第28話 風よ

 愕然とした様子のオレを無視してショー二さんがターゲットとなる魔物について説明を始める。


「食べられる美味なタマゴを産むのは、チキンバードという魔物でして南の森林地帯に群生しております。


 とても臆病で、警戒心が強く、繁殖期がちょうど終わる時期なのでもしかしたら期待できないかもしれません……。

みなの命運がかかっております、急ぎましょう!」


――マジか。


◇◇◇


 タマゴを安定して手に入れるためにはその鳥をカウカウみたく確保するのが良いだろう。


 南の森林地帯まで来たまでは良かったのだが近寄る度に、バサバサっと大きな羽を広げエッグバードは空へ逃げてしまう。

予想以上に警戒心が強い魔物だ。


「うーん、逃げられてばかりだ。

どうすればいいかなぁ……」


「先回りして捕獲出来れば良いのですが、相手は空の上ですからね……」


 今話したのは、長身痩躯ながらしなやかに鍛えられた身体を持つ男。

ミステリアスな雰囲気を纏った切れ長な目と太陽光により灰銀髪がキラキラと輝いている。


 今日はカレンとシオンだけじゃなく、副会長のウルさんも護衛で一緒に来た。

本人いわく、商会にとって最大級の案件に携わる問題なので立候補したとの事だけど。


「鳥が相手だし、あとはトリモチとか捕獲罠だけど効果あるかな?」


「まず効果は無いでしょうな、それで捕獲出来ているならすでに誰かが捕獲法を確立していますよ」


そりゃそうだよね。

だから今も苦労してるわけだし。

空の上ばかりは手も足も出ないしどうしようもないよな。


「エッグバードの好きなものとか何かありませんかね、カウカウはそれを使って捕獲出来たんですけど」


 ただ、全身にかけたりするのはもう止めてほしい。しばらく匂いが取れなかったし……。


「なくはないですが、今ここにはありません。エッグバードが好むのは川の中にいる生きた魚ですから」


 ホッ……――じゃない。

ダメか。

がっくり肩を落とす。

ついに捕える望みが無くなった。


 あーあ、オレも鳥みたく空を飛べたらなあ……。

こう……ビュッと風に乗って……ん⁉


「「きゃああっ⁉」」


 何気なく手を振ったらカレンとシオンのキュロットスカートが風でなびく。

小さな突風が手から視線の先まで起きたのだ。

……ちょっとギリギリなところだった。

下にスパッツ履いてるようなのでセーフ、だよね?

 2人はスカートを押さえ、何が起きたのか混乱しつつも、恥じらいから顔を赤らめている。――そして、ウルさんも少し顔を赤らめている。

……つい見てしまうのは男の悲しい性だよな、しかし今の風は……。


「まさか本当に……?」


 試しに手から小さく風を起こすイメージをする。描くイメージは扇風機からドライヤーくらいの間くらいの風速。


――ブオオオォォォォ!


手の平からイメージ通りの風が出た。

本当に、まさか……。


 じゃあもし、この風を足の裏から出してみたら――いや出せるか?

もしかして……いや、物は試しだ。


 ゆっくり、慎重に、足の裏から風が起きるイメージをする。

先程と同じ様に風が起きる。

徐々に強さを増し、不安定ながらもオレの身体をふわふわと少しずつ空へ浮かべようとしたその瞬間。


――ガン‼‼


「痛ってぇ⁉」


 完全に足が地面から離れると同時にオレはバランスを崩し、地面に後頭部をぶつける。


「ぐおおぉぉ……⁉痛てえええっ‼‼」


 受け身を取れず、無防備な後頭部に与えられた激痛に悶絶する。


「コムギ殿、大丈夫ですか⁉

かなり強く頭を打ちましたが……」


「い、いえ……大丈夫です。すみません」


 めっちゃ痛いが、格好悪いので何とか取り繕い、見栄を張る。

一瞬浮いただけだが、感覚的にはスノーボードとかウェイクボードの浮遊感が近そうだ。

あと何回か転ぶのを覚悟すれば、徐々に身体が覚えてくるだろう――ひたすら反復だな。


――ガン!

――ガン!!

――ガン!!!


 浮いては転び、浮いては転びを繰り返し、頭痛や転倒時の痛みに耐え、少しずつだがバランスを取れるようになってきた。

だが徐々にボロボロになるオレを周りにいたウルさん達が心配そうに見守っている。

 身体のあちこちが痛いが我慢だ。

でも感覚を掴めてきたから、なんだかいけそうな気がしてきたぞ。


 そして1時間くらい経った頃。


――ふわ……ブオォォ……‼‼


 なんとかバランスを保ったまま3メートルくらいは浮く事が出来るようになった。

飛行ではなく、浮遊だけど大きな進歩だ。


 あとはスピードか……。

鳥に追い付くようなスピードだとかなりの速さが必要だから、まだまだ先は遠そうだ……。

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