第29話 いざ!!
さてどうするか。
スピード……か。
こう――ビューっ!と飛びたいよな。
足の裏からジェット噴射!みたいな。
出すとしたら突風みたいな強さかな?
人を飛ばすほどの突風……。
あ、突風というより竜巻の方が強い風のイメージだよな。あとは、ビル風とか、隙間風とか。
さっきはただ普通に風を出しただけだっただけだから失敗が続いたのか……?
――となると、もしかしたら噴出口を小さくしつつ、勢いよく竜巻の様な強い風を出せば出来るんじゃないか?
◇◇◇
さらに1時間位、試行錯誤を繰り返し、あれやこれやと試してみたら……出来た。
足の裏から竜巻を出す事で想像していたより、かなり自由に飛べる!
一回、二回と徐々に高さと安定感を増し、今では20メートルくらいまで飛び上がっている。持続時間も今は5分くらい空を飛べている。練習次第で更にイケそうだ。
空中から眼下にいるウル達を見ると、口をあんぐりと開け驚愕の表情のまま硬直している。
そりゃそうだよな、人が飛んでるんだもん。自分自身でも信じられないよ。
いやあ、この【
オレの『パン職人』の能力、どうやらいろいろな可能性を秘めていそうだ。
その時、オレのアタマに名案が閃く。
新商品やサービスのアイデアはいつも突然舞い降りてくる。
「――‼」
待てよ?
これは……もしかしたら空を飛んでパンの配達が出来るんじゃ⁉
よし、思い付いた‼
ベーカリー・コムギの新サービス!
『空飛ぶパン、フライパン』
これインパクトあるし、売れると思うなぁ!なんだか楽しみになってきた!
奇想天外かもしれない。
出来るかどうかはわからなくても、いつでも新しいアイデアを考えたり、夢想するのはワクワクするし楽しいもんだ。
期待に胸を躍らせ、さらに練習を続けることさらに2時間。なんだかんだで、まるまる半日練習にあててしまったがコツは掴めたぞ。
これだけ空を自在に飛べれば、もうエッグバードの捕獲は問題ないな!
◇◇◇
「待てえぇぁ‼こるあああぁぁぁ‼‼」
『ピッ……ピェッ……⁉
(なんか、人が!人が飛んでるんですけど⁉)』
『ギャァァァァ‼⁉
(ヤバイヤバイヤバイよ、なんなのこの速さっ‼⁉)』
『ピエエエ………。
(まさか人間に捕まってしまうなんて……無念)』
練習の甲斐あって、捕えるまでギャアギャアと騒ぎ抵抗していたエッグバード達だが、最後には観念したらしくなんとか捕獲する事が出来た。
そりゃ人が飛んで捕まえようと陸へ空へとしつこく追い掛けてくるんだもんな、そりゃビックリするよ。
今回は前回のカウカウの時の反省を踏まえ、『買い縄』をたくさん用意してきたし、人手もウルさん1人分多いので全部で50羽捕獲出来た。
これでタマゴを含めてメロンパンの材料の心配がなくなった!
思い切りパンを作れるという期待と喜びからオレはルンルンと鼻歌交じりで上機嫌になっていた。
――反対に、エッグバードの捕獲を終え、後ろで休んでいる3人は少し青褪めながらひそひそと話し込んでいた。
「お、おい。
この御仁はなんなんだ⁉
見た事もない魔法で飛んでたぞ!
あれは風魔法か?お前達知っていたのか⁇」
「いやいやっ、空を飛べるなんて知らなかったですっ」
「それに、そもそも色々な魔法を使える時点でおかしいかと……」
「《パン職人》というのはとてつもないのだな……しかも貴重なエッグバードをこんなに沢山生きたまま……。
夢でも見ているのだろうか、疲れているのかもしれん」
「「副会長、これは現実ですよっ⁉」」
「うーむ……しかし会長はどんなコネでこの御仁を……?」
先日の会議以来、副会長のウルは一番現場に近い最高責任者として、コムギの評価についてどうしたものかと頭を悩ませていた。
(突如として現れた
優れた知見を持ち、前代未聞の
とりあえず出来る限り近くで『脅威』となるのかどうなのか、慎重に見極めようと決めていたのだが、コムギはウルの更に斜め上を行く男と認識を改めるしかなかった。
「今の自分では計り知れない程の男、と言う事か……」
常に冷静沈着に。
堅実かつ現実的な思考をする事で、若くして新進気鋭の商会で副会長まで上り詰め、王国の商人なら誰もが手腕を認める切れ者。
時に無理を道理で通し、無理矢理にでも成果を出す『狂犬』という二つ名を持つウルの心は、常識の範疇を超えたコムギに心惹かれていた。
◇◇◇
首都パリスに戻り、話し合いの結果。
捕獲されたエッグバードはカウカウ達のいる牧場の一画で飼う事となった。
エッグバード達のために少し増設したので、ショー二さん曰くタマゴによる更なる儲けも期待できると息巻いていた。
そしてタマゴと乳の安定供給により、ついにメロンパン作りと諸侯会議に向けた対策のためオレ達は動き出した。
ショーニさん、ウルさんら商会の面々と会議や魔物の食材を使ったメロンパンの試行錯誤、研修など連日連夜の激務が約1ヶ月続き……ついにその日を迎えることとなった。
「コムギ店長様」
「いや……ウルさん、様付けはやめてくださいよ、なんだか面映いです」
「いえ、今の私はベーカリー・コムギのスタッフ。なんなりと使ってください。
コムギ店長に一生ついていきますから‼」
ピシッと背筋を伸ばし、妙にキラっキラっした目でオレを見るウル。やる気に満ちた熱い眼差しと笑顔がやけに眩しい。
うちの店の刺繍が入ったコックコートに身を包んでいる彼はこの1ヶ月の間にベーカリー・コムギのスタッフになった。
どうゆう訳かと訊ねたショーニさん曰く本人の強い希望らしい。
「一生の師を見つけました!
知識、経験、度量何もかもが素晴らしい。
自分の成長や事業の成長も含め、彼についていけば間違いない!」
――と謎の高評価と共にすぱっと商会を辞め、うちに来たと言う訳だ。
さらに本人に話を聴くと、自らメロンパンを作ったり、話し合いや仕事を通してパン屋の楽しさに目覚めたらしい。
そして一念発起して転職してきたと言う訳だ。確かに人手不足だし、筋も良いからオレとしては助かるけど、商会は副会長が辞めて大丈夫なのか?
ま、まぁショー二さんがオッケー出したんだし、大丈夫なんだろう。
「店長、準備できました!
ショー二会長も待ってます、行きましょう‼」
――よし、勝負の時だ。
行くとするか。
いざ、諸侯会議へ‼
魔物パン『メロンパン』の御披露目だ‼‼
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