第90話 約束の実現まで
その後もルーミアはリリスを運ぶ役割に徹し、内見のために奔走した。
その甲斐もあり無事新居となる家は決定したのだが、内心ルーミアは冷や冷やしていた。
「いやー、ちゃんと決まってよかったですよ。リリスさんがあまりにも即拒否を繰り返すので、全部ダメになるんじゃないかと思ってました」
「妥協はできなかったので」
妥協を許さないと宣言していたリリスだったが、まさかそれほど厳しく審査するとは思いもしなかったルーミア。
二軒、三軒と門前にて踵を返すことを繰り返すうちにルーミアに不安が宿った。門前払いとはまさにこのことかと密かに思っていたほどだ。
「家の中に入ったのって八軒目にしてようやくですよ? このままだと家の中を拝むことなく今日という日を終えるのかと思っちゃいましたよ」
「まぁ、お眼鏡にかなうものがなければそれもありでしたが」
「無しですよっ! 住むところが決まらないと私が困ります」
直に泊まる場所が無くなるルーミアにとって住む所は死活問題。
リリスの裁量によっては路頭に迷うことも有り得たため、中々内見にたどり着かないことにとてもヤキモキしていた。
内見候補に上がった物件の数は両手では数えられないはずだったが、実際に内見に至ったのは両手で数えられる。
そのことから多くの物件が家の中を見られることなく弾かれていることが分かる。
リリスの持つ地図にものすごい早さで書き加えられていくバツ印。
リリスを運搬中のルーミアは驚き半分、路頭に迷う恐怖半分で顔を青ざめさせていた。
「まあ、最終的にはちゃんと決まったのでよかったじゃないですか」
「そうですけど……決まらなかったらリリスのところに転がり込んでましたからね」
「ですが無事に決まったので転がり込むのは私ですか。さて……これからお引越しで忙しくなりそうですね」
「そうでした……! リリスさんは持ち込む荷物の整理などがあるんでしたね」
「持っていく物の選別や掃除などもしないといけないですね」
普段から身軽なルーミアは体一つで乗り込むだけだが、リリスは職員寮の片付けがある。
私物の管理、これまでお世話になった部屋の清掃などなど、やることは残っている。
「お掃除手伝いますよ。浄化で綺麗にしちゃいましょう」
「能力の無駄遣いですね」
「無駄とはなんですか。あ、あと持ち出したい荷物の収納にはこれ使ってください」
「なるほど……! ルーミアさん、引越し業者の才能があるんじゃないですか?」
「なんでしょう……褒められてると思いますがあんまり嬉しくないです」
しかし、その点に関してもルーミアは役に立てる。
白魔導師としての能力に加えて、所持している魔法の鞄。
引越しの際に便利な力が揃っており、リリスは感心した。
荷物の運搬が苦ではないというのは大きいだろう。
最悪の場合でも荷物を一旦すべて詰め込んで、あとから要らないものを処理するという選択も取れる。
宿が無くなるルーミアと違って急ぎで引っ越さなければいけないわけではないが、面倒な作業を短縮できるのはリリスとしても大助かりだ。ルーミアが全面協力してくれるというのならば是非もない。
「これなら廃業してもやっていけそうなので安心ですね」
「あの……一応昇格したばかりですよ? まだまだこれからなので終わらせようとしないでください」
「それもそうですか。まぁ、とりあえず引っ越す際は頼りにさせてもらいます」
「任せてください!」
ひとまず、新居が無事に決定したことで安堵の表情を浮かべるルーミア。
二人並んで歩く帰り道。
つい最近交わした約束が別の形でも実現する時が近付いて、少女は密かに心躍らせるのだった。
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