第51話 含み

父上って…殿様はウルの親父さんなのか。


ショーニさんとも知り合いだし、何かあったのだろうな。あまり深入りは出来ない空気だ。


「ふん…ここに足を踏み入れたということはよほどの覚悟があるのだと『今は』見るとしよう。


それほどの覚悟があるとして、今日はどんな用向きだ?」


言葉には重み。

凄みを増す威圧感…!!

思わず尻込みしてしまうほどの重い空気がのし掛かる。言葉だけで相手にこれだけの怖気を与えるとは…。


だが言わねばならない、米粉が欲しいのだと。これほどの重圧の中で、慎重に検討すべき議題を挙げるなんて並大抵の心臓じゃ無理だ。その証拠にウルは完全に気圧されている、もちろんオレも…。


頼みの綱、ショーニさんはというとケロリと澄ました顔だ。

「ブーランジュ国王、イストの名代として申し上げます。この度は国交の樹立および米粉の取り扱いをお願いに参りました。

どうかご検討を」


しん……と静まり返る。


それは言葉の重大さの表れ。

今までの歴史を覆す、大それた提案。もし、これを認めれば内外に大きな波紋が広がるだろう。その可能性は決して良いものだけではない。危険が増すことにもなるのだから。


いや…もしかしたら危険だけが増し、良いことがないかもしれない。あらゆる可能性を孕む今回の提案。


さて…殿様はどう見るのか。

少なくとも緊張の空気が緩む気配はない。

すると、殿様がわずかに体勢を変え、真っ直ぐにショーニさんを凝視し尋ねる。


「なぜだ?」


一言。

あらゆる意図を明確にせよ。

その一言に国の主導者としての決断を下すための意志が集約されていた。それだけ密度のある重い一言だ。

生半可な答えでは決して許されない。

ショーニさんはこの質問にどう応じる!?


「なぜ、か。

『全て』を『ここ』で申し上げて、本当によろしいのですか?」


なんだ……?

ショーニさんらしくない、挑発的で含みのある言い方だ。複雑な事情があると、その思わせぶりな台詞が妙に気になってしまう。


「…ふふ、あいかわらずの食えないヤツよな。わかった、別に時間を取るとしよう。

今日はこれまでだな。

使者を出す、それまでは観光でもしていくといいだろう。


そして、ウルよ。

この地に戻った貴様にはやるべきことがあるはずだ、忘れるな。

以上だ、下がってよし」


「「「はっ」」」


三者三様の思いを抱え、終始重い空気に包まれた謁見の時間は終わった。終えた今だからわかる。思った以上に重大な話に巻き込まれたのだと、オレはあらためて自覚した。


「あー…早く帰ってパンを作りたいなぁ……」


「ははは、店長は肝が太いのかわかりませんが、ぶれませんね。

その逞しさが時々羨ましいですよ……」


暗く沈んだ、影のある笑顔でウルが冗談めかして言う。

(羨ましい?

ウル、本当にどうしたんだ…?)


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