第152話 出発③ 金言と爆発

「使命?忘れてないよ、もちろん」

「ホッ……良かったッピ、安心したっピよ」 

「美味いパンをたくさんの人に届ける事だよな!」

「やっぱり忘れてるッピ⁉

忘れてるご主人にはお仕置きで雷撃これを喰らわせてやるッピ――ぎゅびっ!?」


憐れ、逆にお仕置きされたサンちゃん。

ぷりぷりと怒るリーンに後ろから締め付けられ、まるで発泡スチロールを潰したかのような素っ頓狂な声を出す。

 

「もぉ〜!めっ、でありますよ、サンちゃん!!」

「わ、わがっだっび……ギブ…ギブだっビ……」


羽腕でリーンの腕を3回タップする神獣サンちゃん。白目を向きながら降参を示す姿には威厳も何もない。雷龍鳥サンダーバードなんてカッコいい名前はどこへ行ったのか……。


「ふぅ……全く。小さくなったけど我は神獣だっピよ?もっと大事に、敬って欲しいもんだッピ」

「そう思うなら、相応の行動をして欲しいよ」


どこに怒り任せで部屋を破壊する程の雷撃を放つ神獣を敬うヤツがいるのか?


「まぁ良いっピ、きっと賢者カマも直に目を覚ますッピ。

――でご主人。それはそれとして、オクリビトとしての使命はちゃんと果たしてもらうッピよ?」


世界を異世界の知識で救う、か。

そういえば『パン職人』としての職業ジョブを手に入れた時にそんな声が聴こえたな。気に留めてなかったけど。

「世界の危機が迫っているッピ、我らで何とかするっピよ!」

ヤル気に満ちたサンちゃんだが、どんな危機が迫っているのかわからないから手の打ちようがない。


「そう言ってもなぁ、本当にパン屋のオレで世界の危機が解決出来るのかな」

「大丈夫ですよ、コムギさんなら!

アタシも一緒に頑張るであります!!」


ふんす!と鼻息を荒くしてリーンも賛同する。

期待も込めたキラキラと輝く眼でヤル気をアピールされるとさすがに断れない。

 

「あら、それなら私も協力しちゃうわ♪」


――ビクッ! 

背後から掛けられる声の主はどうやらしっかり目を覚ましたらしい。


「世界に3人しかいない賢者の私が手伝えば鬼に金棒、賢者に魔導書よぉ♪」

「なにその例え、聞いた事ないよ?」

「あらやだ!知識はチカラなりよ?

知らない事を恥じず、貪欲に学ぶのが真理に至る王道なのよ♪」


真理、ねぇ。

でも確かに何かを成す為には、貪欲に学ぶ。

本当に大切な事だ、この言葉こそ真理への入口とも言えるかもしれない。


「聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥、ってヤツか」

「そうね。無知な自分から目を背け、取り繕ったり誤魔化そうとすると必ず後悔するものよ。

自分に対して潔くある事、日々そうありたいと思うわ」

「「「………」」」


「――あら?どうしたの、皆。

そんなに驚いた顔して」


「いや――マトモな事言うなぁって感心した」

「はい、すっごく勉強になるであります!」

「なんだか含蓄があったッピね」


「「「見た目によらず――ぷふっ」」」


「どうゆう意味よぉ!

なんで笑うわけぇ!?

今、賢者としてめっちゃ良い事言ってたわよねぇ⁉」


心外だと憤慨するカマさんだが、オレ達は爆発わらいを抑えるのを必死だった。


カッコいい金言を語る大きなブロッコリー。


目覚めた彼の髪が爆発アフロしているのに気付くはいつだろうか――……。

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