第53話 期待と逃亡

ウルについて聞かなければならない。


店長として、1人の人間として、何か力になることがあるかもしれない。

あんなに暗いウルを見たら、どうしても放っておく事はオレには出来ない。


その気持ちを読み取られたのか、ショーニさんがふぅっと息を吐く。


「それを聞いて、コムギさんはどうしたいんですか?」


こちらの意思の強さの確認も含めてだろう、真剣な眼差しでオレと視線を交わす。


「わかりません。

ただ、彼にある背景やこれまでを知らないとこのまま先も一緒に働けないと思うんですよ。

あんな親子の対面を見てしまった以上、少なからずギクシャクするでしょうしね。


オレとしては、そうゆうのはイヤなんでちゃんと把握出来ることは把握したい。

その上でどうしたら良いのかを考えたいんです」


オレなりの決意をしっかりとショー二さんに伝える。彼を信じたい、これからのために、嘘偽りのない事実を知りたい。


しばしの静寂。

そして、確認できたとの証拠だろうか。

ゆっくり言葉を選びながら、ショー二さんが語り始める。


「…ウルは先程謁見した殿様の次男です。

次期候補として、秀才だった長男よりも期待されていた天才だったそうです。期待の裏返しか、それは厳しい英才教育を施されたそうです。しかしウルは天賦の才により挫折も失敗もせず順調に成長していきました。


彼は次第に成長するにつれ、周囲から次々と理想を押し付けられていくようになったらしいのです。


どれだけの高望みをされたのでしょうか、その期待が重すぎたのか嫌気が指したのか。

それとも、もう1人の後継者候補である慕う兄への気遣いからなのか。


いつしか期待されていた天才の姿は鳴りを潜め、遊び呆けたり悪さをするようになりまして。それらの蛮行があまりにも目につくため、ついにはお父君が勘当なさいました。


そんな行き宛のなくなったウルを、たまたま行商でワフウに来ていた私が引き取ったというわけです。近況などについては手紙で殿様に連絡を時々してありますけどね。

だから殿様はコムギさんのことも御存知なんですよ」


そうだったのか…。

期待からの重圧に耐えられなかった、か。

国の代表になりうる期待なんて、想像できないけどそのプレッシャーは相当なものだろうな。

しかも本人が望むわけでなく、周囲からの雑音や期待をムリに押し付けられるのだから、ウルからすればたまったものではないだろう。


もちろん悪さはよくないが、きっと周囲のせいにしたくなったり、ストレスを発散させないと耐えられなかったんだろう。


帰る場所が生まれた国なのに、このワフウにないと考えるとウルが可哀想だ。

せめて、オレたちと一緒にいるときがウルにとって安らいだり充実した時間であって欲しい、そう願うばかりだ。


(あれ?待てよ)


ショーニさんに思いついたふとした疑問をぶつける。


「勘当されているなら、ウルはどこに行ったんですか?」


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