに、避けられないと思った魔法は壊してしまえばいいので、私と同系統のスタイルの人がいなければどうにでもなります」
「うわぁ、何てレギュレーション違反……。魔導師の中に身体能力で戦おうとする意味わからないのが混ざってます。相手がかわいそうです」
「違反はしてません。ちゃんと魔法は使ってるので」
リリスはルーミアの説明を聞いて嫌そうに顔を歪めた。
ルーミアは魔法は使っている。だが、主な魔法は身体強化魔法。
目に見える形で使われない魔法なため、傍から見れば異常に身体能力が高い少女が魔法を使わずに拳で戦う異様な光景。それを想像したリリスはルーミアの存在自体がもう違反なのではないかとすら思った。
「私のスタイルは私のできることをやっているだけなので……。それにやろうと思えば誰でもできますよ?」
「極論身体さえ鍛えればある程度は真似できるかもしれませんが……ルーミアさんは特大の身体強化が乗りますからね……。やっぱり唯一無二ですよ」
仮に白魔導師がルーミアと同じように支援魔法で戦おうとしても、ルーミアのように上手くはいかない。そのスタイルを支えるのはルーミアの魔導師としての才能と、能力を制御するために行ったたゆまぬ努力。どちらか片方だけでは足りない。どちらも持つルーミアだから可能にする、異端のスタイル。
そんな彼女が一段と目立ち、暴れる姿を容易に想像できるリリスは、まるでピクニックにでも行くかのようなルーミアに目を向ける。
「ルーミアさん、期待してますよ」
「な、何ですか急に」
「あなたが輝く姿をきちんと見せてください。本番、楽しみにしてます」
「まっかせてください! 参加者全員しばき倒してみせます!」
普段はこのような事を口にしないリリスが、言葉にしてエールを送る。
その応援の言葉を受け、ルーミアはさらにやる気を高めた。
そのため、この後行われた調整は張り切ったルーミアが無双状態に入り、リズミカルに魔物をしばき倒す作業となった。
一応魔剣に手をかけ、瞳を緑色に染めて待機するリリスだったが、縦横無尽に駆け回るルーミアに援護を送るタイミングもなく、一度も剣を振る事はなかった。
◇
『劣等聖女の器用大富豪革命』
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まだ数話でサクッと一気読みできますのでよければご一読を……!
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