第5話 魔物狩りとあんぱん

「ほ、本当だな⁉


魔石とやらがあれば大事な食材達が助かるんだな⁉」


「は、はい……⁉たぶん、ですけど……‼」


「どうすればいいんだ!

魔石について教えてくれ‼」


「教えます!教えますから、そんなに強く揺さぶらないで……うっぷ……」


 ガクンガクンと彼女の肩を揺さぶる。

そうは言っても、いてもたってもいられないのだ。

わかる?この気持ち⁉


「ご、ごほん。魔石を手に入れる方法は買うか採取するかの2つでして――」


「よし、じゃあ早速いこう!」


「へ……え⁉どこにですか⁉」


「もちろん、魔石を買いにだ!」


「え、あ……ちょ……む、無理ですよ‼」


「なぜだ⁉」


「高くて買えないからです‼‼」


「………なに?」


「だから、高くて買えないからです。

超高級品なので……」


「いくら?」


「1億ジュエル、小さな城が建つくらいです」


「城が建つくらい⁉魔石ってそんな高いの⁉」


「はい、数が少ない希少なものですから。

買う以外だと、あとは自然採取するしかありません。ですが、人には行けない超過酷な場所にあると聞きます……」


 八方塞がりじゃないか!

困った……どうしよう……。

しかし考えている間に食材たちは痛んでいく――仕方がない!



「……1億を手っ取り早く稼ぐにはどうしたらいい?」


「そんな手段はありません‼」


「ないの⁉なにかあるでしょ⁇」


「そうは言っても……うーん……」


真剣に彼女は考える。


「――1つだけ手段があります。

ただし危険なので決してオススメはできません。

……それでもいいですか?」


「いいよ、なんでも。教えてくれ‼」


「……魔物狩りです」


「魔物?なんだそれ?」


「え⁉

それも知らないんですか?

――魔物というのは不思議な力を持つ生物で、人に益をもたらす物もいれば、害を与える物もいます。

強さに応じたランクや賞金が決められていて、それが強かったり厄介であればあるほど報酬が高額になります」


「なるほど。

で、どこで、何を倒せば1億もらえるんだ?!」


「本気……なんですね、わかりました」


 本気だとも‼

可愛い食材達のため、パンのためだ‼

なんでもこい‼‼


「1億なら……ドラゴンですね」


「へ?」


「ごめん、聞き間違いじゃないよね?

今……ドラゴンって言った?」


「はい。確かにドラゴンと言いましたよ。

1億となればドラゴンクラスの難易度になりますね」


ど、ドラゴンだとぉぉぉぉぉぉ⁉

ファンタジーな生物まであるのか⁉


 ドラゴンってあれだろ、それってあのファンタジーによく出てくるアレだよな?

火を吹いたり飛んだりするヤツ!


そんなのをパン職人のオレが倒すって……⁉

むりむりむり‼

やっぱりこれ夢じゃないかしら……。

そうだ、夢だ。

これは夢なんだわ……オホホホホ……‼


――バシン!


「しっかりしてください!」


余りに想像を越えた話の連続で、つい錯乱してしまったが、女騎士さんから頬に強烈なビンタを食らう。

うぅむ……痛い。

――やはりこの状況は現実らしい。


「で、そのドラゴンはどこにいてどうやれば倒せるとかわかってるのかな?――攻略法とか」


ゲームとかなら攻略法あるだろ、こんなファンタジーな話なら間違いなくあるはず‼


「攻略法なんて聞いた事ないですよ……そんなのあったらみんなが倒せちゃいます。

聞いた話ではドラゴンは国境になっている山脈のどこかに生息しているらしいんですけど、詳しい場所まではちょっと……」


生息地を含め、情報が不足しているままじゃ何も身動きが取れない。なんとかもう少し具体的な情報を集めたいな。


「誰か知らないのか、一刻の猶予もないんだ!」


「う〜ん……あ、商会ならわかるかもしれません。」


「商会?」


「はい、そこではあらゆる品物が取引されています。もちろん情報も!

きっとそこにならドラゴンに関する情報もあるかもしれません」


「よし!じゃすぐ、そこへいこう!

――あっ、どうせ売れないかもしれないし、このパン達をお土産に持っていこう。

 君もごめんね、色々教えてくれてありがとう。

ちょっと希望が見えたよ。

お礼にここにある好きなパンを、好きなだけ食べてくれ。

つっても、あまり種類は無いけど……」


「えっ!いいんですか?

こんな、というより、食べられるんですか?

キレイで可愛くて、食べるのがもったいない……」


「ハハハ!

 そりゃ嬉しいな、でも遠慮しないでよ。

店番もいないし、これからオレが出掛けたら売れないしさ。全部その商会に持っていって捌くつもりだから」


「じゃ、じゃあ……これをいいですか?」


 躊躇いがちに恐る恐る彼女が指差したのは『あんぱん』だ。


「いいよ‼

包むのに時間かかるからちょっとここに座って待っててくれな」



〜女騎士〜


『あんぱん』?

そういう名前なのでしょうか。

食べられると聞きましたが……。


 柔らかい……。

持った感触はズッシリして、でも触った感触はふわふわで……。

あっ、ちょっと持った部分が凹んでしまいました。ん?凹んで薄くなったところから黒紫色のぶつぶつしたものが?なんでしょう?

とりあえず口にしてみましょうか。


 くちどけのよい生地に、甘さの程よいこの黒紫色の中身……とても上品な甘さだけど、さらりと口の中で生地と溶け合い……あっ‼もうなくなってしまいました。

こんなに美味しいものがあるなんて……。

でも食べ終わってしまいました……。


「どう?美味しかったみたいだね?

良かった!その顔が見れて嬉しいよ‼

それに君みたいな美人の笑顔だ、作ったこっちもなんだか癒されるよ、ありがとう。

遠慮せず、もっと食べていいよ。

まだたくさんあるから」


「い、いいんですか?」


「ああ、そんな風に美味しそうに食べるんだ。悪い人じゃなさそうだ。

お礼も兼ねてるんだし、どうぞどうぞ?」


じゃっ……じゃあ!

そう言って私はお言葉に甘えて、1つ……また1つ……と『あんぱん』全部で5つも食べてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る