第52話 目の付け所

使者が来るまで図らずも観光することになったわけだが、はてさてどうしたものか…。


「ショーニさん、どこが見所なんですか?

観光と言われても、初めてですし情報が無さすぎて」


「ハハハ、そうですよね。

では私が案内しますよ。

詳しいわけではないですが、大体の見所は知ってますから」


「ありがとうございます。

じゃお願いしますね。

…本当にウルは別行動で大丈夫?」


「はい、店長すみません。

せっかくの機会をこのような形にしてしまい……」


申し訳なさそうに謝罪するウル。

どこか弱気になっているかの様な姿は不安でしかない。しかし、本人の意思は尊重してあげるべきだと思い、声を掛ける。


「いいよ、いろいろ事情があるんでしょ?深くは聞かない。ウルがしなければならない事とやらをしっかりしてきて?久しぶりの帰国みたいだしさ」


「わかりました、後ほど合流します、ではお先に失礼します」


そう言ってウルは1人歩いていった。

その背中は寂しく、足取りはどこか重たげた。


「…じゃ我々も行きましょうか、コムギさん」

後ろ髪を引かれる思いでウルを見送り、オレはショーニさんに付いて回ることになった。


街の中は時代劇で見る長屋作りが多く、瓦屋根がずっと続いている。侍や町娘、商人みな和服。洋服を見慣れたせいか違和感を感じるがちょっとタイムスリップしたような気分だな、きっと昔の日本もこんな風だったのかもしれない。


初めて見る景色に興奮しながら何か面白いものはないかとゆっくり散策する。食べ物、雑貨、呉服屋に問屋、あらゆる店が刺激になる。


ふと、気付くと売られている食べ物にパンがない。…もしかしたら、この国でパンを売ればかなり儲かるのではなかろうか?



競合が無く、活気もある。

支店を出すなら間違いなく売れる見込みがある良い条件が揃っているのだ。

思わず、大繁盛する店を夢想してしてしまう。


「良かった、楽しんでもらえているようで何よりです。どうですか、何か良い発見でもありましたか?」


とショーニさんが微笑みながら尋ねてくる。


「いえ、パンをここで売ったら楽しそうだな、と思いまして。たぶんパンってこの国には無いんですよね?」


「そうですね。この国にパンはありません。同じ穀物が主食でも米がメインですから。


もしパンを売るなら、ライバルがおらず、未知の商品を、自分が決めた価格で売る事が出来る。これほどの好条件が揃えば間違いなく商売として成功するでしょう。


ただ、この国では『まだ』無理ですがね…」


「『まだ』?」


「ええ、この国ではお伝えした通り他国との国交がありません。故に独自の文化を独自に進歩させ今日に至るのです、良し悪し含めてね。


それだけに、余所からの物はありがたられるか、煙たがられるか、そのどちらかに大きく割れるだろうとワタシは考えています。

やはり初めてはみな不安ですから。


コムギさんのパンには、今でも私達ですら驚くのです。彼らからすればこの世のものとは思えない、とすら感じるかもしれません。もちろん、批判や拒否反応もかなり出るでしょう。致命的なマイナスイメージが付いたらお終いです。

そうならないよう、しっかりと外堀をゆっくり埋めてから商売をしていけばいいでしょうね」


「さすが本職の商人、よく考えてますね?」


「ははは、コムギさんも目の付け所がさすがですよ、本当に商人向きだと思います。

あのウルが認めるだけありますよ」


そう、いつかこの話題にオレは触れなきゃいけないと思っていた。まさに今、ちょうどいい機会なのかもしれない。

意を決してショー二さんに問い掛けてみる。


「ショー二さんにお願いがあります。

ウルについて、ショーニさんが教えられる範囲で構いません。何があったのか教えて頂けませんか?


…今日の謁見といい、明らかに様子がおかしい。 あんなウルは今まで見たことがない。

いつも冷静沈着なウルがあんなに弱気になるなんて、とても心配ですよ…」


オレの問い掛けを予想していたかのように動じない様子のショー二さん。

少し考え込むように目を瞑り、ゆっくりと静かに口を開き、放たれたその答えは…。

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