第40話 割り込み

「はい、こちらメロンパン3個ですね

ありがとうございます!!」


ウルがテキパキとお客様を捌いていく。

勘定の間違いや数え間違いも一切なく、迅速に。

さすが商人の経験が活きているだけあって頼りになる。

これならこの大行列もなんとかなるかな。

あ、王様が見えた。

めっちゃウキウキしてるな。

まだかな?まだかな?と期待している様子は街の若者とまるで変わらない。


そんな中、急にガヤガヤ、ザワザワとお客様の列がざわつき始める。

どうやら貴族の人が強引な割り込みしているらしい。


「おい、どけ!

ここか、メロンパンがあるのは?」


列を無視して、いかつい男たちと貴族が3人目の前に現れた。


「おお、これだこれだ!!

よし、これを全て寄越せ!」


小太りのいかにも悪い貴族の象徴という様子ですごい横柄な態度、正直めんどくさくてキライなタイプだ。


「よく見つけたぞ!

平民が作った食べ物などとバカに出来ん代物だ、国王陛下が絶賛なさったのだからな!

これを陛下に献上すれば出世まちがいなし。

平民たちにはもったいないわい。

ガハハハハハ!!」


うわ、コイツには売りたくねぇー、、、。

どうしようかと悩んでいると。


スッ、、、

ウルが静かに彼らの前に立つ。


「お客様」


「おお、なんだ?準備できたのか??」


「お引き取りください」

満面の営業スマイル。


「な。なんだと!?」


「おや、聞き取れませんでしたか。

ではもう一度。

お引き取りくださいませ」


「ば、バカにするのか。きさま!!」


「いえいえ。当方としてはあなた様に販売する事は出来かねますので、お引き取りください。と申し上げているのです」


「カネは払うといっているのになぜだ!」


「では申し上げます。

我々は代金と商品の交換だけがしたいのではないのです。

『お客様の笑顔、心からの優しい表情を見たい』『ドキドキする期待の気持ちに応えたい』、お客様とは『心の取引』をしているのです。


あなた様のような心のない取引には応じられません。


どうぞお引き取りを」


オレの想いがそのまま言葉になったようにウルが貴族たちに言い放つ。周りの観衆達からも拍手が止まらない。

そして、赤っ恥をかいた貴族はみるみる顔を紅潮させ苛立ちを露にする。


「ぐ、ぬぬぬぬ!

きさま!

このワシに向かってその口の聞き方はなんだ!平民は平民らしく、言うことを聞けばよいのだ!!」



叱責の言葉にウルは動じない。

ただまっすぐに相手の目を見つめていた。

正直腹に据えかねる想いはあるのかもしれないが立派にオレたちの、お客様たちへの姿勢を真摯に伝えている。同じ店で働く従業員としてこれほど嬉しいことはない。

オレはウルの横に立ち、頭を下げる。


「店長のコムギです。

部下の失礼な態度、誠に申し訳ありません」


「ふん、最初から言わねば良いものを。さあメロンパンを、、、」


「いえ、お渡しするわけには参りません。

パンは小さく安い手に入りやすいもの。軽んじられるのも無理はありません。

しかしそのパンには我々の想いや時間が詰まっています。

パンを通して、お客様の美味しいと喜ぶ笑顔、毎日の生活に寄り添う事が我々の仕事なのです。

そして、それは1人占めしてはならない。

美味しいものは皆で分かち合うからこそ、より感動や喜びは大きく心地よくなるのです。

国王陛下もそんな民の小さな幸せ感じられる治世を望んでらっしゃいます。

それがわからないのであれば、責任者としてあなた様方に売るわけには参りません。


どうか、お引き取りください」


全く納得する様子もなく、むしろ開き直った様子の貴族が最後の手段に訴え出た。


「ふん、ならば仕方ない。

痛い目に合わないとわからないようだな、やってしまえ!」


キャアアアアア!


辺りに悲鳴が響き渡る。

まずい!

取り巻き達が武器を持ち、オレ達に襲いかかってくる。


「ひゃははは!」


威嚇と剣を振り回しながら、向かってくる男達。観衆達は下がり、今オレたちは観衆達に丸く囲まれている形になっている。


逃げ場がないなら仕方ない、まずは逃げるしかないか!!


ぶわっ!


「ええっ!?ちょっ、、」

いきなりの事に驚くウルを抱きかかえ、オレは覚えたばかりの風魔法で『空に』逃げる。

「ふぅ、、危なかったぁ」


「あ、、あの。店長?

もしかして、今我々は空を飛んでませんか?」


ウルは目を丸くし、空中の景色を見ながら混乱しながらも現状を理解しようと努めている。


「ん、飛んでるけど、大丈夫?ケガない??」


「はい、大丈夫ですが、恐いです」


「剣は恐いよな、どうしよう。」


「いえ、そうではなく、、」


(しかし、失敗だったかな?

これは目立ちすぎる。とりあえず降りよう。

下にいる人たちが、全員見てるし)


襲いかかってきた奴らも含め、皆信じられない、夢でも見ているのかというような間の抜けた顔でこちらを見ている。


(よっ、と。ふぅ、やっぱり飛ぶのは疲れるな、ウルを抱えていたし)


「な、なんなんだ、きさまは!?

ええい、かかれぇ!!」


(とりあえず動きを止めるか。

他のお客様の迷惑だしな)


オレは両手で地面に触れ、足元が凍るイメージをする。


パキパキパキ、、、

「「「「「う、うわああぁぁぁ」」」」」

「「「「「な、なんだ!これ!!」」」」」


彼らの足下を凍らせ、彼等はあわてふためきながら身動きが取れなくなる。


「これで襲われる心配はなくなったかな、一安心だ」


「きっ、きさま、、、一体何の職業(ジョブ)なんだ!?

信じないぞ、、!

なぜ、なぜそんなことができる!!」


目の前の現実を受け入れがたいからか貴族は狼狽しつつ、喚くように糾弾するがオレの答えは決まっている。


「オレは《パン職人》だ!

パン屋をなめるんじゃない!!」


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