第50話 謁見の間にて

この国のトップ相手に商談。

改めて考えるとただのパン職人であるオレが立ち会うなんて、なんだか場違いな気がする。しかし、これしか手段がないなら仕方ない。


大それた話だ、実現のためにショーニさんはこれからどうすればわかっているのだろうか?と聞いてみた。


「その相手はどこにいるんです?

約束とかも取り付ける必要あるんじゃ?」


「大丈夫です。

ほら、あそこにそびえ立つ城にトップである殿様はいますよ」


あれか、この市場からでも見える巨大な城。瓦屋根と鯱、明らかに見たことある日本の城郭そっくりだ。

どんな人が殿様なんだろうか?

うちの王様がラフな感じだから、みんなあんな感じじゃないとは思いたいけど。


市場からはカゴと呼ばれる、人に運んでもらうハコ型の乗り物で移動する。30分ほどだろうか、市場から中々の距離を走って運んでもらう。


門の前に立つと、より城の巨大さが感じられる。堂々とした、来るものを拒むかのように頑丈かつ堅牢そうな、威圧感すら感じる程固く閉ざされた門。

門前に立つ門番2人にショーニさんが何やら話しかけると、すぐにゴゴゴ、と重い音と共に門が開かれた。

どうやらあらかじめ話は通っていたらしい。


門からしばらく道なりに進むと、開けた眼前には和風庭園が広がっていた。詫び錆びの世界という詞がぴったりな華美さのない、厳格さと静謐さの中にある形式美というようなものが感じられる。


「静かで、なんだか落ち着きますね」


「そうですね。やはり緊張してますか?」


「しますよ、そりゃ。ショーニさんはしないんですか?」


「私もしますよ。でもそう見せないだけです。商人はナメられたら終わりですからね 」


なるほど、ショーニさんの余裕そうな落ち着きは経験値の差から来るものなのか。

気になるのはウルだ。

先程から全く口を開かずただ黙って歩くだけだ。顔色もどこか悪いように見える。


「ウル、大丈夫?」


「…いえ、大丈夫です。お気遣いなく。

ありがとうございます」


―――――――


ワフウの国では建物の中に入るにあたり靴を脱ぐ。よく考えたら久しぶりの感覚かもしれない。武士や侍といった表現が似合う案内の人に付き従い、長い廊下を進むと謁見の間に通される。


そこは畳張りの天井の高い空間。奥行きがあり、最奥は少し段が高く取られている。

通されたオレ達は、これまた久しぶりの正座でこの国の主導者たる殿様を待つことに。


「コムギさんは正座がわかりますか、良かった。礼儀作法は心証を損ねないためにも大切ですからね」


「ええまあ、足がしびれないか心配はありますけど」


「少しの我慢ですね、辛抱してください」


待っている間、果たして上手く行くのか、その心配がぐるぐると頭のなかで駆け巡る。


「殿様のおなーりー……!!」


近習と呼ばれる側近の声が響く。オレたちはその声を聞くなり平伏し、頭を下げる。


ドスドスドス…


廊下から人が力強く歩く音がする。

顔を下げているので相手の姿が見えないが、どうやら上座に座ったようだ。


「表をあげよ」


「「「はっ!」」」


その声に顔を上げて、声の主たる主導者を見る。

細身だが、キリッと引き締まった筋肉を持っているとわかる体躯の中年男性だ。

その顔の皺には責任感とやる気に満ち溢れた威厳が刻まれているようだった。

しかし何より気になるのは、どこかで見たような印象だ…?


「久しぶりだな、ショーニよ」


「はい。ご無沙汰しております。

殿様におかれましてはご機嫌麗しく……」


(え!?ショーニさん知り合いなの??

だから余裕があったのか)


「『アイツ』はどうだ?上手くやれてるか?」


「そうですね。民と距離が近く、評判も概ね良いですよ」


「そうか、それは良かった。心配だったからな、無事に勤まるものかなと」


「役目が人をそれにふさわしいように成長させるのですよ」


「そうだな、わしもそうだったからな」


『アイツ』?誰だ??


…ブーランジュ国王、イスト陛下のことです。とウルが耳打ちしてくれる。

殿様が王様を気に掛けるということは昔から繋がりがあるのか。

ショーニさんが一体どんな繋がりを持っているのか全くわからない。

そしてウルに視線を向けると殿様の表現が少し固くなる。


「…久しぶりだな、息災か」


「…はい」


ウルと殿様が会話を交わす。

ここも知り合いなのか、なんだか疎外感が……。


「勝手に飛び出し、もう何年になるか。

貴様は今何をしているのだ?

なぜここにいる?

よく顔を出せたな??」


刺々しい言葉で捲し立て、すごい圧を感じる!そして、言葉の節々からビリビリと怒気を感じる。なんでこんな空気になるんだ?


その空気に当てられながらも、意を決したかのように、殿様に強い覚悟を秘めた睨むような強い視線を向けつつ、ウルが口を開く。


「ようやく道を見つけました。

我が進むべき道を。

こちらのコムギ様のもと共に歩み、自らを研鑽し高め、生涯を捧げる覚悟です。

その意思を伝えるため、この度ショーニ様、に同行し、こちらに参りました。


…父上」


え、親子!?!?

衝撃の事実による応酬が目の前で繰り広げられていた。

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