第46話 模倣だけ、の結末

コムギ達が『クロワッサン』を完成させていたその頃。


「「「「ハハハハハ!」」」」


とある貴族の屋敷では、数人の貴族が高笑いしながら優雅なディナーを楽しんでいた。


「笑いが止まらんわ」

「こんなに売れるとはな」

「しかし材料と設備投資にこんなにコストがかかるとは…」

「かまわん、今は売れるだけ売ればよいのだ、利益はあとから出てくるわ!」


彼らは以前、店頭で騒ぎを起こした貴族たち、それと貴族達と共に食事を取るのは彼らに協力する商人だ。


「しかし、マネよ。

お主も悪よのう、あのショーニ商会を研究しその模倣品で我ら協力のもと、貴族とのコネクション作りと金儲けの両方を一気に行うとは見事なやり方よな」


「いえいえ、皆様のご協力があればこそです。これからもご贔屓にお願いいたしますよ」


「ふっはっはは!任しておくがよい、我らと共にこの王国を導いてやろうではないか!!」


商人、マネは無言の笑顔で返す。

当たり障りのない、爽やかな笑顔だ。

だが、その「仮面」の下にはなにがあるのか。それはまだ誰も知らない。悟らせないことが長く商人を続ける秘訣だと知っているからだ。


酒も入っているせいか、同じ話の繰り返しに辟易したマネは話題を切り替えるため、貴族達に問い掛ける。

「皆様、このパンの販売もそろそろ頭打ちかと。次の手を考える必要があるかと思われますが、いかがでしょうか?」


そう。

彼らは目立ち自分達も売り込みつつ、話題性のあるパンの販売も貴族層には一通り売ってしまい、あらかた稼げる分は稼いでしまったのだ。


選んだ販売戦略として、販売網の貴族層への住み分けは良策だが、次を考えなければ魅力なしと飽きられてしまう。加えて移ろいやすい貴族たちの興味を引き続けるのは中々に難しい。それゆえに、興味と期待の熱が覚めないうちに次々に商品を提案する必要があるのだ。巨額の設備投資の借金も返さねばならないのだから。


だが、この貴族どもは危機感を抱くこともなく吐き捨てるように告げる。


「ふん、まだまだメロンパンでいけるわ」

「そうだ、王のお気に入りなのだぞ?切り替える理由がない」

「今のうちにさらに販売数を増やすのだ!」


などと1つの商品に過信し、執着しすぎている。非常に危険な思考だ、ブームの終わりや自分達がしている模倣をいつまた誰かがやるとも限らないのに…。


「…左様でございますか…」

こいつらは商売をわかっていない。

儲かる、という話が出たときにはすでに後発、つまりタイミングが遅いのだ。それで売れるのは話題が残っている期間の最初だけだ。


ブームが終わろうとする短い間に撤退の見極めを早くするか、商品のバリエーションを増やすかをしなければ、あっという間に在庫の山を抱えることになる。

我らはショーニ商会の後追いだが、順調に販売網を築き上げつつある今のうちに仕掛けなければいけない。それがわからず、驕るとはこの先が読めてしまう…。


「切り時」か……?



そしてこの数日後、ショーニ商会が『満月メロンパン』と『三日月クロワッサン』という商品を売りだし始めた。

「やられた!先に仕掛けられてしまった!

これではまずい、我らも何か仕掛けなければ、、」貴族達は大いにあわてふためいたが時すでに遅し。その願いが叶うことはなかった。メロンパンだけに固執した彼らはいつの間にか顧客の貴族たちに見向きもされなくなっていた。 そして模倣品の販売での悪どい商売をしたとの謗りを受け、回収できない巨額の設備投資の借金を返済しながら人知れず彼等は没落への道を静かに歩んでいくことになった。


彼等の敗因はただ1つ。

「こだわりすぎた」のだ。


そして、その中にマネの姿はなかった。

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